本・書籍
2020/7/28 21:45

『消えたママ友』で描かれる「母親」の苦悩と闇の深さ

子どもを父親や姑に託し、家出をしてしまう母親がいます。彼女はなぜ、ひとりで逃げてしまったのでしょう。逃げるほどつらいことがあったのでしょうか。そして、逃げる以外に方法はなかったのでしょうか。

 

 

「母親なのに」という非難

先日、コンビニでポテトサラダを買おうとした母親が、「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と知らない高齢男性に叱られたという話がSNSを駆け巡りました。だいぶ少なくなったとはいえ、母親は子どもに手作りの愛情を注ぐべきだと考える人は、まだ存在するようです。

 

もし、父親がポテトサラダを買いに来ていたら、この男性は「父親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」と言ったでしょうか。おそらく言わないでしょう。逆に以前、子どもとコンビニにいた男性を見て「父親に買い物をさせるなんて。母親は何やってるんだ」と言っていた人がいました。お使いする父親の姿は、母親の手抜きを連想させるもののようです。

 

 

母親同士の打ち明け合う姿

公園や保育園や幼稚園の近くで立ち話をしているママ達は、当たりさわりのない和やかな会話をしているように見えるかもしれません。けれど、実はそうでもないのです。姑のグチや夫への不満を打ち明けてくる人もいれば、昨日子どもに手をあげてしまったとうつむく人もいます。母親達の社交場は、母親以外の人にはなかなか分かってもらえないストレスの発散場にもなっているのです。

 

けれど、そうした場では明かせないほど深い悩みを抱えている人もいます。夫から暴力を受けていたり、不倫の恋をしていたり、または離婚問題を抱えていたとしても、そうしたヘビーすぎることは、話せません。皆の噂になるのもイヤだし、奇異の目で見られるのもみじめだからです。

 

 

母親が母親を非難する時

コミック『消えたママ友』(野原広子・著/KADOKAWA・刊)では、母親達が抱えている闇の部分を垣間見ることができます。どの母親にだってそれぞれ抱えている悩みがあり、その重さもさまざまです。なかにはきつい現実に耐えかねて家出をしてしまう母親もいます。令和元年に家族関係の悩みで家出をした人は1万4335人もいました(警察庁調べ)。そのうち小さな子を持つ母親は何人いるのでしょうか。

 

マンガでは、母親達が、逃げた母親のことを口々に非難します。子どもを置いていくってことが許せないと。今まで親しかったのに、子どもを置いていくような女だと知った途端、牙を剥くのです。それこそが母性というものなのかもしれないし、もしかしたら自由になった彼女への嫉妬もあるのかもしれません。

 

 

子どもを置いていく理由とは

日々子どもに愛情を注いでいる母親達にとって、子どもを置いていく行為は受け入れがたいものです。けれど、家出した彼女には彼女なりの事情があり、そうでもしないと自分自身が壊れてしまいかねなかったのかもしれません。

 

「母親なら子どもを置いていかず、ちゃんと育てたらどうだ」。そんな声が聞こえてきそうですが、本書ではそれぞれの母親の事情も含め、淡々と、でもとてもせつなく綴られていきます。

 

それぞれの母親の子どもたちも、決してニコニコ遊んでばかりではなく、なにか大変なことが起きたようだと気づき、彼らなりに考えて行動していて、とてもけなげなのです。そしてママが出ていってしまったおうちの男の子の強がる表情は、涙なくしては見ることができません。

 

母親の心身のケアが、最近やっと取り上げられるようになってきました。子どもを全力で可愛がって当たり前と言われ、自分自身のケアさえままならない母親が大勢います。限界を超え、家出を決行してしまう前に、どこか相談できるところを知っていれば、早めに問題に手を打てれば、もしかしたら追い詰められる母親は少し減るのかもしれません。

 

【書籍紹介】

消えたママ友

著者:野原広子
発行:KADOKAWA

ある日、仲良しのママ友・有紀ちゃんが姿を消した。有紀ちゃんとは仲良しだったはずなのに、何も知らなかった春香、ヨリコ、友子。しかし、みんなそれぞれ思い当たることがあった…。雑誌『レタスクラブ』連載で大反響を呼んだ話題作、描き下ろしを加えついに単行本化!!

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