アウトドアウェアなどで多く見かけるGORE-TEX プロダクトのタグ。「お! この服の生地はGORE-TEXなんだな。なら安心!」と納得しがちですが、その中身、本当に知っている人はどれくらいいるでしょうか? 筆者もこの取材をするまでは知らないことばかりでした。
今回は、GORE-TEX プロダクトの真髄に迫るべく、日本ゴアの小木曽晃子さんに、その成り立ちから性能について話を聞きました。
自宅地下室での研究によって確立されたGORE-TEX メンブレンの基礎
――まず、GORE-TEXの成り立ちから教えてください。
小木曽晃子さん(以下:小木曽) W. L. Gore & Associatesは、ビル・ゴア、ヴィーヴ・ゴアという夫婦によってアメリカのデラウェア州で1958年に創立された会社です。このゴア夫妻は、当初、現在のGORE-TEX メンブレンという膜の元となるPTFEと呼ばれるフッ素樹脂の開発をデュポン社で社員として進めていました。
このPTFEという素材の可能性を追求すべく、独立し、W. L. Gore & Associatesを創業しました。創立当初はゴア夫妻にはお子さんがいて、自宅の地下室で研究を続けていたそうです。
――そのPTFEというものは何だったのですか?
小木曽 蛍石という鉱物から作られたフッ素樹脂で、当初は電気ケーブルのカバーなどによく使われていました。
ゴア夫妻は「このPTFEをもっと応用できたら、色んな商品に展開できるだろう」と予測はしつつも、模索している状態だったようです。1969年に、数年前から会社に加わったビルとヴィーヴの息子であるボブ・ゴアが、PTFEの延伸に成功し、延伸ポリマーePTFEを発見しました。ePTFEの性質を活用することでゴアの中核技術の適用範囲が広がりまして、医療、バイオテクノロジー、宇宙航空関連、燃料電池自動車等にも応用できるようになったわけですね。
その中の一つがファブリック(生地)の分野で、これがGORE-TEX ファブリックスの原型だったのです。
雨を通さず、汗を逃がし、風を防ぐ超機能的ファブリックの中身
――具体的に、従来のファブリックに比べて、どういった点が優れていたのでしょうか?
小木曽 ePTFEのメンブレンは防水性、透湿性、防風性を備えた連続多孔質構造を持っています。しかも熱に強く、劣化が少なく耐久性がある。この構造を見ていくと、「アウトドアウェアに向いているのではないか」と考えられ、GORE-TEX ファブリクスの開発に繋がりました。
このメンブレンは、厚さが0.01ミリ。その網目の1平方センチメートルの中に14億個の孔(あな)があります。たとえば水滴の大きさはこのメンブレンの一つの孔の2万倍の大きさなので、絶対に入らないんですね。つまり水を通さないので、いかなる天候下においてもアクティビティでは特に身体を守ってくれるものでした。
次に透湿性ですが、活動をすると汗をかきますが、この孔は蒸発した汗(水蒸気の分子)の700倍の大きさなので、水蒸気が簡単に透過するのです。つまり雨の浸入を防ぎつつ、水蒸気分子の700倍の大きさの孔が汗は逃がしていくという防水透湿を両立させた非常に優れたものでした。
3番目が防風性です。GORE-TEX メンブレンはクモの巣が何層にも重なったような立体的な構造になっています。普通、風は一つの方向に吹いて、それが直接当たるものですが、編目が立体なので、風に当たっても分散させるため風を防ぎます。
この3つの大きな特徴を持ったGORE-TEX メンブレンを高品質な生地に貼り合わせてGORE-TEX ファブリクスが作られます。この特性を活かし、1980年代はスキーウェアなどに広く用いられ、日本でもGORE-TEX プロダクトの認知度が高まりました。
今はハット、ウェア、グローブ、靴と頭からつま先まで全身揃えられるようなウェアが揃っています。
――靴にも採用されているんですか?
小木曽 靴で言えば、アウトドアはもちろんビジネスシューズやコンバースのオールスターなどのカジュアルシューズやスニーカーにも採用されていますし、洋服としてもアウトドアウェアだけでなく、ビジネス用のコートにGORE-TEX ファブリクスを採用するものも増えてきていますし、年々その応用は広がっていっているわけですね。
身近な工業製品にもGORE-TEXのもとのポリマーが使われている
――洋服以外の意外なところで採用されているものはありますか?
