各社の「強い販路」が違う点に着目し、販路もシェア
――すごいご縁ですね(笑)。しかし、老舗メーカーさん同士で、そんな横のつながりがあるとは……。
鈴木 そうなんですよ。そこは私も意外でした。そんな経緯で、NAGAEさんが参加してくれることになって。「これは伝統的な産業を活性化させるプラットフォームになるかも」と思ったんです。器のデザインは全部メーカーに渡してシェアしてしまう。そして、それぞれ好きなタイミングで作っていきましょう、という関係でやっていくことになったんですね。さらに、販路もシェアしちゃいましょう! というのをコンセプトにしてしまったんです。
――販路のシェアとはどういうことですか?
鈴木 デパートに強い能作さん、デパートのほか、自社の店舗で展開するSghrさん。NAGAEさんはホテルに卸しているのでBtoBが強かった。横で掛け率を決めて、これらの販路をシェアすることにしたんです。素材は違うけど、同じラインナップなのをウリにして、今まで入っていない販路にどんどん流れていくシステムを作ったわけです。
――なるほど。そうすると「双円」というブランドの相乗効果も出てきますね。
鈴木 はい。もうひとつ、入れるモノの形が同じなので、パッケージが共有できるのも意外に大きい。パッケージの価格も下げることができますし、販促物も共有できるんですよね。
――非常に理にかなってますね。
鈴木 はい。特に老舗メーカーさんは、モノを作るのが得意。私たちはデザインの力でその魅力を表現し、紹介するのが得意なわけですから、得意なことを分担していこう、と。私たちが運営するECサイトも販路として機能させ、デザインから販路、パッケージまで、全部をシェアして拡販しましょうという形にしました。だから「双円」はブランド名でありながら、プラットフォームの名前でもあるわけなんですね。
ブランディングの面でも「デザインのシェア」は効果的
――なるほど。そういえば、さきほど効果的なブランディングには「統一感」と「継続」が必要とうかがいましたが、参加するメーカーが複数であっても、「統一感」という部分では、完璧に条件を満たしていますね。モノのデザインは同じですし、パッケージや販促物、公式サイトもすべて共通なわけですから……。
鈴木 その意味で、ブランドとして認知される下地はできていると思います。
――今後、「双円」に参加する企業は、増えていくのでしょうか?
鈴木 共感していただいてるメーカーがすでにいくつかあります。例えば、レンジフード(キッチン換気扇)を作っている某メーカーさんは、「双円」の形を取り入れたステンレスのワインクーラーを試作中。越前漆器の木地技術を応用した木工メーカーさんとも開発トライをしています。
「双円のカタチ」を成立させるのは、実はとんでもなく難しい
――なるほど。ちなみに素朴な疑問なのですが、こういったゆるやかな曲線やくぼみのあるデザインだと、作るのが難しいのではないですか?
鈴木 実はそうなんです。職人さんとしては、ものすごく難しいみたいで。こちらは何も考えずにデザインしてしまったんですけどね(笑)。例えば、陶磁器のNAGAEさんは小皿が4320円、おちょこが5400円と、他のメーカーさんとは違って、小皿よりもおちょこのほうが工程が多く、値段が高くなっています。具体的には、形を崩さずに焼くために、同じ円周の「トチ」という台をわざわざ作ってから、それに載せて伏せて焼いているんです。
――このデザインを保つために、とんでもない手間がかかってるんですね。ほかにもデザインや質感を高めるために、職人さんの知恵が活かされた製品は多いのでしょうか?
鈴木 たとえば、平皿の外周のくぼみ。グッと光って見えるのは、このシャープな曲面があるからで、この形じゃないと、このハイライト感が出ない。だからこのようなデザインになったのですが、案の定、素材によっては作るのが大変で(笑)。
――また、そうなりますか(笑)。
難しいカタチだからこそ、素材ごとに物語が生まれる
鈴木 特に錫で作る能作さんが非常に難しい。また、錫物はサイズが大きくなればなるほど難易度が上がるんですが、いちばん大きい平皿は、業界の人が見ると、「これはヤバい…!」となるほどの大きさ。また、ガラスのSghrさんはタンブラーなどの、厚さと曲線のせめぎ合いがすごく大変だったと話されてました。
――どこまでも職人さん泣かせのデザインですね(笑)。とはいえ、はからずも、「双円」のくびれや曲線などを多用したデザインが、職人さんの技術力を知らしめていますよね。その形を成すために、素材ごとに物語が生まれているというか。
鈴木 はい。確かに職人さん泣かせな部分もあるんですが、みなさん果敢に挑んで、技術を総動員して仕上げてくれる。そこが面白いんですよね。ひとつの作品に、日本の匠の技術が詰まっているんです。
伝統産業の成長を想像させる、ワクワク感のあるブランド
最後に鈴木さんは、「テーブルウェアのすべてが『双円』で統一できるよう、ブランドを成長させていきたい。近い将来、第二弾、第三弾を違う分野でも展開したい」と、夢を語ってくれました。実際に「双円」の作品に接してみると、どれも手作りの温もりが感じられ、ついつい触ってみたくなる、いつまでも眺めていたくなるような質感。ほれぼれするような美しさで、「コレ、本当に欲しい!」と思うものばかりでした。飲食店をはじめ、これから多くのシーンで目にすることになりそうです。
そして、「デザイン」「販路」という、ブランドの根幹に関わるものをシェアしてしまおうという「双円」の仕組みは極めて面白い。確かに、鈴木さんのようなデザインの力、ブランディングの力を持つ方が導いていけば、伝統産業はもっと違った形で成長できるのでは……。クルマや家電だけではない、日本のものづくりが世界を席捲する日が来るかも……。「双円」は、そんなワクワク感を強く感じさせてくれるブランドでした。
撮影/我妻慶一