ワールド
2019/10/15 19:00

サステナビリティ時代の新たなラグジュアリー。イタリアから広まる「森の高級マンション」

9月にイタリア・ミラノで行われたミラノ・ファッション・ウイークは、サステナビリティ社会の提唱に向けて重要な機会となりました。さきのG7ピアリッツ・サミットで提唱された「環境のためのファッション協定」を受けて、このコレクションでは主要のファッション会社が持続可能社会形成のための提言を行いました。ベーシックさと伝統の融合をテーマにシンプルなデザインのコレクションを打ち出したプラダを筆頭に、イタリアのラグジュアリーブランドも価値観の変容を提案しています。

 

消費をやめ、物を持たないことを美徳とするミニマリストまでの変容はしなくても、サステナビリティ社会にふさわしい高級志向の姿を創造する動き。これはミラノにおいて突然勃発したものではありません。世界の流行の発信地の1つで、イタリアやヨーロッパの富裕層が住むこの都市では5年前に風変わりなマンションが建造されました。しかし、その建物が新しい時代の高級な住環境としてウケているんです。

 

東京ドーム1個分の「森」で覆われたマンション

このマンションは、ミラノの中心街から2kmほど離れたエリアに位置するポルタ・ヌウォーバ再開発地域にあります。その名も「垂直の森(Vertical Forest)」。2棟からなるこの高層マンションは、建物の周囲に木が張り巡らされているのが最大の特徴です。

 

800本の木、4500本の低木、1万5000鉢の植物が張り巡らされており、その量は3ヘクタール(東京ドーム1個分)の森林に相当。ミラノ周辺は平野になっているので、この高層マンションは遠方からも確認することができますが、その様子はまさに空中庭園。設計会社は「年間50tもの二酸化炭素を吸収し、都市開発のための緑地伐採を5万平方メートルほど抑えられる」という環境保全効果を試算しています。都市の再緑地化という、まさにサステナリビリティ社会の重要な要素をそのまま形にしたような建物ですね。

 

一番高い価格の部屋は日本円で2億円以上。分譲開始以来、イタリアはもちろん、世界各国のビジネスマンや著名人など、様々な富裕層に購入されています。

 

ドバイの高層ビルから着想

垂直の森をデザインした建築家のステファノ・ボエリ氏は、地元紙のインタビューのなかで建築の着想についてこう語っています。「植物というよりも木が好きでしたが、これを単なる装飾ではなく建築を構成する要素として使えないかどうかを考えました。数年前、高さ200mほどのドバイの高層ビル内にいたとき、建物内のエアコンを効かせるためにかなりのエネルギーを消費していることに気が付いたんです。外からの照り返しがガラスの外壁に直接当たるようになっていましたが、これを遮られないかと考えました。ちょうどこの地域で2棟のビルを建築するプロジェクトを打診され、このようにデザインをすることに決めました」

 

実際に設計してみると、最大100mに達する高さの建物にどう水を循環させるのか、風に対する対策はどうするのかなど様々な問題に直面したそうです。しかしそれらを乗り越え、2014年に分譲を開始しました。5年経った現在、木は生い茂り、何層にも重なっている空中庭園のような見た目になりました。外気に対しては木が防護壁となるため、建物内の温度も湿度も適度に保たれているとか。60種類の植物は四季によって変化するため、外壁も表情を変えます。

 

新しいラグジュアリーのかたち

ミラノは近年、公害に悩まされていました。雨が降らない日が続くと光化学スモッグが発生し、そのためにクルマの通行も制限。近年は電気自動車やハイブリッド車など、二酸化炭素の発生が抑えられるクルマでないと市の中心部に入れないことになりました。こうした街の環境の変化に伴い、緑に覆われた静寂な環境に住むことを好む人々が現れました。垂直の森は、市内にいながらこうした住環境を揃えたいという、新たなニーズを掘り起こしたといえます。なお外壁に植えられた植物の管理・保全のために管理人を配置しているそうですが、管理費は普通の建物の家賃並みだとか。サステナビリティ時代の新たなラグジュアリーと言えそうです。

 

垂直の森があるポルタ・ヌウォーバの再開発地区では、このビルも含めた見学ツアーも催行されています。料金はひとり140ユーロ(約1万6000円)からと少し高めかもしれませんが、建築家のガイド付きで詳しく話が聞けます。

 

持続可能な社会に向けて、新たな価値観が求められるサステナビリティ時代。その中で、バロック様式の荘厳な中心街に住むことをステータスとしていた富裕層のなかにも、緑のある住環境を得るためにお金をかけるという新たな動きが出ています。高層マンションの外壁を木で覆い、空中庭園さながらに整えた垂直の森は、都市の再緑地化というコンセプトを体現したような建物。日本でも屋上や壁面の緑化を施した豊島区新庁舎「豊島の森」が出現しましたが、これからの時代の都市の景観として波及していくのでしょうか? 目が離せません。

 

世界の「イタリア産食材」の2/3は偽物! アプリは本物を守れるか?