新車試乗会以外にも、さまざまなクルマに乗る機会がある自動車評論家やライター。本稿では、さまざまなクルマを見て乗ってきた自動車評論家・岡本幸一郎さんに、今年(2022年)出会ったクルマのなかから、最も「もう一度乗りたくてウズウズする」国産車5台をピックアップしてもらいました。おすすめグレード付でお届けします。
【その1】FFなのにアクセルを遠慮なく踏める
ホンダ
シビック タイプR
「シビック タイプR」といえば、FF量販車で世界でも1、2を争う速さを身につけたクルマだけあって、まずエンジンフィールがすばらしいのなんの。アクセルと一体化したかのような俊敏なレスポンスと、踏み込んだときの力強い加速と、トップエンドにかけての痛快な吹け上がりと、控えめな中にも野太く吠えるエキゾーストサウンドに惚れ惚れ。2リッター4気筒エンジンとして世界屈指の仕上がりだ。
それを引き出すシフトフィールも、シフトを操ること自体にも喜びを感じられるほどよくできている。330PSのパワーを前輪だけで受け止めるとなると、普通なら空転してしまいそうなところ、トラクション性能も十分すぎるほど確保されているおかげで、遠慮なくアクセルを踏んでいける。
ハンドリングはまさしくオン・ザ・レールという言葉がピッタリ。意のままに気持ちよく操ることができて、舵を切った方向にグイグイと進んでいく。さすがは「2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー」でパフォーマンス部門賞に輝いただけのことはある、最高にエキサイティングなクルマだ。
【その2】登場7年ですげーグレードが出た!
マツダ
ロードスター
おすすめグレード:990S
「ロードスター」は登場からまもなく7年というタイミングで、持ち前の走りの楽しさをさらに高めるための大きな動きがあった。ひとつはKPC(=キネマティック・ポスチャー・コントロール)という新技術の採用だ。これによりGが強めにかかるようなコーナリングでのロールが抑えられ、旋回姿勢が安定してドライバーとクルマの一体感がより高まった。
もうひとつは、軽さにこだわりある走りに特化した特別仕様車「990S」の追加だ。1トン切りを印象づけるモデル名のとおり、車両重量を990kgにとどめるとともに、軽量の鍛造ホイールの装着をはじめシャシーやエンジン、ブレーキなどが専用にセッティングされている。
軽量コンパクトなロードスターは、2シーターでホイールベースが短いことも効いて、もともと手の内で操れる感覚が高いが、「990S」はさらに軽やかで気持ちのよい人馬一体感を実現している。既存のロードスターでなんとなく感じられた、ステアリングとタイヤの間に何か挟まっているような感覚が払拭されて、よりダイレクト感のある走り味になっているのだ。グリップ感が高く、フラット感もあり、ロールだけでなくブレーキング時のピッチングも抑えられている。
こうした改良と特別仕様車の追加が効いて、売れ行きのほうも発売から時間が経過したスポーツカーではありえないような増え方をしているらしい。中でも件の「990S」の販売比率がかなり高いというのも納得だ。
【その3】FFベースでつまらなくなった? 全然そんなことない!
トヨタ
クラウン クロスオーバー
おすすめグレード:RS
ガラリと変わって話題騒然の新型「クラウン」は、それだけでも乗ってみたい気持ちになるのはいうまでもないが、中でも「RS」モデルは走りっぷりも予想を超えていて驚いた。
いかにも速そうな名前のとおりエンジンもモーターも強力なデュアルブーストハイブリッドは、272PSの2.4リッターターボエンジンと前後に約80PSのモーターを組み合わせ、システム最高出力で349PSを発揮するというだけあってけっこう速い。モーターならではのレスポンシブでシームレスな加速フィールも気持ちがよい。さらにコーナリングでは、リアモーターで積極的に後輪の左右の駆動力に差をつけるとともに、4輪操舵機構や電子制御デバイスを駆使することで、クイックな回頭性を実現しているのもポイントだ。
クロスオーバーの2.5リッター自然吸気エンジンにTHSを組み合わせた他グレードとは別物で、大柄でけっして軽くないクルマでありながら、加減速もハンドリングがとても俊敏に仕上がっている。そのあたり、FFベースになってつまらなくなったとは言わせたくないという開発陣の意地を感じる。スタイリッシュなルックスだけでなく、走りのほうも鮮烈な仕上がりだ。
【その4】最新CVTの実力、いい感じ
スバル
WRX S4
おすすめグレード:sport R EX
もとはモータースポーツ由来だった「WRX」が、時代の流れで今では高性能ロードゴーイングカーという位置づけに。本稿執筆時点では3ペダルのMTを積む「WRX STI」の販売が終了し、将来的にもラインアップされるかどうかわからない。しかし、2ペダルの「WRX S4」はしっかり進化している。
275PSと375Nmを発揮する2.4リッター直噴ターボのFA24型に、「スバルパフォーマンストランスミッション」と呼ぶ最新のCVTが組み合わされるのだが、これがなかなかのもの。駆動力の伝達にかかるタイムラグが払拭されているほか、従来とは比べものにならないほどダイレクト感があり、マニュアルシフト時のシフトチェンジも驚くほど素早い。エンジン回転が先に上昇して、あとから加速がついてくる感覚もほとんど気にならない。
さらにはリアよりに駆動力を配分するVTD-AWDも効いて、小さな舵角のままコーナーをスムーズに立ち上がっていけるのも、WRX S4ならでは。2グレードあるうち、44万円(税込)高い「STI Sport R」は、「GT-H」に対して装備が充実しているのに加えて、走りの面ではZF製の電子制御ダンパーが与えられるほか、SIドライブではなく、より細かく設定できるドライブモードセレクトが搭載されるのが大きな違いとなる。
【その5】サーキットのちょい乗りだけでもう惚れてます
日産
フェアレディZ
おすすめグレード:バージョンST
この往年の雄姿を思い出すスタイリングを目にしただけで、乗りたくてたまらない気持ちになる。実のところ本稿執筆時点では筆者はサーキットでちょっとだけ乗った程度なのだが、見た目の魅力はもちろん、400PSオーバーを誇るV6ターボエンジンの刺激的なパフォーマンスや、全面的に見直したという洗練されたシャシーチューニングにより、かなり走りもよさそうな雰囲気がヒシヒシと伝わってきた。だからこそ、もう一度乗りたくてうずうずしているところです……(笑)。
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