本・書籍
2022/9/13 21:30

フランスの『ちびまる子ちゃん』小学校を舞台にした絵本『プチ・ニコラ』がおもしろい

 

『ちびまる子ちゃん』は日本を代表する漫画作品だが、フランスにも小学生を主人公にした国民的ベストセラー絵本がある。それが『Bonjour!プチ・ニコラ』(サンペ・絵、ゴシニ・文、曽根元吉、一羽昌子・訳/世界文化社・刊)だ。

 

やんちゃな小学生の男の子、ニコラとクラスメートたちが繰り広げるゆかいな学校生活が描かれている。和訳は上記に加え、『プチ・ニコラの休み時間』、『プチ・ニコラの夏休み』、『プチ・ニコラと仲間たち』、『プチ・ニコラなやみ』と5巻のシリーズになっている。これを読めばフランスの小学校がどんなところで、小学生たちは休暇も含め、どんな日常を過ごしているのかがよくわかる。女優の杏さんがお子さんたちの秋の小学校入学に合わせてフランスに移住したことが話題になっているが、彼の地の学校ってどんななんだろう? と興味津々の方も多いだろう。本書はそれがよくわかる一冊でもある。

ジャン=ジャック・サンペ氏はフランスの国民的漫画家

日本の国民的漫画家のさくらももこさんは4年前の8月にこの世を去ってしまい同郷の私はとても寂しい思いをしたが、この8月にはフランスの国民的漫画家のサンペ氏死去のニュースが飛び込んできた。89歳だったというから、さくらさんのように若くはなかったから、まぁこれもひとつの時代の終わりなのだろう。が、『プチ・ニコラ』をはじめとした彼の絵はこれからも時代を超えて愛されていくに違いない。

 

『プチ・ニコラ』が発表されたのは1956年のこと、以来、この絵本はベストセラーとしてたくさんのフランス国民に愛され続けてる。小学校の教材としても使われているので、フランスの教育を受けて育ったわが娘の本棚にも『プチ・ニコラ』シリーズが並んでいた。また、パリの語学学校でフランス語を学んだ私にとっても『プチ・ニコラ』は思い出深い作品で、フランス語習得にとてもよいとされていたため、仏和辞典を使って、1ぺージをなんと1時間もかけて読んでいた。そして今、和訳の本書を手にし、サンペ氏の独特の挿絵を楽しみつつ、日本語でスイスイ、スラスラ読める小学生ニコラの家族や仲間たちが繰り広げるゆかいな話を思い切り楽しんでいるところなのだ。

 

サンペ氏はニコラのような小学校生活を送りたかった

本書の巻末にはサンペ氏の略伝がある。

 

《子どもだったころ、バラック小屋がわたしのたったひとつの楽しみだった》

サンペは、一九三二年八月十七日、ボルドーに生まれた。学業、芳しからず、ボルドーモダンカレッジを、規律無視により退学、実社会に飛び出す。

(『Bonjour!プチ・ニコラ』ジャン=ジャック・サンペ略伝から引用)

 

貧しく、不遇の子ども時代を過ごした彼は、「ニコラのような学校生活を送りたかった」と語っていたという。18歳での徴兵年齢に達する前に兵役を志願し、パリへ出ることとなった。絵を描くことが好きだったサンペ氏は、新聞社の編集部に頻繁に出入りし、1951年『シュッド・ウエスト』紙に最初のデッサンを売った。ここから彼の輝かしいキャリアがはじまったのだ。そして、この時期に出会ったのが本書の文を書いているルネ・ゴシニ氏だった。

 

作家ルネ・ゴシニが特別に愛した”ニコラ”

1926年パリに生まれたゴシニ氏は家族とアルゼンチンに移住、1950年代初めにフランスに帰国すると、才能を発揮し、『プチ・ニコラ』そして『アステリックス』などを発表する。

 

とりわけサンペ氏とともに創案した『プチ・ニコラ』は彼自身も愛してやまないキャラクターだったようだ。

 

