日本中を驚かせた衝撃の引退宣言から3か月。これまでテレビ番組での歌唱披露を拒んできた安室奈美恵が、本日12月31日19時15分より生放送されるNHK「紅白歌合戦」に特別出演し、2016年のリオ五輪のNHKテーマ曲「Hero」を披露します。同番組で歌を披露するのは、なんと14年ぶりとのこと。
そこで、GetNavi webでは、先日掲載した小室哲哉好きライター湯浅氏のプレイリストに続き、編集部員が選んだ「安室奈美恵を語る上で欠かせない5曲」を紹介します。紅白ステージでの安室奈美恵さんの登場を待つまでのあいだに、編集部員の思い出がつまったコメントをお楽しみ下さい。
GetNavi web編集部・和田史子(元・ギャル誌編集者)の5曲
※思い出の曲が多すぎるので、ベストアルバム「Finally」に収録されていない曲から選曲
「Stop the music」
1995年7月発売のシングル曲で、avexに移籍し小室哲哉プロデュースに移行する直前、最後のユーロビート。SOPHIE「STOP THE MUSIC」のカバーで、訳詞は2004年の「ALL FOR YOU」の作詞も手がけた渡辺なつみ氏だ。1995年は「TRY ME」(1月)から「Chase the Chance」(同年12月)まで5作のシングルをリリースし、途中レコード会社も移籍した安室奈美恵第一の大転換期。「TRY ME」の時点で女子高生の間では大ブレイクを果たしており、学校の休み時間には教室でこの曲が鳴り響いていたのをよく覚えている。ちなみに、アーティスト名義では前作「太陽のSEASON」(同年4月)から「SUPER MONKEYS」が外れ単独に。一抹の寂しさを感じたことも、同時に記憶している……。
「Hide&Seek」
2007年6月に発売されたアルバム「PLAY」の1曲目。曲名こそ「かくれんぼ」だが、同アルバム収録のシングル曲「FUNKY TOWN」に向かって行進するテーマソングをイメージし、本人がマーチっぽいアレンジをオーダーした。マーチらしい管楽器と打楽器が主張する2拍子が力強い。2010年に国際音楽賞「WORLD MUSIC AWARDS」を受賞した際、現地モナコでパフォーマンスした楽曲でもある。
docomo25周年の企業CMを見ればお分かりの通り、ケータイと同様安室奈美恵のファッションも、25年の間に変遷してきた。言わずと知れたアムラーファッションから近年のAラインのロングドレスまで。ハイヒールのロングブーツはお決まりだが、特に2000年代後半以降、彼女のファッションを特徴付けているアイテムのひとつがコルセット。シフォンやレースを多用したトップスをコルセットでウエストマークし、従来の強さとセクシーさに、かわいらしさも加えるように。さらにこのアルバムの頃からはコスプレ的要素も相まって、ファッションアイコンとしての存在感を再び印象付けた。この曲、このアルバムでは、そういった衣装の進化も楽しめる。
「It’s all about you」
こちらもアルバム「PLAY」の収録曲。久しぶりにロックを歌いたい、とmichico氏にオーダーした曲。ところがレコーディングで意外にも大苦戦して「泣きそうだった」と、当時の雑誌インタビューで告白している。リズムも狭いレンジで走るメロディも複雑で、純粋に楽曲としても楽しめる。ジャネット・ジャクソンやTLCから多大な影響を受け、R&Bを指向した安室奈美恵とは違う一面を発見できる曲でもある。
「make it happen」
日本で少女時代やKARAをはじめとするK-POPブームが巻き起こっていた頃、同じくK-POPのガールズグループ「AFTERSCHOOL」とコラボした楽曲で、アルバム「Checkmate!」(2011年4月)に収録、同年シングルカットされた。AFTERSCHOOLのメンバー8人(当時)を従え、その中央でソファに腰掛けながらの斬新かつ挑発的なダンスは、バーレスクさながら「足の組み替えだけでもダンスになり得るのか!」などと受ける印象が強烈。ぜひMVも見て、ガールズパワーの洗礼を受けて欲しい。
このアルバムは、小室哲哉プロデュースから離れてセルフプロデュースを始めた以降に発表された、AI、土屋アンナ、DOUBLE、VERBAL、ZEEBRA、川畑要などとのコラボ楽曲をまとめたもの。先日のテレビインタビューで、“コラボによって音楽を楽しむことを思い出した”と本人が話しているように、新生「安室奈美恵」の突破口を開いた作品群だ。個性の異なるアーティストたちとアグレッシブに攻めつつもしっくりと調和した楽曲に仕上げており、ソロアーティストとしてだけでない、器用さ、引き出しの多さを実感する。
