ホストに狂い、巨額のお金を貢いでしまう女性を追ったノンフィクション『ホス狂い』(鉄人社)を上肢した作家・大泉りか氏。本書には、5000万円以上の売り掛け(お店への借金)を抱える女、デリヘル、ソープ、パパ活で稼いだ金をホストに注ぎ込んでエースと呼ばれる地位にいる女性などが登場する。今回は、著者の大泉りか氏に、ホストクラブのシステムから、ハマってしまった女性の心の闇までを語ってもらった。
(撮影・構成:丸山剛史/執筆:松本祐貴)
現在のホストクラブは飲み屋ではなく課金の場
ーーまず、ホストクラブを知らない読者もいると思います。ホストクラブとは、どんなお店で、いつごろできたんでしょうか?
大泉りか(以下、大泉)もともとホストクラブは、裕福なマダムの社交ダンスの相手をする場所だったそうです。歴史的には1970年代に愛田 武の「クラブ愛」が歌舞伎町にオープンしています。その流れで、現在のホストクラブは女性客を相手にお酒を飲む接客業となっています。ブームは何度かあり、最近では、2000年代にスジ盛りやギャル男などを中心にした第2次ホストブームがありました。有名ホストでいえば城咲 仁さんですね。そして、2022年現在、第3次ホストブームがきていると思います。
ーーホストクラブのシステムはどうなっていますか?
大泉 ホストクラブは、わかりやすくいえばキャバクラと似ていると思いますが、少し違います。その違いのひとつは、ホストの永久指名制にあります。キャバクラなら、ひとつのお店でどんな女のコを指名しても問題ありません。でも、ホストクラブは、一人の担当(指名するホスト)は変えられません。ホスト同士が揉めないようにと取り入れられたルールです。
また、初回(初めてお店に行く料金)はとても安いです。1000円から5000円程度で60分~90分飲み放題になっています。初回は、顔見せの場で、5分〜10分ぐらいで次々とホストが入れ替わり、名刺が渡されます。お客は初回の最後に「送り指名」をしなければいけません。エレベーターの前まで指名した人に送ってもらい、連絡先を交換します。その「送り指名」は担当(指名ホスト)に一番近い存在となります。担当が決まらなければ、2回目にも、初回で入っても問題はありません。
その後、指名をして飲みに行くと指名料、ドリンク料、サービス料、税などが入り、最低でも2~3万円ほどかかります。別にクイックというシステムもあり、これは1日1回限定でドリンクが付き60分1万円です。
時間制を採用している店と、フリータイムの店があり、フリータイム制の店に指名で入ると何時間いてもいいんですが、お目当てのホストが自分の席に来るかどうかはわかりません。誰のテーブルに何分間付くかは、ホスト自身の裁量に任されています。指名してくれたお客をほったらかしにもできるし、ずっと付くこともできます。「何時間いても5分しかついてくれない」と嘆くお客もいます。それも客同士の闘争心を煽るホストの戦略なんです。
ーーなるほど。最近のホストクラブは戦略まであるんですね。
大泉 2000年代のホストクラブはお酒を飲む場所でしたが、近年は、お客さんが担当(ホスト)に会いに行く場所です。
ホストとの付き合い方も変わってきています。昔は、同伴、アフター、お店だけがホストとお客が交わる場でしたが、今は一日中LINEでお客のフォローをしています。私も何人かホストとLINEをしていますが、特に営業をしてこなくて、日常会話なんですよ。もはやホストクラブは、飲み屋ではなく、課金しに行く場です。課金した分だけ担当がかまってくれます。
ーーちなみによく聞く「シャンパンタワー」はいくらするんですか?
