2020年はリモートワークが都市圏を中心に普及し、運動不足による体調不良やストレスを抱える人が多かった年でもありました。しかし、新型コロナウイルスが再び感染拡大を見せている今、リモートワークや巣ごもりは今後さらに強化されそうな気配もあります。
そんな中、リモートワークの疲れやストレスに対して「『混ぜる』『グルグルする』ことが癒しになる」と提言する精神科医の先生がいます。今回は杏林大学名誉教授・古賀良彦先生による「混ぜる」「グルグ
リモートワークでのストレスは「解消」の機会が少ない
ーーまずリモートワークについて、古賀先生が患者さんや周りの方から「よく聞く話」がありましたら、お聞かせください。
古賀良彦先生(以下、古賀) リモートワークが浸透し始めた頃、多くの人が必ずおっしゃっていたのが「楽になった」ということでした。「通勤がないから楽です。ただ、太りました」という話を皆さんよくおっしゃっていました。もちろん、「コロナ禍で電車に乗らなくて良い」「イヤな上司と会わないで済む」「家の中で自分のペースで仕事ができる」「メールはあったとしても、電話はあまりかかってこないし、仕事の妨害が少ない」とリモートワークにも利点があります。
しかし、リモート中の方の健康診断をすると、まず男性はコレステロールや中性脂肪など、生活習慣病絡みの値が上がっている人が多くなっている。対して女性はストレスによる過食や極端な食欲不振を示すもの少なくありません。いずれにしても身体的な実害が起きているケースがみられます。
また、「ずっと家で仕事をしている」ことでのストレスももちろんあります。例えば、ご夫婦で働いていらっしゃる家庭の場合、2人とも家の中にいて、それぞれの会社の仕事をリモートで行うことになります。そもそも家の構造自体が「仕事をするため」に作られていないことが大半ですから、リビングを使ってリモートワークをするケースは多いと思います。
そういう環境でリモートワークをしなければいけないし、なおかつ3度のご飯の支度をしなければならないと……これは随分な負担です。常に落ち着きがない状態が続いていることになりますから、当然ストレスは増えると思います。
また、コロナ以前のストレスは、「会社帰りに一杯飲んで上司の悪口などを言う」「休日にスポーツや遊びの時間を作る」といったことで解消できていたのですが、前述のようなリモートワークの環境では解消できない。気晴らしに外に出ることもできないので、ストレスのやり場がなくなってしまうんです。そういうやり場のないストレスが重なり、心理的な面、肉体的な面で不調が出ることは多いと思います。
ストレスを「ためない」「元を断つ」ではなく「対処する」
ーーストレス過多に陥ると「さらなるストレス」を加算してしまったり、連鎖することはありますか? 例えば普段なら気にならなかった音に対して、異常に不快を感じるなど。
古賀 それはあります。「ストレスはたまらないようにすれば良い」「ストレスの元を断てば良い」ということはよく言われていますが、しかし容易にできることではないですよね。特に前述のようなリモートワークでの家庭環境は簡単に変えられませんから。そういった環境下で心理的なストレスを溜め込んでいくうちに、そこからさらに連鎖して、それまでなら全く気にならなかった水道の音、洗濯機の音まで不快に感じるようになり、本来のストレスをさらに増幅させてしまうことはあります。
こういった、ストレスの元をなかなか断てないような場合、どうすると良いかと言うと、「元を断つ」「たまらないようにする」から「対処する」に切り替えることです。「コーピング」という専門用語があるのですが、これはストレスの元となるものを断つことはできないけれど、うまく対処していく、うまくやり過ごす方法を身につけることを指す言葉です。
今日、ストレスを感じたら翌日まで持ち越さず、今日のうちにコーピングしておくほうが良いです。なんとなくストレスを感じたまま翌日、さらに翌日と過ごしていると、最初はそれほど大きくなかったストレスが気付いたときにはうんと大きくなっていることがあります。「食欲がない」「眠れない」「動けない」といったはっきりした症状が出てから気付くのではなく、日頃からストレスに対してコーピングする意識を持つ、対処し実践すると良いと思います。