私の夫は食べる事が大好きで、そのために働きそのために生きていると言っていい。
それはそれでけっこうなことだが、困るのは、時々、夢でこんな料理レシピを見たと私を叩き起こして伝えることだ。眠いのでちゃんと聞いていないのが悪いのか、夢のレシピは作ってみてもたいてい失敗する。
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夫が希望した夕飯の献立
朝、家族が出かけるとき、私は「今日、何がいい?」と聞いて夕食を作ることにしている。夫とはいえ、他人の腹具合までわからない。
夢で見たレシピを含め、たいていは要望にこたえてきたつもりだが、先日は、さすがの私も「 えっ!」と驚いたまま、「また、今度」と答えてしまった。夫の希望は今までないものだった。夢で見たわけでもない。
「今日の夕飯? ズバリ、イングリッシュ・ブレックファストがいい」
「ブレックファスト? 朝飯でしょ? それを夕飯に?」
煩悶する私に、昨年ロンドンに行ったときの光景が蘇ってきた。
ロンドンで、完食!
先だってロンドンに行ったとき、私達夫婦は息子夫婦と朝食を共にした。ロンドン在住4年になる息子夫婦は、パンケーキなどお洒落なものを注文していたが、私たちはイングリッシュブレックファストを迷わず選んだ。
本場のイングリッシュブレックファストはさすがに美味しく、夫は「うまい、うまい」と、私のお皿にまで手を伸ばしてくる。ふと顔をあげると、驚愕の表情をした息子がいた。
「何?欲しいの?」と、聞くと、息子は言った。「いや、ここの朝食を完食した日本人、初めて見た。すげぇな~~」と、ため息をつくのである。確かに、イギリスの朝食は重い。それをぺろりと食べてしまう夫の胃袋はすごい。
見事な受賞
イギリスから帰国すると、いつものようなバタバタ暮らしが始まった。忙しさにかまけて私はロンドンでの朝食を思い出すこともなかったが、夫はずっとイングリッシュブレックファストを夕飯に食べたいと願っていたらしい。
「わかりました。作ってあげましょう。イギリスの思い出に」と答えたいところだが、レシピがわからない。そこで、『イギリスの家庭料理』(砂川玉緒・著/世界文化社・刊)を読むことにした。朝食だけではなく、イギリスの料理全般について豊富な知識が満載されているからだ。
著者・砂古玉緒は、10年近くをイギリスで過ごし、イギリス料理とイギリス菓子の研究を続けてきた方だ。努力は実を結び、料理本のアカデミー賞と呼ばれる「グルマン世界料理本大賞」の海外料理部門で、グランプリを受賞している。決して派手でも華麗でもないイギリスの素朴な家庭料理を紹介して、グランプリに輝いたところに私は大きな価値を感じる。
夕飯みたいな朝飯
イギリスのフルブレックファストは、次のようなメニューが大皿に盛られる。
・スクランブルドエッグ(他に、ゆで卵や目玉焼き、ポーチドエッグなどをお好みで)
・ベイクドビーンズ(白インゲンをトマト味で煮詰めたもの)
・ハッシュブラウン(ジャガイモをフライパンで焼くだけ)
・ブリテッシュソーセージ(皮も中の肉も軟らかい)
・焼きベーコン(カリカリになるまで焼きたい)
・焼きマッシュルーム(薄切りにせず、まるのままじっくり焼く)
・焼きトマト(焼いたトマトも美味しい)
・トースト(薄いパンをカリっとトーストし、トーストラックに)
すごいボリューム!! 確かに、夕飯にふさわしい料理だといえよう。
次の目当てはコテージパイ
フルブレックファストの他にも、ローストビーフやスープ、スコッチエッグやお菓子など、魅惑的な料理がたくさん掲載されている。中でも、次に私がトライしようと思っているのは、「コテージパイ」。
以下がだいたいのレシピだ。
1 マッシュポテトを作る
2 タマネギとにんじんをみじん切りにする
3 フライパンで牛肉の挽肉を炒め、タマネギを加えて炒め、ベイリーフ、塩、黒こしょうで味付けする
4 さらに、にんじんを加えて炒め、チキンブロスを加える
5 薄力粉をだまにならないように加え、トマトペーストを加えて、混ぜ合わせる
6 パイ皿に5を敷き、1のマッシュポテトを重ねて広げる
7 フォークの背で表面に筋をつける。
8 予熱したオーブンに入れ、190度の温度で表面に焼き色がつくまで、20分ほど焼く。
きっと夫は驚くに違いない。こんな料理、どこで覚えたの? と。私たちはイギリスでコテージパイを食べなかったからだ。私はこう答えようと思う。「このレシピ? 夢で見たのよ」と。そして、失敗することなく作ることができるだろう。
『イギリスの家庭料理』は夢がつまった本だが、同時に、実用的な本でもある。
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【書籍紹介】
イギリスの家庭料理
著者: 砂田玉緒
発行:世界文化社
好評『お茶の時間のイギリス菓子』の著者砂古玉緒による初のお料理本。イギリスの定番料理は、じつはそのどれもが、私たちにとってお馴染みの味であり、大好きなものであることに気づかされます。イングリッシュブレックファストからクリスマスのご馳走まで、なーんだ、これもイギリス料理だったのね、と思うものがたくさん。本書では、とくにイギリスの伝統料理にこだわりを持つ著者が、イギリスに暮らしてわかった質実な家庭の味、70レシピを提案します。むずかしい料理はいっさいありません。