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2023/4/29 21:00

首都東京のメガ物量拠点「東京貨物ターミナル駅」を解剖する【後編】

〜〜開業50周年を迎えた東京貨物ターミナル駅(東京都)〜〜

 

東京都品川区八潮に設けられた東京貨物ターミナル駅は、首都東京を代表する貨物駅として今年で開業50周年を迎えた。

 

前回は主に同駅の歴史やその機能、貨物列車の動きなどを紹介したが、今回は駅構内で行われる貨物列車や荷役機械の動き、そして最もよく使われている12ftコンテナの最新機能などに迫っていきたい。

*取材協力:日本貨物鉄道株式会社、株式会社丸和通運。2023(令和5)年3月22日の現地取材を元にまとめました。

 

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首都東京のメガ物量拠点「東京貨物ターミナル駅」を解剖する【前編】

 

【巨大貨物駅を解剖⑥】隅田川駅発72列車の動きを追う

前回の紹介で、尻手短絡線で目撃した隅田川駅発の〝シャトル便〟はその後、南武支線、東海道貨物線の羽田トンネルをくぐって、東京貨物ターミナル駅(以下「東京(タ)」と略)へ向かう。列車を引いているのはEF66形式直流電気機関車だ。

 

このEF66形式は、かつて寝台特急ブルートレイン列車を牽引した〝国鉄形機関車〟だ。残念ながら基本番代のEF66形式27号機は昨年に引退となったが、今活躍する100番代は形やスタイルこそ多少違えども、そのDNAを引き継いでいる。ちなみに、同100番代は車両数が減少し、ここ数年での引退が予想されている。JR貨物では環境にやさしく、省エネルギーに役立つ新型車両を徐々に導入し、古くなりつつある電気機関車の置換えを進めているのだ。

↑東京(タ)の構内図。左側(北側)に着発線があり、右側(南側)がコンテナホームという構成になる

 

東京(タ)の場内を走る上り本線の構内踏切が鳴り始め、重厚な面持ちがあるEF66形式が牽引する72列車が勢いよく上り本線を入ってきた。同列車は一度、北側にある着発線へ入っていく。

↑隅田川駅発72列車が上り本線を入ってきた。取材した日は休日明けということもありコンテナの積み荷は少なめだった

 

入線した列車の撮影が終了してちょっと一息……と思ったら、72列車はすぐに折り返し、コンテナホームに入ってくることに気がつき、慌てて移動した。

 

【巨大貨物駅を解剖⑦】わずか7分で荷役線に進入してきた!

東京(タ)に入線してくる列車には2タイプがある。1つは着発線に到着したら、機関車を変更せず、そのまま後進してコンテナホームへ入ってくるもの。もう1つは、着発線で構内入換え用のHD300形式ハイブリッド機関車に引き継がれ、同機関車の後押しでコンテナホームに入ってくるものだ。

 

72列車の場合は前者で、休む間もなくコンテナホームへ後進して入ってくる。上り本線を通過したのが13時4分だったのだが、13時10分過ぎに構内踏切が鳴り出して列車の接近を知らせる。そして列車はコンテナ貨車を先頭にコンテナ8番線へ静かに滑り込んできた。先ほど我々の目の前を通り過ぎて、わずか7分後にコンテナホームに入線したのだった。

 

↑東京(タ)の構内踏切を通り過ぎる72列車。駅到着7分後にコンテナホームへ入線してきた

 

このコンテナホームの構造を改めて見てみると、旅客用とは異なりホームといってもコンクリートの床面は低床だ。広々した平面ホームでフォークリフトなどの荷役機械や大型トラックが動きやすい造りとなっている。少し視線を上げてみると架線が構内踏切付近までしかないことに気がついた。

↑EF66形式がバックで列車を押してホームへ入線する。この構内踏切の場所までしか架線が設けられていない

 

架線のあるところまでは電気機関車が走れるわけで、その先は機関車が進入することがないため、コンテナホーム上に架線は設けられていないのだ。

 

荷役を行うフォークリフトは貨車の上でコンテナを持ち上げて運ぶことが必要になるため、架線があっては危険という理由もある。よって貨物駅の荷役ホームには架線がないところが多い。

