人生初となるクルマ選びは、大きな決断となることに間違いはありません。そんな重大な決断をテレビ番組に委ねたのが今回、お話を聞いたお笑いコンビ「レインボー」の池田直人さん。「芸人さんだから、ネタのためだからでしょ!」と早合点することなかれ。番組に依頼した裏側には、亡き父親の知られざる思い出を探るという理由もあったのだ。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:手束 毅)
酔った勢いで『探偵!ナイトスクープ』へ応募
——まず聞きたいのが、なぜ番組に依頼されたかということです。池田さんは関西圏で絶大な人気を誇り、視聴者からの依頼を探偵局員が調査し解決する『探偵!ナイトスクープ』(ABCテレビ)へ「他界した父は、単身赴任中、クルマの部品を作っていたそうです。初めて購入するクルマは、父の作った部品が使われたクルマがいいので、探すのを手伝って欲しい」と依頼されていましたよね?
池田 まず、大前提として僕も亡くなった父さんもあの番組が大好きだったんです。僕は配信サイトで過去、放映された番組を全部見返すくらい好きで、視聴者からの依頼を一緒に調査してくれる素敵な番組やなあと。応募する直接の理由は、自動車免許を昨年3月に取ったんですよ。
僕のまわりは自動車免許を持っていてもクルマを所有していないペーパードライバーばかり。せっかく免許を取ったのにクルマを買わないと僕もペーパドライバーになってしまうと購入に向けて探しはじめていたんです。
どんなクルマを買えばいいかと探すうち、ふと「亡くなった父さんがクルマの製造に関わる仕事をしていたなあ」みたいなことを思い出したのですが、それはちょうど番組を観ていたときのことでした。
あの番組って最後に「視聴者からの募集で成り立っています」ってエンドロールが流れるじゃないですか。なら、番組で父さんが関わったクルマを探してもらおうと思いついたんです。
ただ、自分が芸人なので躊躇もしました。でも、ちょっと酒が入っていたので「よし、応募しちゃえ」と依頼文を作ってすぐに送ったんですよ。
まあ、採用されなくていいや、くらいに思っていたんですけど、別の収録でテレビ局に入っていた時に楽屋をコンコンとノックされ「『探偵!ナイトスクープ』のもんです」みたいな感じでスタッフさんがいらっしゃいました。
——依頼されるときお名前も芸名を名乗ったのですか?
池田 はい、レインボーの池田ですと名乗り応募しました。なので「本当に依頼文を送られましたか? もしかしたらあなたの名前を使って応募した人がいるかもしれないですよ」とスタッフさんから問い合わせされましたが、いや、俺が送りましたと。僕のマネージャーや相方も知らなかったので、いつの間に送ったんやと驚かれました。
——芸人の方が番組に依頼されたと聞くと、出演がすでに決まっていたと思ってしまいますがそうではなかったのですね。
池田 そうではなかったです。でも最初、僕は芸人ですという態度をとるつもりだったんですけど、実際に後で番組を観たら芸人感なさすぎて……。テレビ画面の中に映っていたのは普通の好青年でした(笑)。
——お笑いの世界に入って一番のサプライズだったのではないかと思いますが、採用された時どうでしたか。
池田 「え? やった! 僕でいいっんすか」みたいな感じでした。採用されなくて当たり前ぐらいに思っていたので、めっちゃうれしかったです。
——番組では、お父様がお亡くなりになった時、池田さんのお母様がパニックとなり遺品となるものを全て処分されたとお話されていました。実際、番組のスタッフが来た時、お父様がどこで働いていたなど、どれくらい理解していましたか。
池田 実は父さんの仕事内容はあまり知らなかったんです。転勤とか仕事を転職したとか、九州にある工場へ技術を教えに行っていたくらいは聞いていたのですが……。
——番組のスタッフがお父様の会社を突き止め、実際に工場へ訪問されていましたね。作業されていた工場へ行った時はどういう心境でした?
池田 もしかしたら父さんは僕に適当なことを言っただけで嘘かもしれないと不安を抱える中、大勢のスタッフさんを連れて行くのが申し訳なさすぎて……。もし、職種が違っていたり、職場が見つからなかったらどうしよう、というプレッシャーの方が強かったですね。
もう10年前くらいの記憶だったので、間違っていたどうしようかな、みたいなのが収録中はずっと付き纏っていました。
父が関わったクルマはレクサスCT200hだった!