「YEAH-OH(SINGING“YEAH-OH”)」
2012年3月発売のシングル曲「YEAH-OH」と、これを英語詞にアレンジしアルバム「Uncontrolled」(2012年6月)に収録した「SINGING“YEAH-OH”」。歪んだ音のダークさと疾走感が両立したクールなダンスナンバー。「楽曲はライブで盛り上がるかどうかで決めている」と明かしているように、激しくダンスで魅せる箇所、客席と一体になれる箇所がバランス良く盛り込まれており、ライヴを重視する彼女らしい、ザ・安室奈美恵といえる一曲ではないだろうか。
GetNavi web編集部・玉造優也の5曲
「Hide&Seek」
安室奈美恵が好きな女の子についてのお話。
僕の世代(84年生まれ)だと、女の子はみんな、あゆやアイドルグループがメインで「アムロもそりゃ好きだけどねー」なんて感じの子が多かった印象。男でいうと、B’zが近いかもしれませんね。GLAY、L’Arc-en-Cielより半世代だけ先というか。
ただ、そんななかでも、「アムロが好き!」って子は、めちゃくちゃに熱意を持っている印象で。
たしか24-25歳くらいだったと思いますが、当時、ひそかに好きだった女の子がまさしくそんな「安室奈美恵信者」でした。
その子がカラオケで歌っていたのが「Hide&Seek」だったわけですが、最初は歌詞もわけわからんし楽曲の印象はあまり良くなかった。
でも、その娘がすっごく楽しそうに踊りながら歌っている姿がやけに鮮烈で。
男って単純ですね。それだけで次の日から隠れてリピートしまくっちゃうわけです。その娘と共通の会話を作ろうという下心もあったのかな。
往年のJ-POPらしい王道展開ではなく、シンプルなリズムで展開していく感じが「そんなに派手な曲じゃないはずなのに、歌ってて楽しいのかな…」と最初は思ったものですが、
気付いたらスルメでした。鬼のようにキーが高いわけでもないから歌いやすかったのかな?
はぁ……Kちゃんお元気ですか? またカラオケ一緒に行きたいです。
「SWEET 19 BLUES」
先日、西武池袋線江古田の隠れた名スナック「ママン」が閉店するとの一報を聞いた(来年の1月25日だとか)。
ママンは夜~翌日昼まで営業しているお店で、学生の頃は朝まで飲んだくれてそれでもまだ帰りたくない時にお世話になっていた。なぜか私は、ママンでみんなが酩酊状態で会話もままならない中、何度か「Sweet 19 Blues」を歌ったことがある。
男のSweet 19 Bluesなんて喜ぶ人間は、通常皆無だろう。しかし、半日以上飲み続けた正午間近だと、なぜかみんな聞き入ってくれるものなのだ。
歌っている私自身も意識絶え絶えの中、目に入った「もうすぐ大人ぶらずに 子供の武器も使える いちばん旬なとき」の歌詞。
その時、実に22歳。大学も留年していたので、早く大人ぶるべきだし子供の武器はとっくに使えなくなっていたはずだけれど、大学生である限り19歳なんだとなぜか悟った気持ちに。
33歳を迎えた今でも、その気持ちは時折思い出す。日本中のそんなこじれた男子こそ、この曲は聞くべきなんじゃないかと思う。
「YOU ARE THE ONE/TK Presents こねっと」
この原稿を書くにあたり、ライター湯浅氏の原稿を読んで、安室版があったのか!! と知り、悔しい気持ちでいっぱいですが、97年の1月1日にこの曲がリリースされた当時、小学校6年生の私の胸に熱い想いがたぎったのを覚えている。
後にいくつもの、豪華アーティストたちによるコラボ曲が生まれていくが、この曲に限って言えば安室嬢の引退が決まったいまこそ評価されるべきではないかと思う。
華原朋美、globe、trf、観月ありさ、ダウンタウン浜田雅功、内田有紀などの人選、もはやいまとなっては意味不明。しかもTM Networkの3人が全員揃っているという。意味不明。
当の安室嬢は、今ではバラエティに引っ張りだこのDJ KOOによるシャウトから、「YOU ARE THE ONE~♪」と歌いだす。いったいこの時、どんな気持ちでいたのよあなた?
