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2021/7/20 6:00

英国「ペットブーム」の思わぬ反動! ロックダウン解除で犬が情緒不安定に

長期間にわたってロックダウン(都市封鎖)が続いた英国では、触れ合いと安らぎを求めて犬を飼う人が急増しました。しかし学校や職場への復帰が進み、生活が正常に戻りつつある中、今度は犬たちが飼い主の不在に戸惑い、精神的に不安定になっています。このようなペットブームの思わぬ反動に、英国の愛犬家やペット業界はどのように対応しているのでしょうか?

 

飼い主の不在がストレス

↑ずっとリモートワークにしてくれたらいいのに……

 

ロックダウンによるペットブームで、多くの英国人は犬を飼うようになりました。その結果、多くのお店でドッグフードが売り切れて在庫不足になったり、人気犬種を狙うペット泥棒が急増したり、ネガティブなニュースも報じられています。

 

しかし、ワクチン接種の普及とロックダウンの緩和で以前の生活が少しずつ戻ってくると、今度はペットの犬がこの生活の変化に付いていけず、精神的に混乱し、分離不安障害に陥っているのです。この障害は、愛着を持つ人から離れることで持続的に強い不安が生じる病気で、よく吠える、身震いをする、食欲をなくす、物陰に隠れてしまうなど、さまざまな症状が現われ、ときには愛犬を手放さなくてはならないほど悪化するケースもあると言われています。

 

ロックダウンが段階的に解除されていったことで、いままで1日中そばにいた飼い主が不在がちとなり、一緒に遊ぶ相手がいなくなったことが、犬にとって大きなストレスになっているのです。

 

ロックダウンの緩和が始まった2021年4月ごろから、ペットのメンタルヘルスを保つための呼びかけが、専門家によって子ども番組やニュースなどのメディアを通じて行われており、飼い主の職場復帰に合わせて、ペットを新しいライフスタイルに適応させるためのコツやサービスに関する情報が提供されています。

 

愛犬向けデイケアセンターが人気

↑友達との散歩は楽しいワン

 

犬のメンタルケアをするために最も人気がある方法は、散歩代行をしてくれるドッグウォーカーに愛犬を散歩に連れて行ってもらったり、ほかの犬と一緒に遊んだりすること。また、託児所のように犬を預かって遊ばせてくれるデイケアセンターもあります。ロックダウンが段階的に緩和されるようになってからは、それ以前と比べて利用者が40〜50%も増えているそう。

 

これらは、ただ犬を一定時間預かるだけではありません。アプリやSNSを利用して散歩ルートをマッピングしたり、トイレの報告をはじめ、日中の様子を撮った写真などを飼い主に提供したり、さまざまなサービスを提供することが、この業界のスタンダードになっています。

 

例えば、ブルース・ドギーケア(Bruce’s Doggy Care)社は飼い主と愛犬の多様なニーズに応えるために、プロのシッターが広々とした敷地内で子犬のしつけからグルーミング、お泊まりまで、幅広いサービスを提供しています。アプリ上で予約や来店時間の変更を簡単に行うことができ、愛犬の様子もこまめに報告してくれるなど、充実したサービスが評判を呼んでいます。

 

ロックダウン中に新たに飼われた子犬の中には、ソーシャルディスタンスが主な原因で、他者との接触が少なく、社会に適応できない犬もいますが、このようなサービスを利用することで、飼い主の不在に慣れたり、ほかの犬との付き合い方を学んだりすることができるのです。その一方、リモートワークを経験したことで、より柔軟な働き方を導入する職場も増えており、犬と一緒に出社できるペット・フレンドリーなオフィスも登場しています。

 

狂おしいペット愛

↑職場にも連れていって

 

他方で、ペット用スマート家電の導入も盛んになってきました。例えば、ペットキューブ(Petcube)はスマートフォン経由でAmazonのスマートスピーカー・Alexaと連動し、外出中でもペットに話しかけることができます。留守番しているペットをできるだけ安心させるために、部屋が暗くてもペットの居場所がわかる暗視カメラが搭載されていたり、不審な動きや音を検知すれば警告してくれたり、さまざまな機能が付いています。

 

また、高品質でヘルシーなおやつや、ペット用オーガニックシャンプーなどの需要も増えています。出前・宅配アプリのUber Eatsはロンドンの人気ペット用品店と提携。ユーザーは、ペットフードやペット用おもちゃを同アプリで簡単に注文して、家まで届けてもらうことができるようになりました。

 

さらにホテル業界では、愛犬を連れて旅行する人が今後増えていくことを見越して、ペット向けのラグジュアリーなサービスも登場しています。ヒルトンホテルの一部は、犬連れの宿泊客のために、ペット栄養学の専門家と共同開発した4種類の犬用メニューの提供を2021年5月に開始。ビーフブリスケット(牛胸肉)の煮込みやグルテンフリーのトマトパスタなど、ペット用とは思えないほど手の込んだ料理です。それに加えて、長旅の疲れを癒すドリンクとして、ラベンダーやバラをブレンドしたペット用ドリンクや、ライムの花や高麗人参などをブレンドしたノンアルコール・ワインも用意されています。

 

このようなモノやサービスをどの程度取り入れるかは飼い主によって異なりますが、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために外食や旅行が制限されていた分、犬に時間やお金をかける余裕が生まれたことも今回のペットブームに拍車をかけたといえるでしょう。ロックダウン期間中にペットが人間を癒してくれたように、今度は人間が愛犬を救う番です。

 

執筆者/ネモ・ロバーツ