——お父様がクルマの金型、詳しくいうと「レクサスCT200h」のフロントガラスのフレームに関わる金型を作っていることがわかりました。生前、お父様は仕事の話をすることはなかったのでしょうか。
池田 全然しなかったですね。本当に家庭に仕事のことを持ち帰るような父親じゃなかったので。唯一聞いたのが「クルマを作ってんで」くらいの話。クルマの金型や何かっていうことは言っていたのですけど、ちっちゃいながらに覚えているのが「俺が関わったクルマが世の中を走ってる」。それだけの言葉を握りしめながら収録に挑んでいました。
——お父様が仕事で関わっていたクルマを買えば、お父様が触っていた部品が必ず使われている、と番組でお話されていましたがある意味“形見“とのいえる車種がわかりました。番組のスタッフが車両を販売している中古車屋さんまで見つけましたが、対象となるクルマがレクサスCT200hと聞いても、あまりピンときていないようでしたね。
池田 レクサスCT200hとざっくり聞いても、「ああ、レクサスといえば高級車だな」と、それだけはわかりました。実際に車両を見せてもらったときも、値段を最初に教えてくれなかったので「えっ、レクサスを買うのは無理やで……」、とずっと心の中で思っていました。
高級車がどれくらいの価格相場なのかもわかっていなかったんですよ。中古車だから相場は300万円くらいじゃないかだとか、もしかしたら500万円って言われるかもしれないなと。だから放送を見た方ならわかると思いますが「150万円です」といわれたときにすごく安堵しているんですよ、僕(笑)。この値段ならなんか頑張れそうだなと。そのときはそんな感情でしたね。
探してもらったクルマが高すぎたらどうしようと。でも、これだけみんなで中古車屋さんに来ているから買わないわけにはいかないな、って感じでした。
——たしかに、レクサスといえば高級車のイメージですもんね。
池田 あの番組のスタッフさんが凄いのは、その場でいろいろと調べてくれるんですよ。「ここの中古車センターにはクルマがありそうだからここに行きましょう」みたいな感じで、父親が働いていた工場がある福岡県の飯塚から久留米までクルマで1時間ぐらいかけて行ったんです。
「レクサスCT200hを見つけましたよ! しかも10年前に走っていたもので親父さんが金型を作っていた時期の車両なので、もう(依頼され希望していたクルマ)そのまんまっすよ!」って。
——実際にクルマを見たときの印象はどうでした?
池田 やった、見つかったと。しかも父さんが働いていた時期に作られたものだと聞いた上でお店に行ったら、ボディカラーが真っ赤。「え、赤!」というのが第一印象でした(笑)。よりによって赤っすか、みたいな。もっと目立たないシンプルなカラーでよかったのに、というのが第一印象です。
——ボディカラーは別として外観やサイズなどいかがでしたか。
池田 レクサスと聞いた時、運転免許を取って間もなく、しかも運転に慣れていないのでボディが大きかったら嫌だなというのがあったんですが、いざ車両を見たら何か本当にかわいらしいいい感じで、乗りやすそうだなという印象でした。
実際、乗ってみても運転しやすくて小回りが利くしハイブリッド車で静かやしと、何かいいとこだらけだなって感じがして、めちゃくちゃ気に入りました。
実はクルマへのこだわりは……
——人生初となるクルマを手に入れたわけですが、池田さん的に手に入れたかったクルマへのこだわりはなかったのでしょうか?
池田 実は、薄々お気づきかもしれないですけどクルマに興味があまりなくて……(苦笑)。将来子どもができたらミニバンに乗りたいなとかのイメージはあったんですけどね。
今は中古車やし、父さんの形見とも言えるこのクルマで運転やクルマに慣れていこうかなと思っています。正直、番組でレクサスというブランドを出されてもピンとこなかったぐらい全然クルマに疎いので……。
——なるほど、池田さんくらいの年代だとクルマ好きと話すとオタクだと認識されるとも聞きますもんね。子どものころ、亡くなったお父様とドライブに行かれることはありませんでした?
