コロナ禍で旅行を自粛せざるを得ない状況にあったこの2年間は、旅行好きなドイツ人にとってかなりの我慢が必要とされる時期でした。マスクを外すことが許可された2022年の春、ドイツではこれまで溜まっていた旅行熱が一気に溢れ出すかのように旅行ラッシュが始まりました。コロナ禍が収束したとは言い切れない状況で、以前と比べてドイツ人の旅行事情にどのような変化が見られるのでしょうか?
ドイツでは新型コロナワクチンの3回目の接種を終えた証明書があれば、日常生活に制限がかかることはほぼなくなりました。市街地でもマスクを着用している人を見ることが少なくなり、「コロナ禍はほとんど終わったようだ」と思うことが増えています。日常会話にも「今年はどこでバカンスを過ごすの?」というような話が戻ってきましたが、旅行での必須アイテムに新型コロナワクチンの証明書が加わったことで、これまでワクチン接種をしていなかった人もバカンスに向けて急遽済ませるケースが増えています。
フライトや宿の予約スピードも勢いを増しています。統計データを提供するStatista社の調査では、2021年時点で82%の人が「翌年に旅行する計画がある」と答えていましたが、2022年4月になるとドイツ国民の約65%がすでにオンラインで旅行を予約していました。2年間に及ぶロックダウンの反動で、明らかに旅行意欲が強まっています。
じっくりと味わう
日本の旅行は週末や連休の数日間で名所を観光したり、贅沢な食事をしたりする「周遊型」が一般的ですが、ドイツなどのヨーロッパ諸国では、もともと1か所のリゾートエリアや宿泊先にとどまる「滞在型」が好まれています。食事付きの「オールインクルーシブ型」のホテルに1週間ほど宿泊したり、「フェーリエンハウス」と呼ばれる休暇用の一軒家やアパートメントを借りて1~3週間自炊しながら過ごしたりします。“暮らすように旅する”と言われるように、できるだけ旅行中の移動が少なく、予定を詰め込み過ぎない「リラックス型」がドイツ人の旅行スタイルといえます。
ドイツにあるルフトハンザ系列の旅行会社によれば、2022年は大きな都市部や観光名所を巡る旅行に比べて、やはり滞在型旅行の問い合わせが増えているとのこと。混雑するエリアを回るよりも1か所にとどまる旅行のほうが、コロナ感染のリスクを少しでも抑えられると考えている人が多いことも要因と見られます。
しかし、バカンス旅行の行き先や移動手段については、コロナ禍以前に比べると、さまざまな変化が見られます。陸地移動が可能なヨーロッパではこれまで海外旅行も気軽に行われていましたが、現時点ではまだ国境を越えた旅行に抵抗感を持つ人が多いのも事実。コロナ感染を恐れているというよりも、陰性証明の有無など頻繁に変わる各国のコロナ対策による入国条件を事前に把握し、準備することが面倒だという理由もあるようです。
さらに、パンデミックで大打撃を受けたドイツ国内のホテルやレストランを支援する運動「#supportyourlocal」 の効果もあるでしょう。Statista社によれば、2022年は国内旅行を予定している旅行者は約31%と、コロナ禍前を上回りそうです。
ドイツ政府も国内旅行の需要を喚起するために、燃料費の値上げや環境問題への対策、さらにローカルサポートへの支援策として、2022年6月から3か月間限定で国内の公共交通機関が乗り放題になる通称「9ユーロチケット」を導入しました。このニュースは欧州内で大きな話題となり、5月時点で約50%の人がこのチケットを購入する予定と答えていました(Statista社)。
パンデミック以前は、ドイツ人の間でクルーズ旅行が大人気でした。一度乗船してしまえば乗っているだけで次の目的地に連れて行ってくれるので、リラックスしながら楽しむには最適と言えましたが、コロナ禍以降はクルーズ旅行が避けられるようになり、旅行熱が戻った現在でも予約状況は芳しくありません。船上の密室として新型コロナウイルスのホットスポットになってしまったことに加え、C02や排出物・廃棄物を多く吐き出し、環境に悪影響を及ぼすという観点からも、クルーズ離れが見られるようになったのです。
日本人には真似できない?
ゆったりした長期滞在型旅行を好むドイツ人ですが、そのワークスタイルは「休暇が多いのに生産性が高い」ということで、働き方の良いモデルになっています。日本企業と違って、ドイツの多くの企業では従業員が年度初めに1年間の有給休暇スケジュールを提出しなければならず、ドイツ人はその時に年間の旅行プランも立ててしまうなど、とても効率的なのです。
ドイツ人にとって人生で旅行の優先順位が高いことは、コロナ禍以前もコロナ禍以降も変わりません。昔から最も人気が高い滞在型旅行は、人との接触を極力減らしたい人に合った旅行スタイルとも言えそうで、さらに人気が高まりそうです。