これまでにさまざまな説が唱えられてきた生命の起源。約40億年前に落ちた隕石によって、生命に必要な有機物などの材料が地球上にもたらされ、それが生命の誕生に繋がったと考える説が有力です。しかし最近、生命の起源には、落雷が重要な役割を果たしていたことが示唆されました。
閃電岩にヒント
米国・イエール大学の研究者は、生命の誕生に欠かせない成分「リン」に着目しました。リンはDNAを構成する成分で、生命体の成長や生殖など生命活動には不可欠な存在です。そこで、リンなどから構成される鉱物「シュライバーサイト」を含む隕石が地球に落ち、それによって生命が誕生したのではないかと考えました。しかし生命が誕生したと考えられる35億~45億年前の地球には、それほど多くの隕石が落下していないことが判明したのです。
一方、2016年に米国イリノイ州グレンエリンで落雷が起きたときにできた巨大な「フルグライト(閃電岩・せんでんこう)」について調べていた英国・リーズ大学の研究者は、このフルグライトには異常なほど高濃度のシュライバーサイトが含まれていることを発見しました。フルグライトとは、数億ボルトになるとされる雷の高熱によって砂が溶け、その後すぐに冷えて固まってできる管状の岩石のこと。しかも初期の地球上に存在していたリンは、水には溶けない鉱物の中に含まれていたと考えれますが、シュライバーサイトは水に溶ける性質があり、これが生命誕生の鍵となっていたのではないかと考えることができるわけです。
次に、同リーズ大学の研究者はコンピューターモデルを用いて、初期の地球でどのくらい落雷が起きていたかを推測しました。すると、現在は1年間に5億6000万回の雷が発生しているのに対し、10~50億年前の地球では1年間に50億回と現在の9倍近くの回数の雷が発生し、このうち1~10億回は直接地面に落雷していたと推測しました。これにより、かなりの量のリンが地球上に存在し、その量は隕石の落下によるものより多かったと考えられるのです。
この2つの研究チームはこれらの結果から、「生命誕生のきっかけは隕石ではなく、落雷によるもの」という説を唱えました。しかも、落雷は気候条件さえ揃えば起きる自然現象のため、隕石の落下より頻繁に発生するうえ、地球へのダメージも少ないことから、生命の進化を妨げた可能性も低いと考えられます。
今回の論文で明らかになったように、雷が生命の起源だったとすれば、落雷が頻繁に起きていた地球以外の惑星でも同じように生命が生まれていた可能性が出てきます。ひょっとしたら、落雷説が地球外生命体の発見に繋がっていくかもしれません。
【出典】Hess, B.L., Piazolo, S. & Harvey, J. Lightning strikes as a major facilitator of prebiotic phosphorus reduction on early Earth. Nature Communications 12, 1535 (2021). https://doi.org/10.1038/s41467-021-21849-2