大泉 シャンパンタワーは100万円からで上は青天井、500万、1000万もあると思います。今はホストブームなので、シャンパンタワーの値段もどんどん高騰しています。
ホストクラブは、ホスト側が目標を提示するんです。例えば「ランク10位以内に入りたいから、オレは2か月後に売上500万を稼ぎたい。一緒に協力してよ」と、担当ホストは、毎月数百万を使うエースと呼ばれるお客に頼みます。そこでふたりで打ち合わせをして、女のコは出稼ぎにいったりします。出稼ぎとは地方風俗に期間を決めていくことです。1日10万稼げる女のコなら10日間で100万円になります。風俗嬢でもトップクラスのコでないと、稼げないのでホストのエースにはなれないですね。若くて、カワイイ、稼げる女性だけが、ホストを推すエースになれるんです。
ーーこれだけお金を使えるお客さんは基本的に風俗嬢なんですか?
大泉 そうですね。メインのお客は風俗嬢、AV嬢、あとはキャバ嬢、パパ活。もちろん、風俗の裏引き(※お店を通さずに客から直接お金を受け取る行為)とパパ活などの掛け持ちのコもいます。
普通のお仕事は9時~17時とか時間が決まっていますよね。でも、風俗は勤務時間も決まってないし、当日欠勤もできる。要するに、働くことに後ろ向きになるんです。目標がないと働く気にならないじゃないですか。そうすると300万円稼げるポテンシャルがあるのに、100万しか稼げなくなり、風俗嬢自身が凹むらしいです。
彼女たちは、そのやる気を出す起爆剤のように、ホストを使っているんです。ホストに目標金額を立ててもらうことで、やる気が上がるそうです。
ーーそういった女性は、風俗とホストクラブ、どちらを最初に始めるんですか?
大泉 最初に風俗業に足を踏み入れているコが多かったですね。例えば、ある女のコは、学費を返すという目的で、週1、2回の風俗勤めを始めました。学費を貯め終わってからはお金を使う目的をなくし、ホストクラブにハマって……。結局、風俗に鬼出勤するようになってしまいました。
OLさんや学生は、普通はホストクラブで飲みませんよね。もちろん、好奇心で足を踏み入れることはありますが。けど夜職の女性たちは、もう少し身近にホストクラブがある。ホストクラブに通っているという共通点で、親しくなったりもするし、そうなると「今度、ホストクラブに一緒に行こう」となりやすい。
ーー本書にありましたが、SNSでホストが新規客に営業をしているようですね。
大泉 マッチングアプリ『Tinder』にはホストがまぎれていて「ホストやってます」と連絡が来たりします。女のコもホストクラブに行くのは怖いけど、ホストと話してみたいとかはあるみたいですね。
ホストはそういうコに「ご飯食べよう」と誘って「先輩からどうしても店に来いと言われて、タダでいいからいかない?」と持ちかける作戦をしています。それを何回かデートをして、付き合ってるという状態でやるのもホストの手段ですね。
TwitterのDMにも誘いはきますよ。ホスト側は100人にDMするのも簡単だから、1人でもひっかかってくれればいいんでしょう。
今のホストクラブは、お客もホストも「陰キャ」
ーー大泉さんも本書のあとがきで触れていましたが、個人的にも「取材がつらそう」と感じました。なぜなら金銭感覚が狂い、大金をホストに注ぎ込んでしまう取材相手だと、自分の常識が通じないからです。その辺にやりづらさはありましたか?
大泉 そうですね。最初は女のコたちの言っている意味が全然わかりませんでした。ホストクラブの永久指名制や本営(本命の彼女と思わせる営業)といった、システムも難しいですしね。だからこそ、この本はホストクラブに行ったことのない人にもわかるように仕上がったと思います。
ーー今の時代のホストは、40代の大泉さんから見てどうですか?