しかし、安室版があったとは…。シングル「SOMETHING ‘BOUT THE KISS」に入ってるみたいですよ。1月1日になったら聴いてみよ!
「Do What U Gotta Do/ZEEBRA feat AI.安室奈美恵,Mummy D」
Zeebra、、、本名は横井英之という、日本HIPHOP界の黎明期を支えたラッパーであり、今はテレビ朝日系の人気番組「フリースタイルダンジョン」のオーガナイザーを務めるおじさん。
そんなおじさんと安室嬢も何度かコラボしている。「SUITE CHIC」というユニット名で「good life」なんてグッドチルなR&Bソングを出しているし、おじさんと安室嬢には強い絆があるのです。
私の中でおじさんのベストバウトは、日本メロコアの雄・Hi-Standardが主宰するイベント「AIRJAM2010」でのキングギドラだけれど、その時のおじさんは熱いメッセンジャーの側面が強く、ミュージシャンではなかった。反面、安室嬢とのコラボにおけるおじさんは、往年のがなり、しゃがれたライムを徹底するラッパー。この曲、安室の存在感は薄いけど、久々に気張ってるおじさんを聴くには面白いですよ。
「メルセデスベンツ/竹原ピストル」
今年の紅白歌合戦の話題と言えば、1に安室、2にエレカシ、345が竹原ピストルの出演というのは言うまでもない。本人は「よー、そこの若いの」を歌うことが発表されているが、
竹原ピストルという稀代のシンガーが紅白の大舞台で歌うべきなのは、「メルセデスベンツ」かと思う。
本曲はしがない男による神様の独白の体裁で続くフォークソング。「ねえ、神様。ぼくにごっついごっついベンツを買ってよ」というラインで始まる。
男の独白は、全て好きな女の前でかっこつけたいだの、リビドー全開ないかにもモテない男を救いそうなアツ苦しいものだ。
男が想いを向ける女は、少し危ない仕事をしている影のある人。不幸で報われていないような印象の彼女は、もしかしたらブラウン管の中の安室嬢に憧れて育った……かもしれない。
都会に出てきて私もシンガーに! なんて言ってたけど現実は厳しく……なんてサイドストーリーを完全妄想できてしまう。
あまりに安室嬢と関係ない話すぎて怒られそうだけど、批判も集中する紅白歌合戦は、安室とエレカシと竹原ピストルを出演するのは偉いと、個人的に思いますよ。三者必見です。
GetNavi web編集部・一條 徹の5曲
「SWEET 19 BLUES(KC DUB MIX)」
安室奈美恵の25年もの活動期間に生み出された名曲は数あれど、個人的には「SWEET 19 BLUES」に勝る曲はないと思っている。この曲には、「19歳」の「安室奈美恵」にしか表現しえなかった“時代の空気”というものが、瞬間冷凍パックされているように感じる。あの90年代後半の渋谷の街並みと、そこに集まった若者たちの狂乱と孤独。そういったものを一心に背負って歌う安室奈美恵は、やはりあの時代を象徴する存在であったし、だからこそ彼女は稀代のスターなのだ。
このKC DUB MIXは、シングルカットされた「SWEET 19 BLUES」に収録されているリミックスナンバー。オリジナルの良さはそのままに、軽快なビートが加えられて、より気軽に聴けるアレンジになっている。同シングルには、アルバムでは途中でフェードアウトされてしまうm.c.A・Tとのラップナンバー「Joy」の完全版も収録されているので、ファンならチェックしておきたい。
「Dreaming I was dreaming」
