日本のハサミ(紙を切る用の文具ハサミ)は、低価格帯の層が信じられないぐらいに分厚い。ざっくり言えば、切れ味に対して値段が安すぎの“円高ハサミ安”状態にあると思ってもらっていいだろう。実際問題、500円ちょっと出せば誰でもだいたい満足できるハサミが買えてしまうんだから、すごい話である。
とはいえ、文房具に詳しいおじさんこと筆者としては、「そこで満足しちゃって本当にいいの?」とも思うのである。お値段高め……と言っても充分手が届く範囲に、これまでと比べても驚くほどハイクオリティなハサミがあるとしたら、気にならないだろうか?
ちょっといいハサミにはお値段なりの価値がある!
あらためて国産の文具ハサミを価格で大まかに分けると、普及クラスの500円前後帯、素材や刃に工夫のある1000円前後帯、そしてハイクラスとなる3000円前後帯、となる。(100均のものや、逆に8000円~1万円以上の高額製品もあるが、その辺りはひとまず対象外とする)
今回紹介したいのは、コクヨから2022年10月12日に発売されたばかりのハイクラスなハサミ「HASA」シリーズだ。
コクヨ
HASA(ハサ)写真左から・すべて税別
HASA-001(強力):2200円
HASA-002(強力・ロング):2500円
HASA-003(紙・工作用):2200円
HASAというのは、実はコクヨ製ハサミの型番のこと。例えばコクヨの500円前後帯ハサミ「サクサ」の型番は「ハサ-P280」となっている。
そんな型番をそのまま製品名に用いて、さらに001から003という立派な番号を振る。これはコクヨによる「我が社のハサミのフラッグシップです」という宣言に違いない。
3本はそれぞれ機能が分かれている。001:万能多用途、002:多用途で大型強力、003:細かな切り作業向き、という感じ。001と002は刃先まで切れ味が続くカーブ刃なので、ダンボールなどの厚物も安定してサクサク切れるのがポイントだ。ただしカーブ刃は構造上、刃先まで厚くなってしまうため、紙工作や切り抜きなどの細かな作業には使いづらい。そこで003では、あえてストレート刃にすることで、取り回しをよくしているのだ。
面白いのは、見た目を含む印象をとにかく地味~に抑えていること。パッと見で分かる外見的特徴があるわけでなし、画期的なギミックもなし。黒いシンプルなハンドルも見た目は超絶に地味(ただしエッジレスでめちゃくちゃ握りやすい!)。
つまりこれ、ただ「ハサミとして高品質で良く切れるよ」という部分だけを抽出して磨いたような製品なのである。
「そもそも500円ハサミで充分に切れるのに、何千円も出す意味が分からない」と考える人はもちろんいるだろう。実際そういう人は500円でもなんの問題もないはずだし、それはそれで正解と言える。
だが、ここで問題にしたいのは実用性ではない。何度も言うが、500円ハサミもハイクラスハサミも、実用的に「切れる」という点では同じ。価格によって大きく変わるのは、官能性とでも言おうか……切るときの気持ちよさの部分なのだ。
ただ普通のコピー用紙を切るにしても、安価なハサミの場合は、「ジョリ……」という濁点混じりの音と手応えで切れる。
対してHASAシリーズは、「シュー……」という感じ。音が静かだし、なによりハンドルから伝わる手応えがまったく別物。鋭い刃は紙に入っていく際の抵抗が少なく、なめらかに切れているのが誰にでも分かるはずだ。
このなめらかに切れる感覚が、端的に「気持ちいい」というわけ。官能性にお金を出す・出さないは、あくまでも個人の嗜好の問題なので、「買うべき」だとか「オススメ」なんてことは、気軽には言いづらい。
が、少なくとも、気持ちいい切れ味を体験してみたい! という人に対しては「買っても損はしないと思うよ」と言っておこう。
とはいってもシリーズ3本全部買うとそこそこの金額になるし、悩ましい……という場合は、ひとまず002をおすすめしておきたい。
繊細に切るには向いていないが、家庭内にある紙類(ダンボール含む)を長い刃でサックサックと切れる力強さは、頼り甲斐満点! なにより、この手の頼れるパワープレイ系文具ハサミは、市場の選択肢がわりと少ない。だから、持ってない人はこの機会に買っておくといいんじゃないかな、と思うのだ。