大泉 30代のホストには、さすがに手練手管を感じました。私の年代とギャップがあるのは、20代、Z世代のホストですよね。
2000年代の第2次ホストブームのときは、お客さんもギャルっぽいキャバ嬢が中心でした。だからお客さんもホストも今でいう「陽キャ」だったんです。当時はオラオラ系のホストも多かったですし。
でも、今のホストクラブは、ホストもお客も「陰キャ」なんですよ。女のコたちも「友達がいない。彼氏がいない」と言ってます。先日1億稼いでいるホストと会いましたが、めちゃくちゃ陰キャでした。顔はカワイイんですけど、全然目を合わせてくれない(笑)。ホストになった理由も「家庭教師をやってたら女子高生と鬼枕(女性と寝ること)になっちゃって。ホストに向いてるかなって」とのことでした。
ほかにも、目の下をピンクっぽくする病みメイクをしているホストがいて、名刺を見ると●●キラーという漫画『HUNTER×HUNTER』みたいな名前でした。そのホストもアニメが大好きらしいですよ。ウェイウェイしているよりは、そういう陰キャホストが多い印象ですね。
ーー意外ですね。ホストクラブといえば、スーツ姿の男が一気飲みをして、盛り上がっているのかとイメージしていました。
大泉 いえいえ、逆です。お酒を飲めないホストも増えて、アイスペール一気などはなくなっているんですね。お客に飲ませて売り上げを作るのではなく、お客に「高いお酒を入れてほしい」とぶっちゃけて頼むのが合理的と気づいたんじゃないですかね。
今のホストはスーツではなく私服です。みんなわかりやすいブランド物のTシャツを着ていたりします。ただ、そのブランド物がほしいという物欲はそれほど伝わってこないです。これも時代なのか、彼らには、野心というより承認欲求を感じました。承認欲求は、ナンバー10位以内のランカー、5位以内に入ればアドトラックに掲載されるなどの目標に置かれているみたいですね。
ーーそれだけ稼いだホストは、なににお金を使うんですか?
大泉 ブランド物を買ったり、あとはインターネットの裏カジノに消えたりするそうです。そして意外なことにホストの収入の3割ぐらいはお客さんに還元されます。
キャバクラの同伴などは、お客さんがキャバ嬢に食事代を払いますね。でも、ホストクラブの店外デートでは、ホストが食事代やデート代をお客のために払います。そのほうが、大事にされている感じが女のコに伝わりますよね。ホストとしては「この50万円のボトル入れてくれたら、ディズニーランド行こう。熱海一泊旅行に行こう」と営業もできます。
現在のホストクラブでの出来事は「Z世代の青春物語」
ーーホストに狂っている取材対象者の女のコはどう集めましたか?
大泉 そんなに大変じゃなかったです。私は知り合いに元AV女優や風俗で働いているコがいたので、聞いてみるとホス狂いのコが見つかりました。また、鉄人社の編集者も歌舞伎町にコネがありました。Twitterで募集したら、全然違うコミュニティの女のコが来たのも面白かったです。
ーー本書ではそのホス狂いの女のコたちの心情が取材を通して描かれています。もちろん女のコたちは、金銭感覚が狂っているんですが、どこかで冷静というかドライな目線があるように感じました。実際に取材をしてみて、どうですか?
大泉 女のコもわきまえているというか、わかって行動をしている感じはありました。ただ、ホストの方も、そんなにガッツリ管理はしていないんです。わりと男のコも自分の欲に溺れたりしています。
本書に書いた通り、現在のホストクラブでの物語は、Z世代の青春なんですよね。だから私のような氷河期世代はホストクラブをそんなに楽しめないですね。そんなに稼げないから、貯金を使い果たしたらゲームオーバーだってわかっていますし。
ホストクラブは飲むことよりもお金を使うことが主目的です。女のコも席でゲームをしてたり、イベントの日の担当の売上のためにお金だけ払って帰ったり、と課金だけする場所なんですね。
ーースマホゲームなどと同じ感覚ですね。
大泉 スマホゲーム自体を楽しむのではなくて、課金によるレベルアップや自分の課金ランクを楽しんでいるんじゃないですかね。
ーー大泉さん自身は、これだけ取材をして「ホス狂う」気持ちは理解できましたか?
大泉 頭では理解できるんですけど、自分が狂えるかというとできる気がしない。現実的に、自分の子どもにかかるお金を考えると無理ですよ。ウチには子どもという「推し」がいて、これから先、教育費に1000万円とかかかるんですよ。とても余裕がありません(笑)。
ーーたしかに、その推しは強いですね。この世界では、男女ともになにかを推したり、狂ったりして生きているように思えます。誰しもが「ホス狂い」になる可能性はありますか?
