哺乳類の赤ちゃんは、まだ目が見えないときから周囲の世界の夢を見ている——。そんな可能性を示唆する研究内容が先日、米国で発表されました。
哺乳類は初めて目を開けた瞬間から、周囲にある物体やその動きを認識することができます。それまで「見る」という感覚を体験したことがないはずなのに、なぜ哺乳類の赤ちゃんは、そのような高度な行動をとれるのでしょうか? 目が見えるようになる前から、周囲の世界を違う方法で見ているのでしょうか? このような疑問を解決するために、米国・イエール大学の研究チームが、哺乳類の代表としてネズミを使って調査に乗り出しました。
まず彼らは、生まれた直後の、まだ目が開く前のネズミの脳をスキャンしました。すると、網膜の活動を示す部分に、ネズミが直進するときに生じるのと同じ脳波が現れることが判明(以下の動画を参照)。しかもこの脳波は、出産からしばらく時間が経過すると消え、代わりに視覚刺激を脳に伝える、より複雑な神経ネットワークが形成されていきました。
↑生まれた直後のネズミに現れる網膜の脳波
同研究チームは、さらにこの網膜部分に関する脳波や回路について調査。「スターバースト・アマクリン細胞」という神経伝達物質を放出する細胞の機能を遮断させてみると、脳波の動きが、ネズミが直進するときのような流れを見せないことが判明。しかも、この細胞の機能をブロックしたネズミは、視覚的な刺激への反応が鈍くなりました。さらに、大人のネズミでは、この細胞が周囲の動きを感知する能力に関与していることもわかったのです。
つまり、目を開ける前のネズミの脳に見られた脳波は、周囲の動きを感じ取る働きがあるスターバスト・アマクリン細胞と関連があるということが示唆されたのです。しかも、ネズミの視覚に関する回路は、まだ目が見えない時点から動きはじめていた可能性があるとのこと。
夢の中で現実に備える
これらのことから、同研究チームは、ネズミは目が見えるようになる前から、人間が夢を見るように、周囲の環境について夢を見ており、それによって目を開けたときに周囲の環境にすぐに対応できるのではないかと推測しています。
哺乳類は、生まれたばかりの赤ちゃんであっても、外敵から身を守るために、目を開けてすぐに周囲の状況を把握する能力が必要です。だからこそ、生まれる前から、まわりの世界のことを把握しようとしているのかもしれません。
【出典】Crair C. Michael, et al. (2021). Retinal waves prime visual motion detection by simulating future optic flow. Science, 373(6553). DOI: 10.1126/science.abd0830