遠藤憲一「芝居の原点に帰らされたような作品と監督との出合いに感謝の気持ちでいっぱいです」

ink_pen 2025/10/15
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遠藤憲一「芝居の原点に帰らされたような作品と監督との出合いに感謝の気持ちでいっぱいです」
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遠藤憲一さんが出演する最新作映画『見はらし世代』が10月10日(金)より公開中。メガホンを取ったのは現在27歳の団塚唯我監督。今年5月に開催されたカンヌ国際映画祭の「監督週間」に日本人史上最年少で選出されるなど、海外でも大きな話題を集めている。遠藤さんの目に映った団塚監督の魅力、そして役柄を通して感じ作品への思いを語っていただいた。

遠藤憲一●えんどう・けんいち…1961年6月28日生まれ。東京都出身。劇団で活躍後、1983年に『壬生の恋歌』でテレビデビュー。主な出演作に、『ドクターX~外科医・大門未知子~』シリーズ、『バイプレイヤーズ』シリーズ、『民王』シリーズ、連続テレビ小説『てっぱん』『わろてんか』、大河ドラマ『真田丸』など多数。出演作『ベートーヴェン捏造』が全国公開中。公式サイト/InstagramTikTok

【遠藤憲一さん撮り下ろし写真】

団塚さんは近年では稀に見る人の心を理解している監督でした

──今作のオファーを受け、脚本を読まれたときの印象はいかがでしたか?

 

遠藤 摩訶不思議な世界観だなと感じました。妻を早くに亡くし、息子や娘とも疎遠になった家族の物語ですが、生々しさがありながらも、ちょっと奇想天外な内容も含んでいて。しかも、その不思議さを当たり前の出来事のように淡々と描いているところも面白かったです。あまりこれまでに経験したことのない作風で、脚本も書かれた団塚(唯我)監督は一体どんな方なんだろうと思ったら、まだものすごく若くて。

 

──現在27歳で、これが初めての長編作品になります。

 

遠藤 年齢を聞いてびっくりしました。ですから、この物語をどんなふうに撮るんだろうという興味もあったんです。それで、撮影前に団塚監督の以前の短編映画を観させてもらったところ、とても力のある作品で。今回の『見はらし世代』はその短編映画で描ききれなかった部分を長編として再構築したいんだろうなという思いが伝わってきたので、私もぜひ参加したいという思いになりました。

 

──実際の撮影現場でも監督の若いエネルギーであったり、映像に込める力や熱量を感じるところがあったのでしょうか。

 

遠藤 ありました。人の心の変化というものを非常に理解している監督なんだなというのが、一番最初の撮影から伝わってきましたから。それもあって、普段であれば私は監督に自分の芝居のアイデアを伝えたり、一緒に役の方向性を考えることが多いのですが、今回は全部監督の思うままに演技することにして、こちらから提案することを一切しなかったんです。

 

──反対に、監督から細かい演出の指示が出ることは?

 

遠藤 それもなかったですね。自由にやらせてもらうことがほとんどでした。「もう一回お願いします」っていうリテイクはたくさんありましたけど(笑)。でも、ほとんどの場面で役者の気持ちを優先させてくださる方でした。例えば、妻役の井川 遥さんに仕事の相談をするシーンでは、夫の言葉に戸惑う井川さんに対して、「どれだけでも間(ま)を取ってくださって結構ですから」とおっしゃったり。つまり、役として心が動くまでずっとカメラを回してくれるんですよね。きっと監督のなかには編集でなんとかするという思いがあるからなんでしょうけど、初めての長編作品の現場でそれができるのは、確固たるビジョンと自信があるからだろうなと感じました。また、それに加えて感性も鋭いんです。私も長くこの仕事をしてきて、たくさんの監督やいろんな現場を見てきていますが、彼ほど人間の心の動きを理解できている優秀な監督は本当に稀で、久々に出会った気がします。

観る人によっていろんな捉え方ができる物語

──今作には疎遠になっていた子供たちとの再会もテーマの一つとして描かれています。遠藤さんから見て、彼らはどのように映りましたか?

 

遠藤 絶妙な距離間があって興味深かったです。『見はらし世代』というタイトルのなんとも味わい深いダサさ加減が個人的に大好きなんですが(笑)、息子の蓮と娘の恵美からは冷めた感じが伝わってきて、作品にピッタリ合っているなと感じました。とくに恵美からは、久々に再会しても、「もう一回やり直そうとか、別に思わないからね」という言葉を投げかけられる。そこには強がりとかではなく、彼女はすでに自分の人生を生きているから、“私にとって父親なんてもうどうでもいい”という思いがきっとある。言葉だけだと冷たく感じられますが、彼女の気持ちもよく分かりますよね。

 

──その一方で、主人公である蓮は、昔のようにとまではいかないまでも父親と距離を縮めたがっているところがあります。

 

