デザインに対する視野を広げるために「アエテ株式会社」を設立
――さて、鈴木さんは、東芝でデザイナーとしてのキャリアをスタートし、家電ブランド「amadana」のデザイナーを担当されたあと、2011年にカドーを設立して昨年10月、デザイン部門の旧カドーデザイン社を「アエテ株式会社」に変更されました。その理由を教えてください。
鈴木 東芝ではインハウス(社内デザイナー)として働いていたんですけど、そこから出て、まったく違う仕事をすることでデザインに対する視野がすごく広がったんです。でも、カドーで仕事を続けるうちに、またインハウスのような状態になってきた。「このままでは会社の成長にもつながらないんじゃないか」と思うようになってきて。外部クライアントの仕事を積極的に受けるようにしてみたんです。ただ、社名が「カドーデザイン」のままだと、「カドー」が先行してどうしても家電の仕事の依頼が増えてしまう。仕事の幅が、なかなかうまく広がっていかなくて。家電以外をもっとやっていくべきだということで、「アエテ」に社名を変えました。
――「アエテ」の社名の由来は、日本語の「あえて」から来ているとか。
鈴木 そうですね。「あえて」人がやらないことだったり、人とは違うデザインだったりを目指していくとところで、このような社名になりました。ですから、どんな仕事でも、ウチに頼めば面白い発想のデザインだと思ってもらえるよう、心掛けています。
――「面白い発想」とおっしゃいましたが、具体的にどのようなものでしょうか。
鈴木 例えば、トータルプロデュースをやっているリノベーションマンションのブランド「R×C(リバイシー)」は、「カドーの製品が似合う空間」がコンセプト。置かれる家具や家電に統一感があり、まるで、あらかじめ備え付けられているような……プロダクトデザイナーだからできる空間をデザインしました。ここでは、アエテならではのデザインの形を提示していると思います。新ブランドの「双円」も象徴的でわかりやすいです。
「双円」は「ブランドを共有する」という新しい試み
――「双円」は、「日本のものづくり力や美しい文化を届けていく新しいプラットフォーム」とのことですが、具体的にどんなものなのでしょうか。
鈴木 「双円」は「ブランドを共有する」という新しい試み。同じデザイン、同じ販路、同じブランディングを異業種・異素材でシェアするという形で、単なるプロダクトデザインではなく、産業を活性化するうえでの枠組みからデザインしています。これは通常のデザイン事務所ではやらないような形ですね。すでに富山県の錫(すず)メーカー・能作(のうさく)、千葉県のガラスメーカー・Sghr(スガハラ)、愛知県の陶磁器メーカー・NAGAE(ナガエ)という、3社のスペシャリストとともに「双円」ブランドを共有しています。
伝統産業のトップランナーとの出会いがきっかけ
――複数の企業でひとつのブランドをシェアするというのは画期的ですね。どのような経緯で、ブランドを設立するに至ったのでしょうか?
鈴木 個人的に、デザインの幅を広げるためにも、日本の伝統的な産業を見てまわろうと思ったんです。月に1件のペースで工場見学をして、日本の伝統的な産業をいろいろと知っていくうちに、そういった産業の職人の数が減ってきたという話が聞こえてきて。何かできないか……と考えていた矢先、ニューヨークで錫物メーカーの「能作」の能作社長と知り合うチャンスがあって。一般の方には知られていませんが、「能作」さんは、伝統工芸のブランディングで大成功を収めた、その道のトップランナー。雲の上のような人なのですが、ダメ元で、その場で「工場見学をさせてください!」とお願いしたんです。
――海外で知り合って、いきなり工場見学をお願いするのもすごいですね。
鈴木 ええ(笑)。でも、「いつでも来てください」と言ってもらって。それを真に受けて、日本に帰ってすぐに富山の工場に出向いて案内してもらったんです。ここで錫の作り方を見学して、「これは面白い!」と。能作社長に「製品のデザインをさせてもらえませんか?」と話をしたら、「ウチは持ち込み制だから、いつでも持って来て」と言われて(笑)。だからその1か月後、製品のデザイン、サンプル、ブランドのロゴからイメージのポスターまで、一気に作って持っていったんです。それでイメージを伝えたら、「面白いね!」ということになって、ブランドを立ち上げることになりました。
「日本人になじみのある造形」を模索し、たどり着いたのがこのカタチ
――ちなみに「双円」の、2つの球を合わせたような独特なデザインは、どのようなコンセプトのもとで生まれたんですか。
鈴木 もともと日本人のDNAのなかに入っているような懐かしさだったり、温かさだったり。そういった点を感じるものにしたいと考えて作りました。この丸みも、ただ球体を切ったのではなく、場所によって曲率をグッと変えています。使ってみると手になじむ。お餅をつぶしたような、ふっくらしたお米のような、だるまを連想させるような……日本人になじみのある造形を模索するうちに、たどり着いたカタチです。僕は家電でシャープなものばかりを作ってたので、逆にこういった温かみのあるモノを作ってみたいな、と。実際、3Dプリンターでサンプルを作ってみると、このくびれがしっくりくるし、扱いやすさという面でも理にかなっている。これ、じつはスタッキングして(重ねて)収納できるようになっているんです。その点はこだわった部分ですね。
――なるほど。どれも同じ図面で作られてるから、素材の違う器もぴったり重ねられるんですね。
鈴木 しかも、2つ重ねることで、違うサイズの器と同じ高さになって、ラインが揃うようにもなっています。どうしてもラインが合わないサイズのものも、並べたときにキレイに見えるようなラインに統一しています。
いもづる式に賛同者が現れて「デザインのシェア」が実現
――とはいえ、違う工房で同じ形に作ってもらうのは難しいですよね。職人さんとのやりとりはどのように行なっているんですか?
鈴木 最初、能作さんには、3Dプリンターでサンプルを出力して持っていったんです。3Dプリンターや三次元CAD(3 次元コンピュータ支援設計)というもの自体、あちらからすると初めてだったそうで、すごく喜んでもらえて。すぐに制作に取りかかってもらえました。今はCADで作ったものを2Dにしたり、3Dプリンターで出力したり、2Dを紙に落としたり、いろいろな形のデータを用意して、職人さんに伝わりやすい形で渡しています。
――実際、完成した器をご覧になっていかがでしたか?
鈴木 とても面白いものができたと思いました。ただ、能作さんと話していたら、「でも、錫って熱いものが入れられないんだよね」という話になって。「じゃあ、他のメーカーさんにも持っていっていいですか?」と聞いたら、能作さんが「いいよ」と即答していただいて。さらに、ガラスメーカーのSghr(スガハラ)さんを紹介してもらったんです。Sghrさんも面白がってくれて、「やろう」と言ってくれたんです。
――では、「デザインのシェア」というアイデアは、なりゆきで実現したんですね。
鈴木 はい。なりゆきではあったんですが、「ひとつのデザインを企業を超えてシェアする」ということが、すごく「新しいな」と思って。そんな矢先、Sghrさんと話していたら、「ウチのは熱湯を入れて飲むことはできるけど、本格的な耐熱ガラスではないんだよね」という話になった。そこで、今度はSghrさんから陶磁器メーカーのNAGAEさんを紹介してもらって。NAGAEさんは、「菅原さんが言うなら、ぜひ!」と(笑)。