新年を迎えて間もない1月9日(現地時間)、米国ラスベガスでは世代最大級のテクノロジーイベント「CES(シーイーエス)2024」が4日間の日程で開催されました。
CESは1967年からアメリカ国内で続く歴史ある見本市で、かつては家電中心だったものがいまではIT化されたデジタル家電を含むビッグイベントへと成長。そして、その中心となっているのが自動車です。自動運転や電動化が進む過程でのAIやソフトウェアを駆使した数々の新技術が披露されました。
ソフトウェアのアップデートで進化し続ける「SDV」
まず取り上げたいのは、今回のCES2024で決して見逃せないキーワードとなった「SDV」です。これはソフトウェア・ディファインド・ヴィークルの略で、要はソフトウェアのアップデートによってクルマが進化していくというものになります。
これまでクルマは新車のときの機能でずっと使い続けるのが普通でした。それがクルマの中枢を司るコンピューターを、通信によってアップデートすることでさまざまな機能が追加されていくことが可能となるのです。
この機能はすでテスラが一部導入していて、コンテンツを追加するごとにユーザーは料金を支払うので、自動車メーカーとしても購入後もユーザーから料金が支払われ、ユーザーも新機能を楽しめるようになる。つまりWin-Winの関係がここで成り立つというわけです。
そうした中で、CES2024において、SDVをはっきりと主張したのがソニー・ホンダモビリティの「AFEELA(アフィーラ)」でした。プレイステーションで培った人間の感性とエモーショナルな体験を、バーチャルとリアルで再現するVRを実現しようというのです。後述するホンダの新しいEV「0(ゼロ)シリーズ」も、ホンダ独自の「E+Eアーキテクチャー」が使われ、サービスや機能が新車購入後も進化していくと説明していました。
また、サプライヤー側の積極的なSDVへの対応にも注目が集まりました。フランスの大手サプライヤー「Valeo(ヴァレオ)」は、EVで使われるバッテリーの温度管理を行なうことで航続距離の延長に貢献するソフトウェアを開発。ドイツの「Bosch(ボッシュ)」もアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)と協力することで新たなサービスを加えていく方針を発表しました。
また、このSDVが当たり前の時代になってくると、その機能ごとにパーソナライズ化が可能となります。たとえば、IDごとに自分の好みを設定しておくと、新たに購入したクルマにもその好みが反映されます。さらにシェアリングで乗り換えたときもIDひとつで同じようなことが可能となるのです。まさにスマホのように“機種変”してクルマを乗り換えられる時代が訪れるのかもしれません。
ただ、この機能を活用するには同じプラットフォーム上にあることが求められます。まさにここに覇権が存在するわけです。その意味でSDVの普及により、自動車のあり方は大きく変化していくと考えていいでしょう。CES2024ではそうした時代をいち早く体験できるイベントとなっていたのです。
自動車メーカーの出展は減ったものの、関連メーカーの出展が目立つ
ここからは改めて各社の動向を見ていきましょう。とは言ったものの、CESは会場が半端なく広い! ターゲットを絞り込まないと、肝心なものすら見落としかねません。ですから私は基本的に自動車関連だけに絞って見ることにしています。しかし、今となってはそれも危うい。CESそのものに多くの自動車関連メーカーが集まるようになったからです。
特にサプライヤー系の数が多く、世界最大のボッシュをはじめ、コンチネンタルやZF、ヴァレオ、フォルシアといったサプライヤー大手がズラリと勢揃い。加えて、パナソニックや三菱電機のほか、クアルコムやブラックベリー、セレンスなどIT系で名を馳せるメーカーも自動車関連に参入して新技術を披露していました。
ただ、以前に比べると自動車メーカーの出展は減りました。かつては日本からもトヨタや日産も出展していましたが、特にトヨタグループはデンソーやアイシンを含め、現在は出展を見送っています。理由は定かではありません。
そんな中でブースを構えて出展していたのは、メルセデス・ベンツやヒョンデ、キアに加え、日本からはホンダとソニー・ホンダ。なかでも大きな存在感を見せたのが、新たなEVブランド「0シリーズ」を発表したホンダでした。
電動化に対して本気であることを示すホンダの0シリーズ
ホンダは2040年にラインナップのすべてを電動化すると宣言しており、0シリーズはその頂点に位置するグローバルブランドとして発表されたのです。CES2024では「SALOON(サルーン)」と「SPACE-HUB(スペース・ハブ)」の2台を発表。
ともにシリーズを象徴するコンセプトモデルとしましたが、サルーンはほぼ披露されたデザインで登場予定であることも明かされました。一見、イタリアンスポーツカーとも思しきデザインそのままに登場するなんて驚きです。
一方のスペース・ハブはコンセプトモデルであるものの、ホンダが進めてきた“人のためのスペースは最大に、機械のスペースは最小に”との「MM思想」に、「ステア・バイ・ワイヤ」技術を組み合わせることで、ミニバンらしい広い室内と低重心、軽量さを実現したものです。
0シリーズの開発を統括した電動事業開発本部四輪事業戦略統括部ビジネスユニットオフィサーの假屋 満氏によれば「スペース・ハブの反応は上々で早急に考え直す必要があるかもしれない」と話し、そのほかにSUVも存在しているとのこと。
