人間や動物は自分で動くことができるけれど、植物は自由に移動ができない分だけ、暑い・寒い、水分不足や水分過多、栄養が足らないなど、環境からストレスを大きく受けるもの。ストレスは植物の成長にも影響を及ぼすので大事な問題ですが、そんな植物のストレスをリアルタイムでモニターできる新しいシステムがいろいろ開発されています。
スマホで植物のストレスをモニタリング
1つ目の植物ストレスセンサーは、植物の傷や感染、光害などを検知するセンサー。マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが開発しました。
これまでにこの研究チームは、ナノ材料を組み込むことで、光を放ったり水分不足を検出したりする新たな植物の開発に取り組んできました。また、過酸化水素などさまざまな分子を検出できるカーボンナノチューブも開発しています。
そんな活動をしていたあるときに誤って植物を傷つけてしまったところ、その傷部分から過酸化水素が多く放出されていることに彼らは気づきました。過酸化水素の働きはまだはっきりとわかっていませんが、植物がダメージを受けてそれを修復するときなど、葉の内部で過酸化水素を使ってシグナルを送ると見られています。
そこでこの研究チームは過酸化水素の変化を利用して、植物が受けるストレスを検知できるカーボンナノチューブのセンサーを開発することにしました。こうして作られたセンサーは植物の葉に埋め込まれ、そのデータはスマホに送信されてリアルタイムで確認できます。
このセンサーはさまざまな植物でも利用可能。ホウレンソウやストロベリー、ルッコラなど8種類の植物でも実験を行い、ストレスのタイプによって植物が異なる反応を示すことも明らかになっています。
水分不足のストレスをリアルタイムで検知
MITの研究チームの開発と同じように、生きた植物のストレスをリアルタイムで検知できる別のセンサーもアメリカでは開発されています。それが、カリフォルニア大学サンディエゴ校の研究チームが作ったバイオセンサーです。この研究チームが注目したのは、プロテインキナーゼ「SnRK2」と呼ばれる酵素。この酵素は植物が水分不足になったときに活性化することがわかっており、このSnRK2の変化をモニターできるナノセンサーの「SNACS」を開発したのです。
SnRK2の活性を調べるために、これまでは植物を粉砕して抽出物から測定する工程が必要で、生きた植物で調べることはできませんでした。しかしこの研究チームは、生きた植物でSnRK2の変化をリアルタイムでモニターできるセンサーを開発することに成功し、このセンサーによって、SnRK2の活性にはアブシジン酸という成分が関わっていることなどもわかってきたのです。
水分不足は植物の生育にとって必要不可欠なもので、このストレスをリアルタイムで検知できるセンサーの開発は、まだ未解明な植物のシグナル伝達の研究に大いに役立つと期待されています。
植物が感じているわずかなストレスを見逃さずモニターできるシステムがあれば、自宅で大切に育てている植物が枯れたり萎れたりすることを今後は減らせるようになるかもしれません。農家や花き栽培への活用も期待されます。