雨が降った後、ちらほら目にするナメクジ。カタツムリと似たような生きものだが、カタツムリほど愛されてはいない。塩をかけると溶けてなくなるのは有名だ(実際に溶けているわけではないが)。
ナメクジは、野菜などを食べてしまう害虫としてあまり好かれている生きものではないが(カタツムリも同じように野菜を食べるが、なぜかこちらはあまり害虫扱いされない)、実はかなり頭のいい生きもののようだ。
ナメクジのここがすごい!
『考えるナメクジ—人間をしのぐ脅威の脳機能』(松尾亮太・著/さくら舎・刊)は、世界でもそれほど数多くないナメクジの脳研究を行っている著者が、その驚くべき脳機能について解説している書だ。いったいどんなところがすごいのか。本書からそのすごいところを抜粋するとこんな感じだ。
●脳や触覚は破壊・切断されたまま放置されてもひとりでに再生
●学習能力がある
●食べた分だけ身体が大きくなり、大きくなった個体は小さくなることはない
これらがどうすごいのか。本書を頼りに簡単に説明していこう。
脳や触覚は再生可能
まず脳や触覚の再生能力について。身体が切断されても再生する生きものはそれなりにいるが、ナメクジの再生能力もかなり高い。
たとえば、ナメクジの脳にある「前脳葉」という、記憶を司る部分がある。ナメクジの脳は約1.5mm角。その大部分を占めるのが前脳葉だ。ここを破壊すると数週間から1か月で前脳葉が再生される。この前脳葉は記憶のほかに、嗅覚も担当している。視覚があまり発達していないナメクジは、嗅覚が命綱。前脳葉が破壊されてしまうと、それこそ生死に関わる。そのためか、ものすごいスピードで前脳葉が再生されるようだ。ただし、記憶はリセットされてしまう。
触覚に関しても同様。ナメクジには頭部に大小4本の触覚があるが、ここで嗅覚を感じている。この触覚を切断しても再生される。やはり嗅覚に関する部分のため、随時再生されるのだ。
学習能力がある
ナメクジはただぼんやり生きているわけではない。実は学習能力がある。たとえば、ナメクジに初めてマッシュルームを食べさせるときに、同時に二酸化炭素を吹きかけると、それ以降数週間にわたりマッシュルームを食べなくなる。つまり、「マッシュルームを食べようとすると二酸化炭素を吸わされる」ということを学習するのだ。これを「連合学習」という。
しかも、その学習は数週間は記憶される。さっきどこかに置いたスマホが見当たらなくて家中探しまくる筆者よりも賢いかもしれない。
なお、連合学習だけではなく「論理学習」も行える。論理学習とは「A=B、B=CならA=C」というような二次条件づけや、ブロッキングと呼ばれる学習もできるとのこと。簡単に言えば、「パブロフの犬」のようなことがナメクジでも可能というわけだ。
ただし、前述のように脳を損傷して再生すると、その記憶は消えてしまうとのこと。脳が再生するというのは素晴らしい能力だが、記憶が消えてしまうという弱点もある。
食べれば食べるほど身体が大きくなる
ナメクジは、餌を与えたら与えた分だけ食べてしまう性質がある。そのため、餌をたくさん与え続けると身体がどんどん大きくなる。しかも、大きくなった個体は餌を与えなくても身体が小さくなることがない。人間ならダイエットすれば痩せるが、ナメクジはダイエットには向いてない生きもののようだ。
実は、この「身体が無限に大きくなる」というのは、生存戦略的に重要なポイント。ナメクジは雌雄同体で、個体同士で精子を交換して、体内の卵子と受精させていつでも卵を産むことができる。身体が大きい個体は一度に数十個の卵を産むが、小さな個体は1から数個。つまり、身体が大きいほうが子孫を残すという点においては断然有利なのだ。
ナメクジ研究者はかなりレアな生きもの
著者によれば、ナメクジは飼いやすく哺乳類に比べ脳の構造がシンプル。かつ誰が実験をしても同じ結果が得られやすいため、行動実験動物として扱いやすいのだそう。
しかし、世界的にナメクジの脳研究を行っている研究者は非常に少ないため、情報交換ができない、ほかの研究者の研究を参照できない、実験のための器具や薬品などがない(あっても高価)という苦労もあるようだ。
ナメクジは比較的よく目にする生きもの。道ばたにいれば「ああいるな」くらいで済むが、自分の家にいたらちょっといやな感じがするくらいには、マイナスイメージがあったが、本書を読むとなかなか賢くておもしろい生きもののようだ。
これからナメクジを見かけたら、ちょっと観察してみようか。そんな風にナメクジに関する印象が変わった。
【書籍紹介】
考えるナメクジ—人間をしのぐ脅威の脳機能
著者:松尾亮太
発行:さくら舎
ナメクジは脳も生態もスゴいんです! 論理思考も学習もでき、壊れると勝手に再生する、1.5ミリ角の脳の力! ナメクジの苦悩する姿にびっくり! 頭の横からの産卵にどっきり!
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