遠藤 その違いの描き方も面白かったですね。しかも、寄り添いたいとわずかながら思っている蓮の心情を、いやらしくなく表現しているところが見事だなと感じました。当然、自分たちを捨てたような父親を許せない部分もあるんだろうけど、父親と再会できた喜びもどこか感じさせる雰囲気や言動があって。それに、そうした言葉や態度を、食事をしながら見せるもんだから、どこまでが本心なのかが読み取れない。単純に食事をしているあいだの雑談の一つのようにも感じられますし、観る人によっていろんな捉え方ができる作品になっているなと思います。

 

──子供たちと向き合って会話をするシーンは緊張感があり、言葉数は少ないのに3人それぞれのいろんな感情が押し寄せてくるようでした。

 

遠藤 本当ですか。それはよかったです。その緊張感を生み出してくれたのは、紛れもなく監督の力ですね。役者陣は本当にダメダメでしたから(笑)。

 

──と言いますと?

 

遠藤 この話はあんまり表に出したくないんですが(苦笑)、今回の映画の撮影前に、蓮を演じた⿊崎(煌代)君が僕のSNSを見ちゃったらしいんですね。TikTokとかで変な踊りをしている動画を。そのことを撮影直前に思い出して、⿊崎君が現場でゲラゲラ笑い出しちゃったんです。僕もゲラだから移っちゃって、そしたら今度は恵美役の木竜(麻生)さんまで笑いが止まらなくなって。最終的には助監督が近くに来て、「この映画は海外でも高い評価を受ける作品になるかもしれません。もっと集中してください」と怒られました。いい歳こいたオヤジと若い俳優たちが一緒に怒られるってこともあんまりないですし、ほんと大変な状況のなかでの撮影でした(笑)。

人生の移り変わりと街の変化が自然とリンクしていく姿がとても見事

──遠藤さんが演じる高野 初は海外で活躍するランドスケープデザイナー。この役柄も物語の中で大きな意味をなしています。

 

遠藤 今作は渋谷の街自体がもう一人の主人公として描かれているんですよね。かつて渋谷の駅近くに多くのホームレスが集まっていた場所があり、その人たちを追い出すような形で都市開発が行われました。今ある駅前の町並みはさまざまな問題を乗り越えて生まれた新しい姿ですが、そういった過去を知らない人たちは、当然深い思い入れもないまま、その場所を楽しんでいる。良い悪いではなく、街というのはそうやって変化していくものなんですよね。高野の家族も、母親の死というショッキングな出来事があり、子供たちからすればその後の父親の許せない行動に対して大きなしこりが残っているけど、そこにいつまでも引きずられるのではなく、街の再開発のように、過去に何があろうがそれぞれが自分の“今”を生きている。そのリンクが実に見事で。しかもそうした状況を、押し付けがましくなく表現しているところが本当に素晴らしいんです。

 

──大きく変化していく渋谷の町並みが淡々と描かれていく様子には、ほんのり切なさも感じました。

 

遠藤 確かに。そのちょっと冷めたような視点も団塚監督が生み出す映像の特徴であり、面白さなのかなと思いましたね。

 

──最後に、改めてご自身の中で今回の映画はどのような作品になったと思われますか?

 

遠藤 僕自身、最近はエンターテイメント性が強く、コメディチックな役柄が多かったんです。ですから、今作ではお芝居の原点に帰らされたような感覚があり、とても新鮮な気持ちで臨めました。また、逆にもし団塚監督がエンターテイメント性の強い作品を撮ったらどんなものが生まれるのだろうかと、ちょっと見てみたい気持ちになりましたね。力のある監督ですから、今後そういった作品を求められるタイミングが何度か訪れると思うんです。もちろん、自分のやりたい路線だけを追求する道もあるとは思いますが、まったくジャンルの違う映画にチャレンジする姿も個人的には見てみたいですね。

 

(C)2025 シグロ/レプロエンタテインメント

映画『見はらし世代』

10月10日(金)よりBunkamuraル・シネマ 渋谷宮下、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

(STAFF&CAST)
監督・脚本:団塚唯我
企画・製作:山上徹⼆郎
製作:本間 憲、金子幸輔、長峰憲司
プロデューサー:山上賢治
アソシエイト プロデューサー:鈴木俊明、菊地陽介
出演:黒崎煌代、遠藤憲一、木竜麻生、菊池亜希子、中山慎悟、吉岡睦雄、蘇鈺 淳、服部樹咲、石田莉子、荒生凛太郎、中村 蒼/井川 遥

(STORY)
母親を亡くして10年。渋谷の街で胡蝶蘭を運ぶ仕事をしていた蓮(黒崎煌代)は疎遠になっていた父(遠藤憲一)と偶然の再会をはたす。戸惑いながらも蓮はもう一度家族の関係を作り直そうとするが、姉(木竜麻生)のそっけない態度に3人の距離は歪なものに……。

制作プロダクション・配給:シグロ
配給協力:インターフィルム、レプロエンタテインメント

【映画『見はらし世代』よりシーン写真】


(C)2025 シグロ/レプロエンタテインメント

 

撮影/金井尭子 取材・文/倉田モトキ

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