小木曽 GORE-TEX メンブレンの核となっているePTFEが使用されている領域は、医療の分野でも広まっていまして人工血管や大動脈を中心とする血管内治療に使用されるステンドクラフトにも採用されています。また、携帯電話、カメラ、色々な工業製品の見えないところに使われています。
ただ、一般消費者の方にとって身近なePTFEは、やはりGORE-TEX 製品ですよね。様々なブランドのウェアに、この黒いタグがついているもので認識されている方が多いと思いますが、この秋からはGORE-TEX INFINIUM™ プロダクトという新しいブランドが世界的にスタートしました。
これは、防水性を担保する従来のGORE-TEX プロダクトに対して、必ずしも防水性を必要としないシーンで、快適性とパフォーマンスを提供することを目指したブランドです。たとえば、軽い雨を弾きながら透湿性と柔らかな肌触りのアウターや、スリムなシルエットでありながら足先を温かく保つシューズなど……と幅広いシーンで快適性をお届けするアイテムをラインナップしています。
つまりGORE-TEX プロダクトと言うと、アウトドアなどのハードなシーンでのアイテムが多かったのですが、タウンユースや防水を必要としないアクティビティにおいてより使いやすくしたブランドがGORE-TEX INFINIUM™ プロダクトです。
GORE-TEXはどんどん洗うべき
――ところで、このGORE-TEX ファブリクスを使った商品ですが、洗濯などはしても良いものなのでしょうか?
小木曽 洗濯はこまめにしていただきたいです。
――良いんですか? 洗濯をすることで防水性に影響があったりしませんか?
小木曽 いえ、むしろ洗濯をしていただいたほうが快適により長く使っていただけるんです。 防水性は、GORE-TEX メンブレンの構造上洗濯により影響されるものではないのですが、汚れが付着すると撥水性が弱まり水を弾きにくくなってしまうんですね。ですので、洗い方は洗濯表示ラベルに沿っていただいて、清潔さを保っていただいたほうが、機能がキープできます。
洗剤は粉末でなく液体の中性洗剤を少量使ってぬるま湯で洗濯してください。すすぎは2回しっかりしていただき、洗剤はきちんと落とします。脱水は軽くするかしなくても大丈夫です。柔軟剤とか漂白剤は避けてください。
正しい熱処理でさらに快適な着心地に
――あと、気になるのは熱ですね。GORE-TEX ファブリクスの耐熱性はどうでしょう? 熱を加えると、機能が落ちるなどありますか? 溶けるんじゃないか、劣化するんじゃないかと心配ですが……。
小木曽 正しい熱処理をしていただくことで逆に撥水性が回復するんですよ。GORE-TEX ファブリクスの表面には、耐久撥水加工が施されていて、新品で着始めたときは雨粒がコロコロと落ちていくような撥水性が保たれています。使用するうちに汚れなどによって水弾きが弱まってきますが正しく熱処理をしていただくことで、撥水性を回復させることができます。
方法としては、スチームなし低温設定にして当て布をしてアイロンをかけるか、もし乾燥機があれば乾いたウェアを乾燥機に20分かけてください。擦れやすい部分は撥水機能が戻りにくくなるので撥水スプレーや撥水成分を含む洗剤で洗うことで、ウェアの機能を保っていただけます。
GORE-TEX INFINIUMとGORE-TEXでさらなる高い性能の実現へ
――これから先の未来で計画されていることはありますか?
小木曽 近いところでは、先ほど申したこの秋にスタートした新ブランドのGORE-TEX INFINIUM™ プロダクトで、新しいユーザーにも、様々なシーンでGORE-TEX 製品を着て活動の幅を広げていっていただきたいですね。
もちろん従来のGORE-TEX プロダクトも、開発、品質改良の研究はずっとやり続けていきますので、この二軸をもって、GORE-TEX ブランドというものをさらに強固なものとし、ユーザーの方により快適なエクスペリエンスをご提案していきたいと思っています。
機能に優れ、汎用性の高いGORE-TEXファブリクスの変遷、具体的な構造がわかりました。これを読まれた後、あなたのワードローブにGORE-TEXファブリクスを用いたアイテムがありましたら、一度洗ってから、改めてその機能を体感してみるのも良いかもしれませんよ!