池田 めっちゃあります。父さんはクルマだけでなく、ずっとバイクに乗っていたので、後ろに乗っけてくれたりとか。2人とも温泉大好きだったので、夜8時ぐらいに父さんが仕事から帰ってきて「今から温泉に行くけど一緒に行くか?」と2人でクルマに乗って出かけたり。そういう感じで、父さんとドライブはよくしていた記憶があります。
——話を番組の取材時に戻しますが、実際にお父様が働いていた工場に足を踏み入れた時、どう感じましたか。
池田 工場で製造現場も見せてもらったのですけど、鉄を敷いて上からプレス機で“バコン”と金型を作るみたいな感じの工場でした。迫力に圧倒されましたね。その際、社員の方が言っていたのですけど、僕が金型を作るところに立たせてもらったら「マジで親父さんみたいですね……」とみんな目がうるうるしてきたんですよ……。
今でもそんなに慕われているほどしっかり働いていたんやなと。いまスマホの待ち受け画像はその金型工場で撮った写真なんですけど、ここで親父は働いていたんやなと、僕も仕事を頑張りたいという熱量は入りました。
——番組をきっかけにクルマをその場で購入することになりました。番組の収録が昨年の6月、実際に手元に届いたのが8月でしたよね。
池田 購入時はもちろん、その後も駐車場が見つかってなくて購入後の手続きが進まなかったんですよ。それでマンションの下の駐車場が空くかもと、抽選待ちみたいな感じで待っていたのですが、見事8月の頭に当たって。じゃあ車庫登録もできるし早く車両を持ってきてくださいとお願いしました。マンションの駐車場が契約できたのはラッキーでしたね。
——納車されたとき、初めてのドライブをレインボーのYouTubeチャンネル(レインボーサブチャンネル)で収録・公開していましたよね。
池田 初めて運転した時はめっちゃ怖かったです。いきなり海に行こうみたいな感じになったので、無事に辿り着けるんかな、と。本当に何を触っていいのかわからず、クルマ特有のこれなんのボタンやみたいな。かなり戸惑いましたね。
——確かガソリンスタンドで給油をした後、目的地の海辺にある駐車場に停めた時、ボンネットが開いていたような……。
池田 僕は気がつかなかったのですが、そうらしかったです。ボンネットだけでなく、給油口のカバーがずっと開いてもいました。いらんところをいっぱい触っちゃいましたね。
——納車されてから約半年経ちましたが、もう運転には慣れましたか?
池田 はい、慣れました。ガソリンスタンドも、ちっちゃいころから両親の運転に同行していたのでやり方を覚えていたのか、いまはセルフでの給油も全然大丈夫です。ただ、年明けにガソリンスタンドを出るとき縁石にクルマのリアドアとフェンダーを擦ってしまいました……。そのことをSNSに上げたらけっこう反響があって、お笑いライブでもいじられぱなしでした(苦笑)。
——けっこうクルマの運転はされているのですか?
池田 そうでもなくて週1、2回くらいです。自宅からライブを行う埼玉県の大宮や千葉県の幕張にある劇場までの移動が主な目的です。初めて首都高乗った時は怖かったですが、運転自体もう慣れました。むしろ、首都高よりも細い道のほうが不安を感じます。以前、友達の家に向かうとき細い道に入っちゃって、大変な思いをしたんですよ。東京の住宅地は、ほんとうに道が細いし一方通行が多いので大変です……。また、渋滞に1回はまりましたけど、なんか嬉しかったです。ああ、これが渋滞だな、初渋滞だと(笑)。
——クルマを擦った以外でトラブルはとくになかったですか?
池田 気がつかないうちに、ヘッドライトをハイビームにしていたらしく、前のクルマを煽っていると勘違いされたことがありました。前に停車していたクルマが、信号が赤から青に変わっても全然進まなくて、警告音を鳴らしたら運転手が降りてきて「ねえ、ライトが眩しいの、わかってる?」って。最初、意味が全然わからなくて戸惑っていたら、「ああ初心者か、じゃあいいや」みたいな感じで戻っていったんですけど、それはめっちゃ怖かったです。
マジでドライブデートがしたい!