さらにこれを機に、長く親しまれてきたホンダのロゴマークデザインを変更することも発表されました。まさに、この発表は日本メーカーの電動化への本気度を示す好例となったことは間違いないでしょう。
ダッシュボードで展開されるエンタメ。アフィーラの実像が見えてきた
もうひとつ見逃せない電動化への動きを見せたのが、2022年、ソニーとホンダが折半で立ち上げた「ソニー・ホンダモビリティ(SHM)」です。同社は2023年のCES2023で新ブランド『AFEELA(アフィーラ)』を冠したプロトタイプを発表。2025年中に受注を開始して、翌年にはデリバリーを予定することもアナウンスされました。そのプロトタイプがCES2024ではより量産に近い形となって披露されたのです。
一見すると2023年と変わりがないように見えますが、SHMによれば「車体は全面刷新」したとのこと。外観からわかるのは、アメリカの法規に合わせてサイドミラーを電子式から光学式、いわゆる普通のミラーとしたほか、前後にあったメッセージや情報を表示できるメディアバーがフロントだけに変更されていること。加えてルーフに搭載された前方を高精度にセンシングするLiDARも他社製に変更されているようです。
これに合わせて具体的なスペックも発表されています。寸法は全長4915×全幅1900×全高1460mm、ホイールベース3000mm。パワーユニットは前後それぞれに最高出力180kW(約245PS)のモーターを搭載する完全な電動4WDで、搭載されるリチウムイオン電池の容量は91kWhです。また、自動運転レベル3も実現していると発表されました。
続いて、アフィーラの真骨頂となりそうなのが、ダッシュボードで展開されるエンターテインメント機能です。左右いっぱいに広がるパノラミックスクリーンには走行情報以外に映画やゲームといった、出かけた先で楽しめるコンテンツを表示できるようになっています。
ここではARが駆使され、リアルな風景にゲームのキャラクターを乗せて展開することも可能。身体が音に包まれるような「360(サンロクマル)リアリティオーディオ」によって、臨場感たっぷりにコンテンツを楽しめる工夫もされています。これはデモとして体験もできました。
また、見逃せないのが、マイクロソフトの「Azure(アジュール)」を活用した対話型パーソナルエージェントを開発中であることです。
すでにテキストでの生成AIの体験をされた方は多いと思いますが、これをドライブ中に音声でのやりとりで実現しようというもの。そのうえでアプリのプラットフォームを公開してサードパーティからの参加も呼びかけていくということです。これによってAIとソフトウェアによる新時代のEVが誕生します。
VWはChatGPT活用の音声アシスタントを導入
対話型パーソナルエージェントについては、VWも自社のEV「I.Dシリーズ」にChatGPTを利用する対話型音声アシスタントを導入することを発表しています。
これは音声認識のトップランナーである「セレンス」と共同開発したもので、目的地を探す際にさまざまな条件を背景に、利用者の好みを判別しながら最適な目的地を提案していくというものです。発表会場では実際にデモも披露され、従来のようにひとつのキーワードでのやり取りを超える複雑なコマンドに対しても応えられる様子を見ることができました。
パイオニアはナビアプリに対話機能を早くも搭載か
対話型パーソナルエージェントはパイオニアも採用を考えているようです。すでに日本で展開中のナビアプリ「COCCHi(コッチ)」にマイクロソフトのAzureを活用したもので、会話するような自然言語でやり取りできるのが特徴。利用者が希望を告げると複数の条件に基づいた提案をしてくれ、その様子はまるで助手席の人と会話しているかのようでした。
この技術は音声だけでやり取りができるため、パイオニアではこれをオートバイのユーザーにも展開を想定しているとのこと。早ければ2024年春頃にも日本国内からスタートする予定とも話していました。ナビアプリが劇的に進化しそうですね。
コックピットで表示をON/OFFできる「デジタル・デトックス」の提案
インテリアなどを手がけるマレリは、AIを活用したアバターをコックピットに取り入れた技術を披露しました。従来の文字やアイコンでの表示よりも、アバターの動きによって内容をわかりやすくドライバーに伝えられるのがポイントとなります。
また、マレリは「デジタル・デトックス」と呼ばれる、新たなコックピットでの表示方法を提案。これは必要に応じて表示をON/OFFできるもので、たとえば助手席側では普段は木目パネルなのに、必要となればそこにさまざまな表示を可能にします。従来はディスプレイを左右いっぱいに搭載していましたが、それを“必要なときに必要なぶんだけ表示する”との発想の転換を提案したものと言えます。
燃料電池、水素エンジン向けコンポーネントを開発するボッシュ
水素への取り組みを本格化させることを発表したのがボッシュ。気候中立を目指しながら世界のエネルギー需要を満たすカギは水素であるとし、今後は水素バリューチェーンに沿ったソリューションを展開していくそうです。背景にはEV熱が一巡したいま、世界各国で水素製造に対して大型の補助金政策が始まっていることが挙げられます。
ボッシュはすでに燃料電池を大型車向けに開発し、現在のディーゼルエンジンに置き換えることを目指します。また、水素を直接使うエンジンに向けたコンポーネントの開発も進め、年内にもこれを活用した水素エンジンの実用化を見込んでいるそうです。
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