全国を走る路面電車の旅 第18回 鹿児島市交通局
鹿児島にはいくつかの“宝物”がある。真っ先にあげられるのは桜島であり西郷さんであろう。そして鹿児島市電もひとつの“宝物”と言っていい。軌道敷を全国に先駆けて緑化。緑のジュータンの上を走る電車の姿が清々しい。そんな爽やかな面持ちの鹿児島市電を楽しむ旅に出よう。
【歴史】100周年を迎えたその年に併用軌道区間の緑化を達成
鹿児島市電の歴史は1912(大正元)年、前身の鹿児島電気鉄道が武之橋(たけのはし)〜谷山間の路線を開業したことに始まる。1928(昭和3)年に鹿児島市が買収し、鹿児島市電となった。1945(昭和20)年6月17日の鹿児島大空襲で甚大な被害を受けたものの、12日後の29日には谷山線の運行再開にこぎつけている。
2012年には100周年を迎えた。ちょうどその年の11月に、交差点など一部区間を除く併用軌道区間8.9kmの緑化を達成した。これは全国の路面電車では初めてのこと。冬期、芝生が枯れる時期を除いて、芝生が美しい路線が連なる。芝生の手入れには、装置付きの専用電車を走らせている。こうした専用車両を持つこと自体、非常に珍しいことだ。
【車両】さまざまな顔立ちの電車が走行!
新旧さまざまな電車が走り、見ていて飽きない鹿児島市電。1955(昭和30)年に生まれた500形、1959(昭和34)年の登場した600形といった古参の車両。やや製作された年次が空き、平成になって製造された2100形以降の車両。800形(元大阪市電)の主要機器を流用した9500形など、それぞれ生まれた年代で、その顔立ちも異なる。
超低床車の導入にも積極的で、2001(平成13)年に1000形、2007(平成19)年に7000形が走り始め、それぞれ“ユートラム”と“ユートラムⅡ”という愛称で利用者に親しまれている。観光レトロ電車“かごでん”も開業100周年を記念に走り始め、華を添えている。
路線は谷山線など4本。運行系統は1系統と、2系統がある。両系統とも鹿児島駅前が始発駅で、1系統・青表示の電車は鹿児島駅〜谷山駅間。2系統・赤表示の電車は鹿児島駅〜(鹿児島中央駅前を経由)〜郡元(こおりもと)を走る。両系統とも鹿児島駅前〜高見馬場間は一緒に走り、高見馬場で分かれ、その先の郡元で両系統が再び合流する。
【沿線】桜島が姿よく見える沿線のポイント
車窓も変化に富む。まずは鹿児島駅。JR鹿児島駅の目の前に鹿児島駅前電停がある。3本あるホームには引っ切り無しに電車が到着、間もなく折り返していく。こうした電車の動きについ目がとらわれるが、海側に目を向けよう。そこには桜島の雄姿を望むことができる。
実は鹿児島市電の路線。沿線各所から桜島が良く見えるように思われがちだが、海側にビルや家々が建ち並び、電車から桜島が良く見えるところとなると限られている。沿線では、鹿児島駅前と甲突川(こうつきがわ)を渡る武之橋(最寄りの電停は武之橋)ぐらいのものなのである。鹿児島駅前と武之橋からの光景は、ぜひ目に焼き付けておきたい。
街の風景にも目を向けてみよう。鹿児島一の繁華街であるいづろ通〜天文館通付近は要チェックだ。なかでも、老舗百貨店の山形屋はクラシカルな外観、欧風の建物のような尖塔が建ち、路面電車と一緒におさめた構図が絵になる(TOP写真参照)。
また、鹿児島市電の併用軌道区間は、すべてセンターポール方式で架線が張られ、余計な電柱や電線が無いところも撮り鉄ファンにとってうれしいところだ。
鹿児島市電に乗ったら、ぜひとも1系統の終点、谷山電停まで行ってみたい。涙橋から先は、併用軌道が専用軌道となり、路線がJR指宿枕崎線沿いに延びている。終点の谷山は立派な駅舎が建つ電停で、駅前に「日本最南端の電停」の標柱が建つ。そう、もうこの南に路面電車は走っていないのだ。
【TRAIN DATA】
路線名:第一期線(武之橋~鹿児島駅前)、第二期線(高見馬場~鹿児島中央駅前)、谷山線(武之橋~谷山)、湊線(鹿児島中央駅前~郡元)
運行事業体:鹿児島市交通局
営業距離:13.1km
軌間:1435mm
料金:170円(全線均一)
開業年:1912(大正元)年
*前身の鹿児島電気軌道が武之橋〜谷山間の路線を開業