日本食ブームが続く近年のイタリアでは、日本の味を手軽に楽しめるストリートフード風の店が人気。なかでも、日本のアニメなどによく登場する「おにぎり」は知名度が高く、多くのスーパーで購入できるようになりましたが、それと同時に少しずつ変化もしています。ミラノの日本料理店に勤務する筆者が現地からレポートします。
アニメや漫画で知る
多くのイタリア人は以前から『ドラゴンボール』や『ドラえもん』『鬼滅の刃』などの漫画やアニメでおにぎりを目にしており、「食べてみたい」と思っていたようです。食べ放題が爆発的に流行った寿司ブームが定着し、現在ではおにぎりがブームになりつつあります。
おにぎりは大手スーパーで売られるようになり、価格は1個だいたい3ユーロ(約480円※)ほど。一緒に並んでいる寿司や、一般的なサンドイッチよりもお手ごろです。具材は「カレー味ごはんのエビおにぎり」や「胚芽米のツナおにぎり」などで、和食や魚介のヘルシーなイメージが販売戦略として取り入れられています。
※1ユーロ=約160円で換算(2024年2月8日現在)
ただし、おにぎりは独自の変化を遂げつつあります。例えば、イタリア語では「GI」を「ジ」と発音するため、多くのイタリア人は「Onigiri」を表記通り「おにじり」と発音するものだと思っています。
言語的な変化に加えて、日本食を紹介するイタリア人のサイトやYouTubeの「おにぎりの作り方」のレシピ動画も、日本人からすると「おや?」と思うことだらけ。お米の炊き方では沸騰したら、ふたを取ると書かれており、その結果、水っぽい炊き上がりになったり、水の量が少なくて焦げてしまったり……。ごはんにすし酢や米酢を混ぜているケースも多く見られます。
具材は、イタリアでも手に入る材料で作った「ツナマヨ」や「焼いたサーモンに醤油とネギ」が主流。ツナ缶を使わず、生のマグロを細かく切ったものを炒めて醤油で調味しマヨネーズとネギを和えたものや、スモークサーモンにアボガドを巻いたものなどがあります。勘違いなのかアレンジなのか、ちょっと首をかしげたくなる具材も……。
このように、本来のおにぎりから少し乖離しているような面はあるものの、イタリアでおにぎりはそれだけ注目度が高いということなのでしょう。
寿司みたいになりそう
筆者が勤務するミラノの日本食レストランでは、日本のマヨネーズを使用したツナマヨが大人気で、そのほかに現地の具材を工夫し、週に約200個のおにぎりをサイドメニューとして提供。ケールやかぶの葉(Cima di rapa)を高菜風に炒めたものを混ぜ込んだベジタリアン向けおにぎりや、牛肉のしぐれ煮など、イタリアでも手に入りやすい野菜や肉を具材にし、どれも人気で毎日売り切れるほどです。
どんな具材も包み込むだけで、ごはんとマッチするおにぎりの可能性は、無限大とも言えます。寿司が「SUSHI」として裏巻きやエビフライを巻いたタイガーロールに発展していったように、おにぎりもこれからますます現地化が進むことが予想されます。
イタリアには日本食レストランもたくさんありますが、価格が高いため若者などが気軽に行くことは難しいのが現状です。そのため、おにぎりやたこ焼きといった日本と同じように手軽に安価で楽しめる商品や、カジュアルなストリートフード風の店の人気はさらに高まりそうです。
執筆・撮影/Ciho