スポーツをするために、義足や義手、車いすなどを必要とするパラアスリートにとって、テクノロジーの進化はパフォーマンスやコンディションの向上につながります。東京パラリンピックに向けて、どのようなイノベーションが生まれているのでしょうか? 障がい者スポーツにおける技術革新に関する議論とあわせて見てみましょう。
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F1と同じシートを採用した車いす
試合中は選手たちがコート内を激しく走りまわる車いすバスケ。スピードや俊敏な動きなどが求められる、この激しい競技において、車いすは選手の「脚」となる大事な存在。車いすバスケのオーストラリア代表は、オーストラリア国立スポーツ研究所のエンジニアと協力して、一部の選手がカーボンファイバーを使ったカスタムメイドのいすを利用しています。
この素材は、なんとF1マシンに使われるものと同じ素材。同研究所のエンジニアは、このカーボンファイバーは強度がありながら軽量で、スピードと俊敏さを求める車いすバスケには最適なのだと言います。しかも、選手が車いすに座った状態で3Dスキャンを行い、各個人の体型にあわせてシートを成形するため、ターンや切り返しなど、選手のさまざまな動きにも対応するそうです。軽量化しながら、俊敏性やフィット感が向上すれば、選手のパフォーマンスも上がるでしょう。F1マシンと同じ上質な素材が使われているということも、選手の自信やモチベーションを高めるかもしれません。
ラルフローレンの冷却テクノロジー
東京オリンピックとパラリンピックの開会式で、アメリカ代表団の旗手は最新テクノロジーを採用したユニフォームを着用しています。それが、ラルフローレンが独自に開発した、自動で温度を調整する冷却システム。ウェアに組み込まれた「RL COOLING」と呼ばれる冷却システムが、温度を監視しながら、着る人の肌から熱を分散させるそう。最先端コンピューターの冷却装置と同じと言われるこの技術は、東京の真夏の暑さを考慮して作られたのだとか。
さらに、ラルフローレンが手掛けるアメリカ代表選手団のウエアは、ベルトにペットボトルから再生したリサイクルポリエステルを使ったり、合成樹脂を使わずに作られた革の代替素材をデニムパンツに取り入れたり、サステナビリティにもこだわっています。
ちなみに、この「2020チームUSAコレクション」は、アメリカのラルフローレンの店舗やオンラインストアなどで購入することができます。
でも本当にスゴいのはアスリート
技術革新が進む一方、「テクノロジーの活用はどこまで許されるのか?」という議論が以前から行われています。国際パラリンピック委員会は、選手が使う装具の基本原則として「安全性・公平性・普遍性・身体能力」を挙げており、例えば、外部から電源を供給して筋力をサポートしたり、ジャンプ力のある大きなバネを使用したりすることは禁止。選手の能力を超えるようなパフォーマンスを生み出すモノは使用できないのです。
確かにパラリンピックや障がい者スポーツにおいてテクノロジーは重要ですが、それがすべてではありません。いくら素晴らしい用具を使っても、パラアスリート自身の能力が高くなければ、結果は出ないもの。選手自身のたゆまない努力や工夫、才能があって初めて、テクノロジーの力を最大限に引き出すことができると論じている専門家もいます。
世界各国から集まったパラアスリートの熱戦は、見る人の心を揺さぶり、熱くさせるもの。パラリンピックでは、最先端テクノロジーだけに目を奪われるのではなく、パラアスリートの身体と精神がいかに科学技術と融合しているのかにも注目してみましょう。きっと多くのインスピレーションが湧いてくるはずです。
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