 

ただし例外もあって、着発線で荷役が行えるように「E&S方式」を導入している貨物駅がある。「E&S方式」とは「着発線荷役」とも呼ばれ、このような駅の場合は、高さ制限を備えたフォークリフトを導入するなど工夫されている。

↑列車によってはコンテナホームへの発着にHD300形式が使用され、貨物列車の後進運転を行う

 

【巨大貨物駅を解剖⑧】フォークリフトが素早く動き始める

取材班が密着した72列車はコンテナホームへ入ると、ホーム上に待機していた作業員が、積んでいたコンテナを固定する緊締装置(きんていそうち)の固定レバーを解錠して回る。片面でなく両面でこの解錠作業は行われる。

 

作業員が貨物列車の両側を、指さししつつ何かを確認している様子を貨物駅の外から見たことがないだろうか。これは先ほど見た解錠作業とは逆で、出発前にコンテナの緊締装置のレバーがコンテナをロックする位置になっているかを確認しているところだ。このコンテナを固定する緊締装置の確認作業が非常に重要になる。

 

長いホームいっぱいに停まった貨車20両に積まれたコンテナの緊締装置の解錠が終わると、フォークリフトが貨車に近寄り、該当するコンテナを持ち上げ移動させ、ホームの所定位置にコンテナを積み、近づいてきたトラックに載せていく。

↑72列車が到着して間もなく、フォークリフトを使ってのコンテナの積み下ろし作業が始められた

 

12ftのコンテナであれば、下にフォークリフトのフォーク部分を差す箇所が開いていて、そこへずれることなくフォークを差し込み、持ち上げて移動させていく。実に手際のよい作業だと感心させられる。

 

ちなみに、コンテナ貨車のすみには上部に突起が出ていて、積む場合には突起にコンテナ下部にある穴を合わせて降ろしていく。

 

そう簡単な作業とは思えないが、作業員に聞いてみると、フォークリフトの運転席は高い位置にあり四方はよく見えるが、前方はフォークを持ち上げる柱があり、コンテナをフォークで持ち上げてしまうと前が見えなくなって、視界はよくないらしい。積み下ろし作業には熟練の技が生かされているわけだ。

↑東京(タ)のコンテナホームでは大型トラックが多く走り、コンテナを受け取り、所定場所まで運ぶ作業も同時に行われている

さらに、該当するコンテナを素早く間違いなく貨車から降ろし、また出発に向けてコンテナを貨車に積み込んでいく。そのスピーディな動きには何か秘密があるのではと思った。

 

【巨大貨物駅を解剖⑨】JR貨物の12ftコンテナの秘密に迫る

かつてコンテナには荷票という行き先を記した紙が差し込まれていて、目の前を通る列車のコンテナがどこへ行くものか推測ができた。最近は荷票がないようだが、どのようにコンテナを動かしているのだろう。

 

この日、撮影できたのはJR貨物の最新型20G形式12ftコンテナ。従来の19G形式よりも高さを100mmほど高くして、〝かさ高品〟にも対応できるようにしている。

↑JR貨物の最新コンテナ20G形式を見る。開け閉めするレバーほか、RFIDタグと呼ばれるICタグがドアの左下隅に取り付けられる

 

20G形式は「側妻二方開き有蓋(ゆうがい)」と呼ぶ構造のコンテナで、正面と横の開け閉めが可能な形になっている。開ける時にはまず中央のロックピンを外し、開閉テコと呼ばれるレバーを上げる。

 

右の開閉テコの右下に荷票入れがあるが、撮影時にはコンテナ内は空で、どこかへ運ぶものでもないので荷票も差し込まれていないと推測したのだが、スタッフに聞いてみると、荷票は現在、ほぼ使われないそうで、代わりにRFIDタグと呼ばれるパーツが使われていた。このIDタグ(無線ICタグ)が優れものだった。

↑20G形式は鋼製の箱の中に木製の板が貼られた、5トン積み側妻二方開き有蓋タイプだ。室内には「偏積注意」の注意書きが貼られる

 