当時、小室哲哉氏が手掛けた歌手は「小室ファミリー」と呼ばれていたが、そのなかでも安室やglobe、華原朋美のような“一軍”以外では、小室氏の右腕だった久保こーじ氏が作曲や編曲を担当することが多々あった。打ち込み主体の小室氏の曲と異なり、久保氏の曲は生音を使うバンドアレンジの曲が多かったが、そのなかでもこの「Dreaming I was dreaming」は出色のデキ。音数の少ないシンプルで渋めのアレンジに、けだるげに歌う安室のボーカルがハマり、ギャルの象徴から大人の女性へと成長していく安室奈美恵の新たな可能性を覗かせている。
リリース当時は「地味な曲だな……」としか思わなかったが、大人になってから聴くとしみじみその良さがわかるので、この機会にぜひもう一度聴いてみてほしい。
「Did U」
安室が産休を取っていた1998年にデビューした宇多田ヒカル、浜崎あゆみ、椎名林檎、aikoといった女性アーティストは、みんな自分で詞を書くタイプだったため、その後「アーティストとは、自分で作詞や作曲をするもの」という認識が広まったように思う。安室もその影響を受けてか、一時期作詞にチャレンジした時期があった。先日放送されたNHKの特番でも、「Say the word」という曲の詞は、息子に向けて書いたもの、というような発言があった。
この「Did U」は、2002年7月の離婚直後の同年9月にリリースされたシングル「Wishing On The Same Star」のカップリングとして収録されたもの。安室が自身でペンを取っているが、その内容がとても強烈なのだ。「意味のないやさしさならいらない」「その嘘がすべてを壊していく」「ほかの誰かといればいいじゃない」「言い訳なら聞くけど、絶対許さない」「もう二度と愛さない」と、浮気を繰り返す恋人への絶望と決別を描いており、こんな詞を書いた当時の安室の心境を思わず想像してしまう。SAMさん、あんた何したの……。
「Namie’s Style」
自身で転機だったと語る覆面プロジェクト「SUITE CHIC」での成功を受け、自信を取り戻した安室が、再び安室奈美恵の看板を掲げてリリースしたアルバム「Style」のオープニングを飾る曲。小室プロデュース以降の第二次黄金期をともに作り上げていく盟友T.Kura&michico夫妻によるディープなR&Bナンバーとなっている。
「これが私の新しいスタイル」と高らかに宣言した歌詞が、国民的スターの呪縛から解放され、やりたいようにやる! と吹っ切れた感じがして清々しい。当時、身近な人からも「安室奈美恵は終わった」と言われたことが悔しかった、とのちに語った安室の反撃ののろしともいえる曲だ。
「Hello」
2008年にリリースしたベストアルバム「BEST FICTION」はチャートで6週連続1位&ミリオンセラーを記録し、安室奈美恵は2回目の黄金期を迎える。その時代に安室を支えたクリエイターが、Nao’ymt氏とT.Kura&michico夫妻だ。とくにmichico氏が描いた、海外ドラマ「SEX AND THE CITY」の世界観を地でいくような強気で自立した女性像は、同性人気の高い安室奈美恵のパブリックイメージを作るのに貢献したと思う。
アルバム「PLAY」に収録されているこの曲は、男性に愛されるために自分を押し殺してきた女性が、自分らしい生き方に目覚めていく心境を、携帯電話のやりとりに例えてユニークに描いたもの。恋人からのフォンコールに対し、「いま忙しいか、電話に出たくない気分だからかけ直して」と言い切るところに、自分の生き方を誰にも邪魔させない、という強い決意が込められている。
90年代後半にギャルの象徴だった安室奈美恵は、2000年代には「男に媚びず、仕事も恋愛も楽しんで、ときには女同士でおしゃべりを楽しむ新時代の女性像」を体現する存在になった。そして人気絶頂のなかで引退を決めた彼女の生き方は、同世代の女性たちへ新たな道を指し示すのではないだろうか。伝説になりつつある安室の生きざまを、引退のその瞬間まで見届けることができるなんて、この時代に生まれてよかった!
イラスト/マガポン