《わたしは、この作中人物にまったく特別な愛情をもっている》と、ゴシニをして言わしめた、ニコラ。天才的シナリオ・ライター、ゴシニが作家としての力量と才能を示したのは、心を打つ天真爛漫さをもち、恐るべき悪ふざけにも興じるいたずらっ子プチ・ニコラの冒険を介してなのである。

(『Bonjour! プチ・ニコラ』ルネ・ゴシニ略伝から引用)

 

愛すべき登場人物たち

では、本書に登場するキャラクターたちを紹介しておこう。

 

ニコラ…… サラリーマン家庭のひとり息子。いたずらっ子の小学生。

パパ……小さな会社のサラリーマン(仕事の業種は書かれていないので不明)

ママ……専業主婦。おいしいおやつをニコラのために手作りしてくれる。

アルセスト……ニコラの親友。いつも何かを食べているふとっちょの男の子。

クロテール……成績がクラスでビリの男の子。

アニャン……成績がクラスで一番で、先生のお気に入り。

ジョフロワ……大金持ちのパパがいてほしいものは何でも買ってもらえる。

リュフュス……パパはおまわりさんで、彼もいつもホイッスルを持っている。

ウード……クラスで一番の力持ちで、よくクラスメートの鼻の頭にパンチをくらわせる。

ジョアキム……ビー玉遊びが大好きな男の子。

マリ・エドウイッジ……ニコラが大きくなったら結婚したいと思っているかわいい女の子。

メメ……ニコラにたくさんプレゼントをくれるやさしいおばあちゃん。

プレデュールさん……ニコラの家のお隣さん。

ブイヨン……生活指導の先生。”ブイヨン”はあだ名で、「わたしの目をよく見なさい」といつも言うので、ブイヨンスープに浮かぶの油の目玉から上級生たちがつけた呼び名。

先生……クラス担任の女の先生。ニコラたちが悪ふざけをしなければ、やさしい先生。

 

フランスの小学生たちのゆかいな毎日

ニコラの物語は、古き良きフランスの地方都市の普通の家庭と地元の小学校を舞台にしているが、学校生活そのものは現在でもほぼ同じようなものだ。

 

本書の巻末には翻訳家の小野萬吉氏による物語を楽しむための解説があるが、それによるとニコラの家はたぶんワインで有名なボルドーだろうと。そう、サンペ氏の出身地だ。挿絵から判断するとビルが見えたりするので、街の中心に近いところのようだ。

 

パパは朝、仕事に出かけ、昼前に帰ってきて、やはり学校から帰ってくるニコラと家族そろって昼食をとります。それからパパは午後の出勤、ニコラは午後の登校です。パパは徒歩で通勤しているようです。夜は、八時に晩ご飯といえば、早いほうでしょう。日本に比べれば、フランスの午後は長いといえます。

(『Bonjour!プチ・ニコラ』物語をより楽しむために、から引用)

 

本編では、クラス写真を撮る日のドタバタ、大臣が学校を訪問した日の出来事、算数の授業をサボるとどうなる? 成績表をもらった日の悲喜こもごも、さらにはニコラが家出にチャレンジしてみたら……などなど、フランスの小学生とその家族の日常がゆかいに、そして鮮やかに描かれている。

 

まさにフランス版の『ちびまる子ちゃん』といった感じ楽しい本書、一度手にとってみてはいかがだろう。

 

【書籍紹介】

Bonjour! プチ・ニコラ

著者:サンペ・絵、ゴシニ・文
発行:世界文化社

朝の10分間読書に最適!フランスの国民的キャラクターが装いも新たに日本に再上陸。フランスの小学生プチ・ニコラと、愉快な学校の仲間たちが織り成すエスプリの効いた「くすっと笑える話」がたくさん詰まった全5巻シリーズが、この度、装いも新たに日本に再上陸いたします! 各巻の中に約20話を収録、一話がおよそ10分程度で読めるため、子どもの朝の10分間読書、おうちでの楽しい読書に最適です。朝一番にプチ・ニコラのお話を読めば、その日一日が元気で明るい日になること間違いなし!

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