現在、ネパールでは日本語学習が大流行しています。街中では「STUDY IN JAPAN 」という看板があちこちに掲げられ、「はじめまして」と挨拶する若者によく出会うようになりました。この背景にあるのは「40万人の外国人留学生受け入れ」を掲げた日本の政策。海外に働き先を求めるネパールの若者にとって、この方針は渡りに船といえるのです。
なぜ日本へ?
ネパール人の海外出稼ぎ者の数は累計で約600万人。人口の5分の1が外国で出稼ぎをしていることになります。最大の出稼ぎ先といわれるインドは、ネパールとの国境の往来が自由であることから、この統計には含まれていません。大勢の人たちはアルバイトや卒業後の就業を目的に学生として海外に渡ります。
実際は600万人を優に超えると思われる、働く世代の国外流出が止まらない大きな原因は、ネパール国内で経済成長を後押しする産業が育っていないからです。
国内に若者向けの成長産業が少ないとはいえ、多くの人が出稼ぎ先として選んできた中東やマレーシアは、安全面や職場環境面で不安が払しょくできません。そこで、安定した出稼ぎ先や留学先を求めるネパール人が選んだ国の一つが日本。東日本大震災やコロナ禍の影響で日本への留学生が激減していたため、日本政府が呼び込みに力を入れたことが奏功したといえます。
就学中もアルバイトができ、ビザ手続きが比較的簡単といった日本の特徴は、ネパール人のニーズにぴたりと一致。将来は家族を呼び寄せられる可能性があることや、留学初期費用が150~200万円程度と欧米に比べて安いことも大きな魅力です。取得に時間はかかりますが、30万円程度で済む特定技能ビザも社会人に人気があります。
日本語をちゃんと勉強しないと…
多くの若者が日本への留学や就職を目指すようになり、留学を仲介する日本語学校は大人気。数年前までは日本語学校が1校もなかった田舎でも、今では数百メートル以内に5~6校がひしめきあっています。
筆者がそのうちの1校を訪問したところ、特定技能ビザにも挑戦可能な学校ということもあり、経営者でもある先生が1人で5クラス、計100人ほどの生徒に教えていました。現地の日本語学校の先生たちはほとんどが日本からの帰国者です。
日本語学校に行かずに日本語を学ぶことも可能ですが、学校には日本の学校や派遣会社とのコネクションがあります。学習目的だけでなく、日本に行く橋渡しをしてもらうために、多くの人は日本語学校に通うことを選びます。
ある日本語学校の事務員によると、生徒の望みはとにかく手っ取り早く日本に行くことで、学校の評判を上げたい先生も多くの生徒を送り出したいと思っているそうです。そのため、日本語を学び始めて数週間でも日本語学校の面接試験に参加させ、なかにはこっそり答えを教えている先生もいるとか。
結果的に、日本のことをよく知らず日本語の勉強も不十分なままで来日してしまう若者が増加。日本の文化や習慣、人間関係に戸惑ったり、思うように稼げず多額の借金をしたり、精神的に追い詰められたり、悪質な仲介業者や学校に搾取されたりという人たちが増えていくことになります。
ネパールの若者たちが日本に熱い思いを抱いてくれるのは、とてもうれしいことです。それが失望で終わらず、「憧れの国日本」が本当に住みよい場所となるために、政府だけでなく迎える私たちも真剣に考えねばならない時代が来ているようです。
執筆・撮影/Yui.N