読み終わって呆然としてしまった本があります。『年収443万円』(小林美希・著/講談社・刊)という新書なのですが、頑張った分だけ幸せになれる、お金持ちになれる、望みが叶う、そんな日本はもうないのだと知ってしまったからです。
みなさんは、日本の平均年収が443万円と聞いてどんなイメージを抱くでしょうか? 普通に暮らせて、たまの贅沢もできる年収と思えるでしょうか? それとも、月々の支払いで手元に残るお金はゼロ、貯金もできない……と思うでしょうか? 今回は、日本に暮らしているなら読んでおきたい一冊『年収443万円』をご紹介します。
日本の“普通”は、普通じゃなくなった
郊外の一軒家&マイカーを持っていて、子どもは2人、旦那さんは都心に出社……と『クレヨンしんちゃん』の野原一家のようなファミリーが、「普通の家庭」だと考える人がいるかもしれません。しかし、もうそれは「普通」ではなくなっているようなのです。
『年収443万円』には、平均年収前後の世帯6家族、平均年収以下の世帯5家族に取材した様子が、ルポ形式で掲載されています。例えば、神奈川県に住む48歳の会社員、年収520万円で娘さんと3人暮らしをする家庭のリアルはこんな感じ。
同じ年収でも独身なのか、妻や子どもがいるかで当然、変わってくると思いますが、僕のように片働きで妻子がいると年収520万円ではつらいですね。
給与が入ったらまず20万円をおろして、自分の小遣い1万5000円を財布に入れます。残りが家賃などの生活費。娘の学資保険が月2万円くらい。10万円足りないくらいなので、貯金はできません。手取り40万円ないときついです。年収が700万円あればトントンかな。
(『年収443万円』より引用)
思い描く日本での普通の暮らしは、年収700万円でトントン。つまり、平均年収443万円では普通の家族の暮らしはできません。もちろん住むエリアや生活費によって同じ年収でも手元に残せるお金は変わりますが、これって努力とかの問題なの? と読んでいて感じました。
ちなみに、この会社員は、「もし自分に病気が見つかったらいけないから、健康診断は受けていない」と話します。政府からは「人生100年時代」なんて言葉も出てきていますが、誰もが安心して暮らせる世の中って本当に作れるのだろうか? と考えてしまいました。
世帯年収1000万円でも、贅沢はできない
じゃあいくらあったら、満足できる暮らしができるの? 共働きで、世帯年収1000万円あれば流石に余裕でしょ! と思う人もいるかもしれません。しかし日本では、まだまだ苦しいのが現実です。
東京都で会社員として働く女性(44歳)は、年収260万円の事務職。旦那さんの年収が700万円ほどで、小学生の娘さんと保育児の息子さんとの4人暮らし。世帯収入は1000万円前後ありますが、それでも不安は尽きないとのこと。
入るお金がそのまま出ていく。夫婦で月に50万〜55万円の収入になりますが、出産を機に買った一戸建てのローンは35年も続き、月15万円が消えていきます。食費が月に10万円、雑費や子どもとの娯楽費が月7〜8万円。子どもの学費や塾代も用意しないといけないから、学資保険にも入っています。これだけで月々ほぼ赤字。ボーナスで補填します。
(『年収443万円』より引用)
平均年収以上でもこの暮らしが現実です。安心して子育てできる日本はどこへ行ってしまったのでしょうか?
私自身はDINKs(共働きの子どもを持たない夫婦)ですが、ここに至った経緯のひとつに「世帯年収を下げたくなかった」という気持ちが強くありました。子育てによって女性の年収が下がることは目に見えています。子どもが嫌いなわけではなく、今の日本で女性が子を産み、育て、自分の仕事も変わらず、年収もそのままで普通の家族を作ることは、あまりに現実とかけ離れた理想像だと感じてしまいました。
子どもを持たないという選択は、老後も心配だし、親にも悪いなぁ〜という気持ちもあります。けれど、それ以上に「自分たちの暮らし」が心配だったんです。今の日本で、共働きで、子育てして豊かに暮らすなんて夢で、贅沢なこと。知らなかった、こんなはずじゃなかったと思ってからでは遅いのです。
この状況に、絶望するしかない?
暗い話が続くと「日本は終わった」と絶望してしまいますが、この状況を多くの人が知ることが何より大切だと感じました。確かに読み終わってすぐは、呆然としてしまうのですが、時間が経てば経つほど「私にできることは何かな?」と考えたくなってくるのです。
『年収443万円』には、リアルな日本の現状だけでなく、著者である小林さんがさまざまなデータから日本の現状を切り抜き、どうしてこうなってしまったのか? 今後どんな未来になるのか? ということにも触れています。ちょっとメンタルがやられてしまうところもありますが、このリアルな日本を知って欲しい! 「私には関係ない」とは思わず、一人でも知れば日本は変わるかも知れない……。そんな微かな光に希望を願って、私も自分にできることを模索していきたいと思います。
【書籍紹介】
年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活
著者:小林美希
発行:講談社
平均年収443万円ーーこれでは“普通”に暮らすことができない国になってしまった。ジャーナリストが取材してわかった「厳しすぎる現実」。昼食は必ず500円以内、スタバのフラペチーノを我慢、月1万5000円のお小遣いでやりくり、スマホの機種変で月5000円節約、ウーバーイーツの副業収入で成城石井に行ける、ラーメンが贅沢、サイゼリヤは神、子どもの教育費がとにかく心配……「中間層」が完全崩壊した日本社会の「本当の危機」とは?
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