近年、各オーディオメーカーが力を入れているジャンルに“モニター系”というモノがあります。「モニタースピーカー」や、「モニターヘッドホン」という名称を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか？ しかし、このモニター系アイテムがそもそもどういう製品なのか、理解している人は少ないように思えます。
実は、このモニター系オーディオは、本来、音楽制作者やプロのミュージシャン向けに作られた製品。一般の店頭に並ぶヘッドホンやスピーカーとは、異なる目的で作られたものなのです。
一般向けに作られたスピーカーやヘッドホンは、それぞれのメーカーの特徴や製品ごとに与えられたキャラクターが音作りに反映され、再生される音に味付けがなされています。例えば、重低音をアピールするヘッドホンなら、音源本来のバランスよりも低域を強調。ビートの効いたロックやヒップホップといった音楽をよりノリよく楽しめるようになっています。
しかし、このモニター系オーディオは、音楽を楽しむために作られたものではありません。モニタースピーカーやヘッドホンは、音楽制作過程において、音楽の細部を確認するために存在しているものなのです。そのため、モニター系オーディオには、味付けを極力排除したストレートな再生能力が求められます。
ハイレゾ時代に対応すべくアップデート
前置きはこれくらいにして、さっそくビクターから発売されたモニターヘッドホン「HA-MX100-Z」を実際に聴いてみました。MX100-Zは、新開発のデュアル・クリアバスポート構造を採用するなど、従来モデル「HA-MX10-B」から改善を行い、ハイレゾ対応に進化している点が特徴です。一般の店頭では取り扱っておらず、ビクターのハイレゾ配信サイト「VICTOR STUDIO HD-Music.」でオンライン販売しているほか、楽器店などでも販売しています。直販価格は2万4800円。
ビクターのモニターヘッドホンは、音楽制作を行う「ビクタースタジオ」でも実際に使用されていますが、近年増加しているハイレゾ音源にも対応すべく、ハイレゾ対応モデルが開発されたとのこと。
試聴したのは、ハイレゾ版の宇多田ヒカル「First Love」（96kHz/24bit）です。これをPCから「foobar」という再生ソフトを使い、USB経由でフォステクスのヘッドホンアンプ/DAC「HP-A7」に出力して聴いてみました。
こんな「First Love」聴いたことがない!?
First Loveはご存じの通り、しっとりした雰囲気のスローバラードですが、MX100-Zで聴くと、これまでに聴いたことがないくらいサラッとした感触に聴こえます。
それぞれの音の分離がよく、見通しのよい明快なサウンドで、何の音がどういう風に鳴っているのかがよく分かります。ピアノやドラムの音は余計な響きが排除され、キレのあるドライなサウンドとして表現されます。宇多田ヒカルのエモーショナルなボーカルも、ほかのヘッドホンで聴くよりあっさりとした印象です。
ヘッドホンやイヤホンのキャラクターを表す言葉として、“ウォーム”や“クール”という表現を使うことがありますが、MX100-Zは間違いなくクールな音質です。
一方で、リスニング向けの製品とは違った残響音や余韻などを極力カットした音は、人によってはやや味気なく聴こえるかもしれません。特に低音は、一般的なヘッドホンと比べてかなりアッサリしたように聴こえ、アップテンポの楽曲では物足りない音に感じることがありました。初めてモニターヘッドホンを聴く人なら、「あまりいい音じゃないな」と思ってしまうかもしれません。
モニター系オーディオは、あくまで音楽を分析的に聴くものなので、一般的なリスニング向け製品と比べると、その音色はかなり異なっています。自宅で楽曲制作を行う人や、バンド演奏を録音する人などに適した音になっているので、一般的なヘッドホンだと細部の音が聴き取りづらいと感じていた人なら、その良さを実感できるはずです。
もし単純に音楽を聴いて楽しみたいのなら、一般的なリスニング向け製品が適しているでしょう。モニター用とリスニング用、それぞれの役割に応じた製品を使うことで、より豊かなオーディオライフを送ることができます。
「HA-MX100-Z」
【SPEC】
型式：密閉型ヘッドホン
再生周波数帯域：10Hz～40kHz
インピーダンス：56Ω
出力音圧レベル：107dB/mW
最大入力：1500mW
ケーブル長：2.5m
プラグ：3.5mmステレオミニ
質量：265g(コード含まず)
【URL】
JVCケンウッド http://www3.jvckenwood.com/
VICTOR STUDIO HD-Music. http://hd-music.info/
HA-MX100-Z 製品情報 http://store.hd-music.info/