——クルマを所有したことで、いままでとは世界が変わった!なんて感じることはありますか。
池田 移動手段が公共交通機関やタクシーだけでなく、新たに1つ増えたことで行動範囲が広がりましたね。深夜に友達に会いに行けたり、サウナが好きなんですけど入った後は電車に乗りたくないんじゃないですか。それもクルマがあることで解決できるのがうれしかったりと、生活がすごく優雅にはなりました(笑)。
ただ、クルマの維持費は高いです……。月極の駐車料金や自動車の保険はめっちゃ高いっすね。こんなにかかってしまうんだと驚きました……。
——確かに維持費は高いですよね……。そういう意味ではクルマを持ったことはプラスマイナスでいうとどうでしょう?
池田 将来子どもができたときとかにミニバンを買ったとして、そこで初めて運転をするのは怖いし、彼女できたとき、いきなりレンタカーを借りてドキドキしながら運転するのは恥ずかしいので、このクルマを購入したことは将来への投資やと思ってるんですよ。なのでプラスではあると思っています。
——さっきから家族ができたらミニバンと、繰り返されてますね(笑)
池田 確かに、めっちゃ言ってますね(笑)。自分の両親はほんと仲が良くて、その影響で家族を持ちたいという願望は強いかもしれません。
小さいころ、月に何度かおばあちゃんの家に1人で行かされることがあったのです。当時は僕のお出かけできるための訓練だと聞かされていましたが、いま思えばきっと両親二人で旅行などに行っていたのかもしれないですね。微笑ましいです(笑)。
——先ほど、ライブ会場までクルマで向かうと話されていましたが移動中にネタを考えるなどされることはあるのですか。
池田 まだ運転に集中しないといけないという意識が高いので、そこまでの余裕はないですね。ただ、運転すると性格が変わるとよく聞くんですけど僕は変わらなくて、なんなら人を乗せた時はトークスキル上がるぐらいの感じなんですよ。
普段だと何かこういう話をしようかなとか、次はこうした方がいいかなと頭の中で組み立てながら話していたりとか、あの話をしたいなとかよぎる瞬間があるのですが、集中して運転してると思ったことをポンポンポンと言えたりとか。
同乗しているみんなも運転手にちょっと優しくなる気がしてくれて、なんか逆に話しやすいなとかは感じています。
——クルマに芸人さんなどを同乗させることは多い?
池田 あんま喋ったことがない後輩とかを、劇場から新宿まででよければみたいな感じで乗せると、電車では話せない会話を車内でできるんですよ。乗せたコから僕があまり知らない芸人についての話を聞くと、それは面白いな、そいつと今度しゃべりたいな、みたいに劇場からの帰りが楽しくなりました。
——ドライブデートもやるようになったとか?
池田 ほんと、このクルマにまだ女の子を乗せていないんですよ……。マジでドライブデートしたいですね。
ただ、僕がクルマを購入してやりたかったのが幕張の劇場までみんなを乗せたりとか、羽田空港とかもみんなで一緒に移動できると楽やな、とかだったんですよ。そういう意味ではやりたいことをやれているし、クルマが一種のコミュニケーションツールになっているなという感じがしました。
今後、クルマでやってみたいことは、北海道とかに行くとき、みんなとクルマをフェリーに乗せて目的地を周り、帰りはまたクルマに乗って帰るみたいなことですね。楽しそうだなと。
——デートではないですが、池田さんといえばお母様を大切にされていることでも有名です。このクルマにお母様を乗せてドライブされたことはないのですか?
池田 大阪の実家に帰った時、駅までクルマでお母さんが迎えに来てくれた時、実家のクルマを運転したことはあります。ただ、このクルマではまだないですね。
自分のクルマを大阪まで運転して帰るのが辛そうだし、また大阪からの帰りはもっと辛そうだし。なによりまだお母さんが僕の運転を怖がるんですよ……。このクルマでお母さんとのドライブはまだタイミング的に早いかと。
——最後に、番組を通して購入したクルマですが今後、どのように付き合おうと思っていますか? 簡単には手放せないですよね?
池田 いやでも、10年前のクルマだし、車検が2年に1回ですよね。今後、車検のタイミングで買い換えるかもしれません。
——え? まだ走行距離はたしか2万kmそこそこですよね。まだ当分乗れますよ。
池田 そうなんですか! じゃあ見積もりが高くて躊躇している擦ったボディを綺麗にしようかな。でも、家族ができたらミニバンに即、買い替えます(笑)。