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2022/6/15 21:15

ドイツで大ブームの「貸し庭」、単なる趣味ではない魅力とは?

ガーデニング大国と言われるドイツでは、老若男女を問わず、太陽の下で土仕事をすることが自由時間の楽しみの1つとされています。また、自然を好む国民性ならではの文化として昔から「貸し庭」が愛されてきましたが、現在その大ブームが巻き起こっています。ドイツの貸し庭の魅力や現状、希望者が増え続ける背景とは?

 

プチ別荘のような存在

↑貸し庭に行きたい!

 

多くの人が庭付きの家に住むことに憧れると思いますが、都市部で庭付き一軒家を確保するのはなかなか難しいかもしれません。そのような人のために、自分の庭を持ちたいという願いを叶えてくれるのがドイツならではの文化といえる「貸し庭」。ドイツでは貸し庭が国内全域に存在し、人々に親しまれています。

 

ドイツの貸し庭は「クラインガルテン(小さな庭)」と呼ばれ、長い歴史とともに園芸好きのドイツ人に愛されてきました。日本の市民農園と同じように、貸し庭は利用料を払って使用できる集合型の市民農園ですが、日本と異なるのは野菜や花木の栽培だけではなく、敷地内にそれぞれ大小さまざまな小屋があることです。

 

小屋には電気や水道が整備され、家具も置けるので、いわばプチ別荘のような存在。ただ、別荘といっても貸し庭はあくまでも「自然の中でリラックスする」ことが目的のため、住居として使用することは禁止されています。それでも、庭で料理やバーベキューをして楽しんだり、小さい子どもがいる家族は遊具やプールを置いたり、さまざまな魅力が詰まった空間です。

 

社会的な重要性

↑貸し庭の小屋①

 

貸し庭の歴史は、200年ほど前に遡ります。ドイツで起きた人口増加による貧困や食糧難の拡大を抑制するために取られた措置の1つでした。

 

その後、各地の自治体や教会などの組織によって管理され、現在ではさまざまな社会的機能を果たしています。都市部の自然環境を確保することに加え、人々が農園として使えるエリア、さらに場所によっては避難所として利用されるなど、とても重要な存在なのです。

 

クラインガルテンの連邦協会によると、2022年時点でドイツ国内には90万区画以上の貸し庭があり、合計で4万4000ヘクタールもの敷地面積になります。区画によって大小はありますが、1区画の平均は約370平方メートルで、家族や友人などと休日を過ごすリラクゼーションの場としては十分な広さ。

 

ただし、この敷地では好き勝手なことをして良いというわけではありません。所属するクラインガルテン協会によって異なりますが、それぞれの貸し庭にはルールが設けられており、それを守る義務があるのです。クラインガルテンの規定の例は下記の通り。

 

  • Laube(ラウベ)と呼ばれる小屋は24平方メートルまでの広さであること
  • 環境、自然保護、景観を考慮する
  • 庭の敷地の3分の1以上を園芸に利用し、そこで果物、野菜、ハーブを自分で使用(販売用ではなく)するために栽培する必要がある
  • 一部の指定された針葉樹や落葉樹を植えてはいけない

 

このようなルールのもとでドイツの貸し庭は緑が保たれ、癒しの場となっています。

 

貸し庭で旅気分

↑貸し庭の小屋②

 

ドイツ人は「バカンスで旅行をするために仕事をしている」と言われており、自然の中でリラクゼーションを楽しむことが人生に必要不可欠と考えています。したがって、ロックダウン(都市封鎖)によって旅行が制限されたドイツ人の関心が貸し庭に向けられたのは驚くべきことではありません。ドイツの統計会社Statistaが、コロナ禍におけるドイツ人の休暇の過ごし方について調査したところ(複数回答可)、以下の結果が得られました。

 

  • バルコニーや庭で太陽を浴びる: 60%
  • 友達に会いに行く: 38%
  • ハイキングに出かける: 36%
  • サイクリングに出かける:  30%
  • そのほか: 12%
  • 代案なし: 11%

 

この結果からも、ドイツ人にとって太陽を浴びることがいかに大切なのかが伺えます。コロナ禍でドイツにも空前の園芸ブームが訪れ、トイレットペーパーの買い占めに続き、園芸グッズが次々に売り切れました。多くのドイツ人が貸し庭で日光浴をしたいのです。

 

何年も待つ価値はある

↑生き方が変わる

 

ベルリンやミュンヘンなどの大都市では、貸し庭に申請登録してから利用できるようになるまで4~8年かかるといわれています。郊外では早くて半年から2年ほどを要するようですが、植物を育てるのに自宅からあまり離れていては使いやすいといえません。また、大都市ではマンション建設や大型公園などの開発が進み、貸し庭の区画が取り壊されるなど、ドイツの伝統文化であるにもかかわらず、貸し庭は減少する一方です。このように、貸し庭の需要と供給が釣り合わないことが、待ち期間が長期化した理由と言えるでしょう。

 

それでも、多くのドイツ人が、都会で300平方メートル以上の土地を自由に使用できる貸し庭を求め続けます。水まきしながらビールを飲んだり、自家栽培の枝豆を庭の小屋で茹でて食べたり、休日は友達を呼んでバーベキューをしたり。貸し庭を手に入れた人は、自然に癒されながらリラクゼーション気分で野菜や果物を育てることに没頭。だからこそ、貸し庭は、園芸にまったく興味がなかった若者の生活を変える力があるとも言われているのです。コロナ禍が収束し、以前のような生活が戻ったとしても、貸し庭ブームは当分の間、消えそうにありません。