「頑張る」「努力する」。いずれもポジティブな響きの言葉だが、さらに何らかの要素を加えると意味はより具体化するはずだ。たとえばTPO。いくら頑張っても努力しても、タイミングや場、そして状況を見誤ったら、それは無駄であるばかりでなく、マイナスの結果をもたらす行いにさえなってしまうかもしれない。
PDCAサイクル
PDCAサイクルという言葉がある。PLAN(計画)→DO(実行)→CHECK(評価)→ACT(改善)の4つの段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善していこうという考え方だ。企業の業績を上げたり、効率的な業務を行ったりしていく方法論として広く受け容れられている。仮説・検証の過程を循環させながらマネジメントの品質を高めていく行いと定義することもできるだろう。
1950年代に初めて提唱されたビジネスのフレームワークであるPDCAサイクルを自分なりの形で仕事に活かしているという人は多いだろう。ただその反面、「活かしきれている」と実感している人がそれほど多くないのも事実であるようだ。
その理由は、頑張ったり努力したりする姿勢が必ずしもTPOと合致していないからかもしれない。あるいは、サイクルが繰り返されていく中で生じる微妙な誤差が徐々に大きくなっていくことに気づけないからかもしれない。
もやもやを解消してくれる本
ネガティブな要素を的確に察知し、それをポジティブな意識に置き換えながら、日々繰り返すPDCAサイクルの質を上げるための具体的な工夫はないのだろうか。文章を書くというひとりの作業を黙々とこなす日々を過ごしている筆者としては、そのあたりに大きな興味を感じる。
もちろん自分なりの努力は怠っていないし、それなりに頑張っている。でも、ひとりの作業であるがゆえにTPO―あるいは方向性―に対する感覚が常に、そして絶対的に正しいと言い切ることはできない。目的から外れていないことを客観的な形で認識できる方法があれば、それが動機付けにも生産性アップにもつながっていくと思うのだ。
そんなもやもやした部分をかなり明らかにしてくれる本が見つかった。
毎日1%の成長
『ムダな努力ゼロで大成長 賢い仕事術』(木下雅幸・著/ダイヤモンド社・刊)は、PDCAにもうひとつ“ロールプレイング”という大きな要素を盛り込みながら、仕事力アップについて述べた一冊だ。その前段として触れておかなければならないことがある。それは「毎日1%成長すると、1年後には37倍になれる」という概念だ。自分に対する1%の上積みを毎日心がけると、1年間で「1.01の365乗」になり、1年後の数字はおよそ「37.78」となる。
鋭い方、あるいは資産運用に明るい方ならすぐにお気づきでしょう。これは複利効果です。1日後に「1.01」になった自分に、2日目はさらに「1.01」を掛けますから、2日後の自分は「1.0201」になります。「1.02」になるのではなく、もう少し成長できるのです。
『ムダな努力ゼロで大成長 賢い仕事術』より引用
「頑張る」とか「努力する」ことにまつわるTPOや方向性が問われるのは、まさにこの部分なのではないか。木下さんは強調する。何が1%の成長に相当するのか? これを自分なりにつかみ、確実に持続していくことが大切になる。
成長とは、RPGにおけるレベルアップである
木下さんは、1%の成長を具体的に示すものとして以下の項目を挙げる。
(1) あっという間に大成長している人たちは、経験値が高い
(2) 経験値が高い人たちは、成長がより早い
(3) ただし、経験は「意識」して初めて経験値に変化する
この3点から、わかりやすい言葉遣いの説明が導き出される。
経験値が高い人ほど、速く成長できる。この2点の関係性について、私はちょうど典型的な「ロールプレイングゲーム」(RPG)の仕組みに近いことに気づきました。
レベル1の私が、見るからに弱そうな敵を倒して得る経験値はわずか。しかし、レベル30の先輩はいかにも強そうな難敵を倒して、その数十倍の経験値を得られるわけです。だからといって、レベル1の私が無理をしてその難敵に挑んでも、一瞬で「死んで」しまい、かえって非効率的になってしまいます。
『ムダな努力ゼロで大成長 賢い仕事術』より引用
こういう事実を意識することが、PDCAのTPOや方向性を見きわめる際の具体的な指標となっていくのだと思う。
ワークブック的な使い方をしたい
こういうことなのだ。
PDCAとは、成果を出すための手段です。本質的に目指すべきは成長であり、RPGでいうならば「レベルアップ」です。それを、ただでさえ仕事が忙しいなかで、どのように効率よくやっていくか。私はそこにこそビジネスパーソンが順調に成長していく上でのクリティカルポイント(臨界点)があると感じています。
『ムダな努力ゼロで大成長 賢い仕事術』より引用
序章の「入門編 毎日、たった1%成長すれば大成長!」で語られている内容だけを見ても、考えさせられる要素がたくさんある。そしてこの本は、次のような章立てで流れていく。
第1章 これで毎日365日1%成長できる
第2章 成長するためにPDCAで経験値を積み上げる
第3章 目の前の相手とともに成長を加速させる
第4章 見えない相手をストレスなく攻略する賢い方法
第5章 地域、社会、そして世界を相手に仕事力をグレードアップ!
第6章 「正解」がない仕事で成果を出すための賢いテクニック&アイデア
筆者としては、序章をしっかり読み込んだところで自分の仕事内容と仕事のやり方を可視化して、第1章以降に進んでいく方法をお勧めしたい。この本は、自分に対する客観性を確認しながら読み進んでいくことで効果がさらに高くなるような気がする。そういう姿勢が「毎日積み重ねる1%」につながり、1年後に37倍になるものの土台を形作る。
筆者には、おぼろげながら見えてきています。この本を基にした自分なりの方法論らしきものが。
【書籍紹介】
ムダな努力ゼロで大成長 賢い仕事術
著者: 木下雅幸
発行:ダイヤモンド社
自分のビジネス・スキルを高めるために毎日の仕事のほかに、一生懸命寸暇を惜しんで学んでいた著者。しかし、ある時上司に言われた一言で目が覚める。できる上司は経験値が高いのだと。日々の仕事を合理的に回して自分の経験値を高めたら、ただそれだけで毎日わずかながらも成長できる。いつもの仕事を自分のかなでPDCAを回していたら、それだけで経験値がどんどん蓄積される。今日の自分よりわずか1%成長していれば、1年後には37倍の自分になれる。設計士から建築物の発注側になり、建設コンサルタントとなった著者だからわかるビジネススキルの合理的なアップ方法を30代のビジネスマンのために分かりやすく解説した1冊。
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