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2021/5/20 6:00

富裕層の怠慢が「地球環境」を破壊する! 英国の研究者らが警鐘

現在、世界中で貧富の格差が広がっています。資産10億ドル以上を持つ「ビリオネア」の上位26人が所有する約150兆円の資産は、貧困層38億人の総資産とほぼ同じであると言われるほど、グローバル社会では二極化が進行中。この現象は環境問題でも見られ、最近では「気候変動の原因は富裕層だ」と論じたレポートが欧米で話題を呼んでいます。

↑「LISTEN TO THE PEOPLE NOT THE POLLUTERS(汚染者ではなく、庶民の声を聞け)」や「PEOPLE OVER PROFIT(利益よりも人を優先しろ)」というメッセージが示すように、環境を汚す富裕層に対する世間の風当たりは強い

 

気候変動における富裕層の問題を指摘したのが、ケンブリッジ・サステナビリティ・コミッション(CSC)による「Changing our ways? Behaviour change and the climate crisis」というレポート。英国のケンブリッジ大学出版局が立ち上げたCSCは、環境問題をさまざまな角度からグローバルに研究しています。このレポートでは英国・サセックス大学の教授らが所得レベルに着目して、人間行動学の観点から気候変動に関する政策を提言しています。

 

早速、主な論点を見ていきましょう。本レポートは、地球温暖化を1.5℃以内に抑えるための対策は相対的に捉えるべきだと論じています。根拠のひとつとして、著者らは国連環境計画の「排出ギャップ報告書2020年」のデータに言及。同報告書は、2015年の世界の人口を所得で4つに分け、各グループの一人当たりの平均二酸化炭素排出量を計算し、所得レベルが高ければ高いほど、1人あたりの二酸化炭素排出量が増大することを示しています。

 

では、各グループはどれくらいの量を排出しているのでしょうか? 排出ギャップ報告書2020年では、2030年までに設定されている二酸化炭素排出量の目標は、1人あたり2.1tです。これを下回っていたのは、所得レベルが最も低い貧困層のみ。所得レベルが2番目に高い層(富裕層の上位10%)の二酸化炭素排出量は20t以上、所得レベルが最も高い超富裕層(富裕層の上位1%)は70tを上回っていました。

 

CSCは、この議論を別のデータで裏付けています。2018年の「Civil Society Equity Review」によると、二酸化炭素排出量の増加の半分程度は富裕層の上位10%に起因し、同37%は富裕層の上位5%に原因があるそう。残りの半分は、所得層の40%を構成する中間層によるものなので、所得層の50%を占める貧困層の影響は事実上ゼロになります。

 

また、欧州連合(EU)加盟国では、富裕層が排出する二酸化炭素の量が増加傾向にある模様。1990年~2015年の二酸化炭素排出量の変化を見ると、EUの人口の50%に相当する低所得層は24%、中間層(EUの40%)は13%削減したのに対して、富裕層(10%)は3%増加したうえ、超富裕層(1%)は5%も増えているのです。EUを離脱したイギリスでは、高所得層の4割以上が1年に3回以上、飛行機を利用している一方、低所得層ではこの割合が4%ほどに下がります。このパターンはフランスやドイツなどでも同じ。

 

したがって、世界中で二酸化炭素排出量を削減するために重要なことは、このような実態に即した排出削減量の「公平な配分」となります。「所得に関係なく、みんなが平等に二酸化炭素を減らせばいい」というわけではないのですね。

↑もっと公平な気候変動への取り組みを提言するCSCのレポート

 

しかし、ここまで来ると、庶民としては「お金持ちは何をやっているんだ?」と思ってしまいますよね。「自分さえ良ければいい」という考えを持ち、化石燃料に依存した生活を送る超富裕層は「環境を汚すエリート(Polluter elite)」と呼ばれており、悪者と見られています。「富裕層が役割を十分に果たしていない」という認識は、ほかの人たちの行動を変える妨げとなるかもしれません。「富裕層だけルールが特別」という考えが広まれば、気候変動対策の公平さに悪影響を及ぼすでしょう。

 

ただし、一概に富裕層が悪いとは言えません。富裕層はお財布を気にせず、ソーラーパネルや環境に優しい乗り物などを購入することできるのも事実です。少し大袈裟な例を挙げると、世界トップクラスの富豪のひとりであるAmazonのジェフ・ベゾスCEOは、気候変動問題に取り組む科学者や活動家を支援する基金「ベゾス・アースファンド」を2020年2月に立ち上げ、私財から100億ドル(約1.1兆円)を投じました。富裕層には富裕層の言い分があるかもしれませんが、感情的になって富裕層だけを責めるのは偏った見方となってしまうでしょう。

 

むしろ問題は、地球を汚すエリートのライフスタイルや行動をどのようにして変えるのか? 富裕層は政治的な影響力が大きいため、変化を起こすのは容易ではありません。このレポートは人間の行動を変えるための方法を多面的に検討していますが、まだまだ研究が必要な様子。それでも、富裕層に責任ある行動を促すための動きは起こっています。例えば、英国の政界では、頻繁に飛行機に乗る人に対して累進税率で課税する仕組みが議論されており、賛否両論がありますが、このような取り組みは今後の政策づくりに役立つかもしれない、とCSCは注目しています。

 

気候変動に対する取り組みについて「公平性」という観点から論じたCSCのレポート。富裕層が二酸化炭素排出量を劇的に減らさなければ、温暖化を食い止めることはおろか、気候変動への取り組み自体が破綻しかねません。富裕層の責任は重大です。