コロナ禍のイギリスで流行している物事のひとつに美容整形があります。自分の容姿に疑問を抱き少しでも良く見せたいと願う人たちが急増しているのですが、驚くのは男性も積極的だということ。なぜイギリスでは美容整形が男性にまで広がっているのでしょうか?
イギリスでは、新型コロナウイルスの蔓延と同時に美容整形の人気が高まりました。美容整形といえば一般的に女性の希望者が多いと思われがちですが、ロックダウン期間中には多くの男性も興味を示すようになったのです。
イギリスの美容整形にはボトックスのような注射からメスを使った手術に至るまで、幅広い種類があります。高級紙タイムズによると、美容整形に興味を持っている人たちの数はロックダウンが始まった2020年3月以降に500%以上も増えているとのこと。
なかでも、最も人気のある美容整形は体重を減らしてスリム化するための施術です。例えば、余分な皮膚や脂肪、乳腺などを切除する乳房縮小手術の件数は昨年6月以降で520%も増加。また、乳腺の増殖により乳房が肥大した状態となる女性化乳房の除去についての男性からの問い合わせは115%も増加しています。
さらに、お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形や脂肪吸引法も人気があり、昨年3月以降は問い合わせが40%も上昇しています。こうした需要の高まりから美容整形機関への予約も殺到していて、数か月先まで予約で埋まっていることも珍しくはないそうです。
ではなぜ、体重を減らすための美容整形が人気なのでしょうか?
理由の1つとして考えられるのは、ロックダウン期間に増えた体重を落としたいと願う人たちが増えていること。昨年5月にタイムズ紙に掲載された調査によれば、イギリスの全人口の3分の1が3キロ以上も体重が増えたと回答しています。ただ、イギリスでは体重増加や肥満の問題は新型コロナの蔓延前から問題視されており、以前から美容整形を考えていた人も多いのではないかと思われます。
それ以外に大きな理由として挙げられるのが、テレワークという勤務形態。お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形や乳房縮小手術の場合、回復までに要する期間は4週間から6週間といわれています。そのため、希望者は通常では長期休暇を利用しますが、コロナ禍で自宅勤務が当り前になった現在はその必要がありません。長期休暇を取る必要がなく、誰にも知られずに手術を受けることができるのです。この点が男性にも女性にも大きな魅力となっているのでしょう。
自分の顔を見る時間が増えた
減量のための施術と同様に、顔に関する美容整形にも人気が集まっています。バーチャル会議が当然になった今日、Zoomなどの画面に映る自分の顔を見つめる時間も必然的に増えてきました。画面を通じて他人の顔と自分を比較する機会や時間が十分あることも、美容整形をしようと考えるきっかけになったといえるでしょう。
イギリス政府公認の美容整形機関・Save Faceは、コンサルテーションの際に「眉間の皺に気づいた」「唇を何とかしたい」「鼻が曲がっている」といった顔に関する不満がロックダウン以降に増えていると語っています。
さらに男性の場合は頭髪に関する不満が多く、植毛に関心が集中しているそう。ロンドンのある美容整形医はこの現象について、「ロックダウンで床屋が一時閉鎖されて散髪が不可能になり、多少長めの髪で画面に頭が映ると照明や角度の影響で髪が薄っぺらに見える。それを実際の頭髪と勘違いされてしまうケースが多いようだ」と語っています。
さらにイギリス心理学会のジル・オーエン博士は、照明や角度により見え方が変わってくることや、バーチャル会議で顔を見る時間が長くなるにつれて自分の顔の欠点に気づくため、こだわりを持ちやすくなると指摘しています。
そのほかにも、美容整形によって美しく変わったセレブとの比較や、現実的ではない美への追求による自信喪失、さらに、ロックダウンを起因とする悲観的思考の頻発などが美容整形の需要に影響していると考えられるようです。
イギリス国民保健サービス(NHS)のホームページには、さまざまな美容整形の標準的価格が記載されています。例えば、顔の筋肉を柔らかくしてシワを減らすボトックス注射の場合は約1万3500円〜4万7200円。
お腹のうえのシワを除去して皮膚を引き締める腹部の美容整形の場合は約60万7500円〜81万円ですが、手術後のコンサルテーションにも別途費用がかかります。脂肪吸引法は約27万円〜81万円。植毛は約13万5000円から405万円と、頭髪の長さや美容整形機関によって金額がかなり変わります。男性の女性化乳房除去は約47万2500円から74万2500円で、手術後のコンサルテーションにも別途費用がかかります。
価格はボトックス注射が一番安いのですが、効果は3か月〜4か月といわれ、繰り返して受けるとなると負担も多くなるでしょう。いずれにしても、イギリスで美容整形を受けるには金銭的な余裕が必要です。
美容整形ブームはイギリスの男性だけに見られるわけではなく、この現象はコロナ禍により世界的に起きていますが、その裏には副作用というトラブルもあることを忘れてはならないでしょう。例えば、ボトックス注射の後に顔の腫れが取れない、腹部の美容整形の後に血栓が肺に飛んでしまう等の症状が報告されています。後悔先に立たずです。
執筆者/ラッド順子