近年、「スマホ依存症」という言葉をしばしば耳にします。この病気は「スマートフォンの使用を続けることで昼夜逆転する、成績が著しく下がるなど様々な問題が起きているにも関わらず、使用がやめられず、スマートフォンが使用できない状況が続くと、イライラし落ち着かなくなるなど精神的に依存してしまう状態」(東邦大学医療センター)を指します。この“治療法”として、メールやSNSの通知機能をオフにすることが挙げられますが、この方法はかえって逆効果になる可能性があるようです。
米国・ペンシルベニア州立大学の研究者は、平均年齢36歳の男女計138人のiPhoneユーザーを対象に、SNSの利用やスマホの使用状況を調べました。スマホの画面を見ている時間を確認できるツール「スクリーンタイム」を使って、スマホの使用時間や手にする頻度などを調査。スマホの通知音については、音が鳴る設定、バイブのみの設定、通知をオフにした消音モード(マナーモード)などを自由に設定してもらいました。
その結果、通知機能がオンになっている人より、消音モードにしている人のほうが、スマホを手にして画面を確認する頻度が高くなっていることが判明。通知機能をオフに設定しているほうが、「メッセージやメールなどを見逃していないか」という焦りが生じ、この心理的苦痛を減らすために、スマホの利用時間が減るどころか、かえって長くなってしまうようなのです。
複雑な社会心理
通知をオフにすると余計にスマホが気になってしまう人は、FOMO(フォーモ)タイプの人かもしれません。FOMOとは「Fear of Missing Out」の略で、自分が周囲から取り残されることに対する恐怖を表し、SNSなどの時代背景から生まれてきました(逆に、周囲から取り残されても平気な心理状態は「Joy of Missing Out(JOMO)」と呼ばれています)。FOMOの傾向が低い人は消音モードにすると、スマホの使用頻度が著しく低くなったのに対して、FOMO傾向が高い人は消音モードにすると、スマホを確認する頻度が高くなったことがわかりました。
それと同時に、どこかの集団の一員であるという「帰属意識」が強い人も、FOMOの人と同じようにスマホを手にする時間が多いことも明らかとなったそうです。
この結果を受けて、ペンシルベニア州立大学の研究者は「スマホ依存症の人に通知をOFFにすることを勧める考え方は見直したほうがいい」と提言。性格や生い立ち、働き方、人間関係など、より広い観点からスマホ依存症の治療法について考えるべきなのかもしれません。
【出典および参考】
Mengqi Liao, S. Shyam Sundar, Sound of silence: Does Muting Notifications Reduce Phone Use?, Computers in Human Behavior, Volume 134, 2022, 107338, ISSN 0747-5632, https://doi.org/10.1016/j.chb.2022.107338.
東邦大学医療センター 大森病院 メンタルヘルスセンター『スマホ依存について』
https://www.lab.toho-u.ac.jp/med/omori/mentalhealth/mental/smartphone_dependence/index.html