調べてみると2005(平成17)年8月に導入された「IT FRENTS & TRACEシステム」と呼ばれるシステムに組み込まれたもので、GPSとIDタグにより貨物駅構内で、コンテナがどこに置かれているか、その位置が数10センチ単位で把握できるそうだ。IDタグは貨車にも付けられている。

 

このシステムにより、コンテナの位置の把握だけでなく、積み下ろしてどこに置くか、どこへ運べばよいか、フォークリフトなどの荷役機械に搭載した装置が指示を出す。作業員はこの指示に合わせたコンテナを動かし、所定の貨車やトラックへの積み込みを行う。

 

【巨大貨物駅を解剖⑩】遠隔で監視を行う12ftクールコンテナ

今回の東京(タ)の取材では、12ftコンテナとともに最新12ftクールコンテナを撮影する機会を得た。こちらも優れた機能を持っている。

↑桃太郎マークが付いた12ftクールコンテナ。右側にエンジン付き冷凍機が取り付けられている

 

株式会社丸和通運の12ftクールコンテナで、UF16Aという形式名が付く。コンテナはJR貨物のコンテナと、私企業が用意した私有コンテナに分けられるが、このコンテナは私有コンテナにあたる。

 

JR貨物の12ftコンテナと大きさはほぼ同じだが、端にエンジン付き冷凍機が装着されている。温度設定は+20度〜−25度の範囲、0.5度刻みで設定が可能だ。このコンテナで生鮮産品、冷蔵冷凍品などを温度管理しつつ輸送できるというわけである。

 

丸和通運では152台を所有、全コンテナに通信機能が搭載されていて、温度設定、庫内温度の確認、変更ができる。コンテナの場所はもちろん、エンジン燃料の残量まで分かるそうだ。もちろんJR貨物のIDタグも装着されている。

 

鉄道輸送用のコンテナは、ここまでハイテク化されていたわけだ。

↑12ftクールコンテナの内部。左上に冷風口が付けられている。細かい温度設定(左円内)も可能で、しかも遠隔操作できる

 

【巨大貨物駅を解剖⑪】31ftコンテナの積み込み作業は?

コンテナ貨車には12ftコンテナを5個積むことができる。12ftコンテナより大きなコンテナを積んでいる姿を見ることもあるが、こちらは31ftが多い。ちなみに、31ftコンテナはコンテナ貨車に2個積むことができる。今回の東京(タ)の取材では最後に31ftコンテナの積み下ろし作業を見ることができた。

 

撮影したのはJR貨物の31ftコンテナ49A形式で、ウィング片妻開き有蓋という機能を持つ。このコンテナの移動にはフォークリフトよりも一回り大きな、トップリフターが使われている。

↑トップリフターがJR貨物の31ftコンテナを貨車の所定位置への積み込みを行う

 

トップリフターの上部リフトが31ftコンテナ上部の四つ角にある窪みに、ツメを絡ませて持ち上げて運んでいく。コンテナ貨車の所定位置に積み込み、わずかな時間で作業が完了となる。見守っていると、あっという間なのだが、これも熟練の技なのであろう。

 

もちろん31ftコンテナにもコンテナ貨車にもIDタグが付けられ、間違いなく貨車の所定位置に積まれていく。そして、作業員が貨車に付いた緊締装置のレバーを操作し、固定されていることを指さし確認して作業は終了したのだった。

↑JR貨物の31ftコンテナはウィングコンテナと呼ばれる機能を持ち、積んだ荷物を積み下ろししやすい構造となっている

 

↑コンテナ貨車のコキ107形式の上部を見ると、このようなツメが設けられている。その横には緊締装置に解錠レバー、IDタグが付く

 

改めて東京(タ)を取材撮影してみて、現在の貨物列車の動き、またコンテナの移動作業などに触れらたことで、スムーズに行われる作業の裏でコンピュータ管理された物流の今を知ることができた。

 

その一方で、荷役機械によるコンテナの移動では熟練の技が生かされ、コンテナが輸送中にトラブルに遭わないように、緊締装置の解錠レバーを指さし確認する姿を目にした。ハイテク化しつつも、大切なのは人が磨いた技や、常日ごろから怠りなく行う確認作業なのかもしれない。そう感じた東京貨物ターミナル駅の取材撮影だった。