初めて手にしたアップル社製品。それは人それぞれだと思う。筆者の場合は、2010年に購入した第4世代iPod Shuffleだった。アップルデビューは、自分でも驚くくらい遅い。仕事関係ではMacを使っている人たちが多いが、初めて触ったPCがwindowsだった筆者は、なんとなく乗り換えないままここまで来ている。
茂木健一郎氏のアップル愛あふれるひと言
そんな筆者がiPhone 5sを手にしたのは、こちらも遅ればせながら3年前だった。Macと違って、iPhoneは4のあたりから欲しくて欲しくて仕方がなかった。プライベートの旅行や仕事で時々訪れたアメリカのデパートには、必ずと言っていいほどアップル製品の自動販売機が置かれていた。いつか必ず手に入れると決めてから、かなりの時間が経ってしまった。
だから、マイファースト・iPhoneを手にした時のインパクトは人並み以上だったに違いない。docomoのお店の窓口のお姉さんも、筆者に真新しい箱を手渡し、開けさせてくれた。理由を尋ねると、その儀式的な瞬間にこだわりたい人が多いのだという。
話が前後するが、スティーブ・ジョブズが亡くなった直後に追悼番組が放送されていた。この番組にゲストとして出演していた茂木健一郎氏が語った言葉が、とても印象的だった。
「アルゴリズムの優劣がコンピューティングでは決してなくて、エクスペリエンス全体がコンピューティングだと思う」
そしてポケットからiPhoneを取り出し、「これがコンピューティングだ」とおっしゃった。このひと言が、筆者のiPhoneへのパッションをさらにかき立てることになったのだ。
ジョブズが残した言葉
『「図解」スティーブ・ジョブズ全仕事』(桑原晃弥・著/学研プラス・刊)は、「はじめに」の前に記された印象的な言葉から始まる。
次にどんな夢を描けるか。それがいつも重要だ。
あんなに小さな音楽プレーヤー、そしてあんなに使いやすいスマートフォンが作られた過程にいくつもあるに違いない要所には、夢のかけらがきらめいているのだろう。ユーザーは、日々製品を使っていく中でそのきらめきを感じることができるからこそ、ますますアップル製品に愛着が湧く。茂木先生のあの番組でのひと言も、そういうことだったんじゃないだろうか。
もちろん筆者も、毎日手に取るiPhone7を通じて同じことを感じている。
あなたの中のジョブズ的な部分
映画を見ても伝記本を読んでも、スティーブ・ジョブズという人はエキセントリックな天才というイメージで描かれることが圧倒的に多い。本書は、こうしたイメージに疑問を感じ取ろうとするところから出発する。
「スティーブ・ジョブズはすごい人物だが、その下で働くのは大変そうだね」 「彼は天才だ。学んだり、真似したりする対象ではない」――ジョブズに関心がある人の多くが口にする言葉だ。でも、それは本当だろうか。
『「図解」スティーブ・ジョブス全仕事』より引用
そして著者の桑原さんは、次のようなジョブズ像をあえて示す。
天才というより、平凡だが夢を持った若者が挫折をくり返しながら円熟していく成長物語の主人公というべきではないだろうか。天才というなら、困難の中で自己実現を果たす生き方の天才というのが正解だ。だから、私たち自身の規範にできるし、学んだり、真似したりすることもできる。というのが私の考えである。
『「図解」スティーブ・ジョブズ全仕事』より引用
誰の内側にもジョブズ的な部分がある、ということなのだろう。
8つのメソッド
本書は、以下のように8つのメソッドに分けた構成になっている。
1. 問題解決の新しい道を開いた――挑戦力のメソッド
2. 「ノー」を発想の中心に置いた――貫徹力のメソッド
3. チャンスのつくり方を変えた――逆境力のメソッド
4. プレゼンテーションを劇場化した――説得力のメソッド
5. 世界的ヒットでライフスタイルを変えた――独創力のメソッド
6. チームづくりの常識を変えた――人材力のメソッド
7. イノベーションを戦略に高めた――改革力のメソッド
8. 大きなビジョンを身近に引き寄せた――情熱力のメソッド
このように考えると、スティーブ・ジョブズはつくづくメソドロジーの人なのだと思う。はてなキーワードによれば、メソドロジーは、「能力を伝授するために体系づけた方法論」と定義されている。
そして、天才と呼ばれることが多かった自分が宿す能力を多くの人たちに伝授することを通じて、数々のヒット商品を形にしていったのではないだろうか。
ジョブズという多面体クリスタル
ジョブズの名前を聞いて、ほとんどの人がスタイリッシュなプレゼンテーションを最初に思い浮かべるだろう。でもそれは、スティーブ・ジョブズという多面体クリスタルのような存在の一面にすぎない。
ドラマチックなプレゼンテーションは氷山の一角であって、それを実現させるための数限りないメソドロジーが広がっていたのだろう。そういったジョブズらしさをイラストと共に味わっていくという本書のコンセプトは、中学生にも大企業のエグゼクティブにも同じように伝わりやすいに違いない。
すべての根底にあったのは、夢だったのかもしれない。ただそれは、思い描くだけのものでは決してなかった。きちんと計画し、多くのメソドロジーを通じて実現されるべきものだったのだ。
【著書紹介】
図解 スティーブ・ジョブズ全仕事
著者:桑原晃弥
出版社:学研プラス
2011年10月に逝去したアップル社の天才CEO スティーブ・ジョブズがその生涯に成し遂げた業績と手法を詳細図解で徹底検証。イノベーション、チームマネジメント、プレゼン、交渉術…彼のビジネスメソッドのすべてがわかる決定版!
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