大泉 どうですかね。ホストクラブのホストのルックスは幅が狭いんです。今だと韓流アイドル風、ジャニーズ風の細身のシュッとした感じです。そこにハマらない人はダメなんじゃないでしょうか。例えば、私はプロレスラーみたいなタイプが好きなので、どこの店にいっても「全然好みがいないな」って、さみしい思いをしています(笑)。
キレイな男のコがタイプの女のコは、ホス狂う可能性が高いと思います。バンギャ、ジャニーズファン、メンズ地下アイドルやヴィジュアル系バンドの追っかけは、ハマりやすいんですよ。
ーーアイドルには課金要素がありますもんね。
大泉 それに去年より、今年のほうがホストクラブの総売上があがっているらしいです。数年前まで1億円プレイヤーは数人でしたが、今年は数十人になっています。その話をしていたホストも去年は7000万円の売り上げでしたが、今年は9月の時点で1億円が見えているとのことでした。女のコの来店者数、女のコが使うお金も増えていて、ホストクラブはバブル状態です。
パパ活も流行していて、風俗系の女のコも儲かってるんですよね。私も、知り合いの30代後半の素人女性が、食事するだけでお金をもらったと聞いて、パパ活の流行を肌で感じました。きっと、人に課金をするという抵抗感が取っ払われているんですよ。
ーー眼の前にいる人に課金することに抵抗がない社会になってきたんですね。
大泉 本に書いたものでは、メンズ地下アイドルの前戯物販ですね。お金を払うと、手つなぎやバックハグ、壁ドン、顎クイなどの接触をしてくれます。ホストは究極に課金するとセックスもできるし、同棲までできます。なんなら、実家についてきて親にあいさつもしてくれます(笑)。本当に太い客だと入籍もあるそうです。
ーー最後にどういう人にこの本を読んでもらいたいですか。
大泉 ホストクラブを知らない人に読んでもらいたいです。みんながイメージしているホストクラブとは全然違う出来事が起こっています。想像だと「ウェーイ」なんて楽しくワイワイシャンパンタワーをして、浴びるように飲んでいるみたいなイメージだと思うんです。それはまったく違います。主役の女のコもホストの男のコも20代前半です。「こういう世界もあるんだ」という物語を楽しめると思います。
ーーそうですね。ホス狂う物語は、悲劇的でありながらキラキラしていて、儚くて、女の人は好きかもしれません。
大泉 先日、実家に帰ったときに母親と中学生の姪っ子がいて「新刊は『ホス狂い』なんでしょう。どうなの? イケメンいるの? 何百万かかるの?」とふたりともホストクラブのことをスゴく質問してくるんです。70代も10代も、怖いけど興味があるんだと思いました。ホストクラブは、お金を使えば、イケメンたちがよってたかってチヤホヤしてくれる場所です。女性は宝塚歌劇団を見るように、ホストクラブをのぞいてみたいんだと思いますよ。ぜひ、どんな場所なのかを読んでもらいたいですね。
自分の体を売り、必死に稼いだお金を月に数百万円もホストに使う女のコ……。本書では、常識では考えられない取材対象者たちの言葉と行動を大泉りか氏が翻訳し、わかりやすく伝えてくれる。さらに、本の中では、本営(本命の彼女と思わせる営業)、売り掛け(飲食代の後払いシステム)などのホストクラブの詳しい解説やホストを巡る殺人未遂事件なども書かれている。
著者・大泉りか氏が語るようにホストクラブでは「Z世代の青春物語」が繰り広げられている。しかも絵空事ではなく、リアルな愛や欲望やお金が飛び交っている。その生々しさを『ホス狂い』(鉄人社)は味合わせてくれる。ホストクラブが気になる方は、ぜひ一度手にとってみてはどうだろうか。
【書籍情報】
ホス狂い
著者:大泉りか
発行:鉄人社
今日、300万でシャンパンタワーをやった。自分の身体を売っても貢ぎ続けたい。わたしは担当のエースだからー。ホストにハマるオンナの愛と性と心の闇。