少子化を克服した先進国として知られるフランス。2021年7月には、同国のエマニュエル・マクロン大統領が公約として掲げてきた「父親の育児休暇の延長」が、いよいよ実現します。男性がより積極的に育児をすることで、フランスはますます出産や子育てがしやすい国になりそうですが、この国は出産・育児に関して、どのような制度や文化を持っているのでしょうか?
フランスの婚姻・育児制度の特徴のひとつは、婚姻関係がないカップルにも手厚いサポートが提供されることです。フランスでは1994年に、すべての労働者が育児休暇を取得できるように法改正が行われました。1999年には同性・異性を問わず、共同生活を営もうとするカップルを対象とした、非婚カップル保護制度の「民事連帯契約」が誕生し、婚姻関係にある人たちとほぼ同等の権利が受けられるようになりました。
未婚の場合でも、妊娠発覚時に市役所で胎児認知を行えば、出産後には、両親の名前が記載された出生届を行政に届け出ることが可能。また、日本の戸籍謄本と同等の出生証明書のほかに家族手帳も作成され、そこにも子どもや親の名前が記載されます。
このようにフランスでは、婚姻関係を結ばずに出産し、子育てをしているカップルも、社会保障制度においては国から多くのサポートを受けることができます。出生祝い金や月々の子ども手当、税金の免除なども同様で、筆者の場合、未婚ですが、妊婦検診や出産時の病院費用もすべて保険で賄われ、出産後には祝い金や子ども手当が支給されました。私のパートナーは税金が免除され、パートナーの会社で加入している保険に子どもと合わせて加入することができたうえ、その保険からも出産祝い金をいただきました。
一方、フランスの男性の育児休暇については、父親は子どもが生まれる前後に誕生日休暇として3日間、その後にも11日間を取得することができます(土日祝日も含む)。これは婚姻関係のないカップルにも適用されており、約7割のフランス人男性が取得しています。
この制度は2021年7月から28日間へと延長され、最短でも7日間の育児休暇取得が義務化されます。違反した企業には罰金が科されるとのことですが、その背景には「父親は子どもが新生児の時期から育児に参加し、父親としての自覚を持つべきである」という考えがあると同時に、男女平等を推進するためにも重要視されています。
フランスでは多くの男性が出産に立ち会いますが、2020年はコロナ禍で立ち会い出産ができず、入院中はパパでも面会できないという状況が国中で見られました。しかし、立ち会い出産を限定的な条件で許可する病院もあり、筆者も出産予定日が外出禁止令発動期間に当たっていたものの、パートナーは出産後2時間まで立ち会ってよいとの許可が降りました。結果的には外出禁止令解除後の出産になったため、私のパートナーには陣痛が始まる前から出産後まで制限なく付き添ってもらうことができたのですが。
通常では、プレパパも産院などが開催する出産前の両親学級に参加するのですが、現在はコロナ禍にあることから、そのようなイベントは行われていません。フランスでは、公立の病院に出産入院しても母子同室の個室で過ごすことが一般的ですが、筆者の場合、出産後はそんな病室で助産師さんが父親にも沐浴指導を行ってくれました。
里帰り出産をしないフランス人
フランス人は、日本のような里帰り出産を基本的に行いません。赤ちゃんが生まれた後に家族が離れる期間があることを、あまり良いとは思っていない風潮があるようです。そのため、産後はママとパパが協力して育児に励むことになります。もちろん、祖父母が協力する場合もありますが、基本的に育児は夫婦2人で行うものだとされています。
産後約28日間は地域の助産師さんが自宅を訪問し、育児指導などの支援をしてくれます。パパがミルクをあげたり、オムツを替えたりすることは当たり前であり、むしろ「パパがオムツを替えなさい」と親戚などから突っ込まれることも。これが示すように、パパは「母乳をあげること以外は父親もやるべきだ」という周囲からのプレッシャーをひしひしと感じるようです。
そんな文化はメディアでも見られ、オムツや赤ちゃん用クリームのCMなどでは、母親と赤ちゃんだけではなく、父親がオムツを替えているシーンを流したりしています。平日の午前中には、妊娠中や子育て中のパパ・ママ向けに妊娠出産や育児の情報番組がテレビで放映されるなど、メディアを通して社会全体が男性の育児をサポートしています。
女性の育児休暇は10週間と短いうえ、女性の社会進出も進んでいることから、ママが職場復帰した際には、パパが保育園の送り迎えなども積極的に行っています。子どもの通院や外出などでも父親による送迎が街中で多く見られ、男性が育児をすることへの偏見はまったくありません。この点は近年の日本もほぼ同じでしょう。
子どもは世界で2番目に好き
フランスでは、妊娠がわかってから出産までの間に子ども部屋を用意します。パパ・ママは産後から数か月間、寝室にベビーベッドを置いて、赤ちゃんと一緒に寝ることもありますが、一般的には、赤ちゃんは子ども部屋で乳児期から一人で寝かせます。川の字で寝る日本人とは異なりますが、フランス人のそんな行動は「親になっても、夫婦やカップルとして自分たち2人の時間を大切にしたい」という考えの表れ。実際、ママが産後の身体を回復させて、パートナーとの性生活に早く戻れるように、産婦人科医はペリネという骨盤底筋ケアの処方箋を書いてくれます。
親である前にカップルである。これがフランスのライフスタイルの大前提になっているため、カップルは子どもとの時間を大切にするのと同じくらい、大人だけの時間やパートナーへの気遣いを大事にしています。ですから、多くのカップルは週末になると、子どもを祖父母へ預けて、旅行に行ったり、数時間だけベビーシッターに子どもを預けて、映画やレストランへ出かけたりして、気分転換をしているのです。
このように、フランスと日本で大きく違うのは、パートナーとの関係が、親になっても、パパ・ママだけにならないこと。女性が自分の時間を作り、魅力的であり続けられるように、男性は積極的に育児や子育てをするという一面がフランスにはあります。逆に、カップルがお互いのことを見ていなかったり、お互いに魅力を感じなくなったりすれば、離婚や別居に至ることも珍しくありません。これらの背景には、女性が自由を勝ち取ってきたという歴史がありますが、それだけではなく、個人を大切にする国民性もあるのではないか、と著者は見ています。
このような文化的背景を知れば、フランスの父親は育児休暇が取りやすいうえ、仕事も定時で終わり、日本のように残業や仕事後の飲み会がない理由もわかりますよね。近年、フランスが少子化対策に成功したことも、決して不思議ではありません。
もちろん、課題がないわけではありません。日本と同様に、フランスでも保育園や託児所が都市部では見つけにくいという問題があります。また、仕事への復帰を諦めて、新型コロナウイルスの失業手当を受けながら、保育園の空きを待ったり、子どもを祖父母に預けて時短で働いたりという人も多くいます。これらは出生率の増加が一因とも考えられますが、今後フランスはこのような問題をどのように解決していくのでしょうか?
とはいえいまは、父親の育児休暇の延長が、どのような結果をもたらすのか注目しておきましょう。