こんにちは。書評家の卯月鮎です。私は子どものころ、昆虫が好きでよく空き地や山の公園で虫取りをしていました。物心ついたときから天邪鬼な性格だったため、ブランド品のようなカブトムシよりはトンボのほうがお気に入りで、池で捕ったヤゴを成虫になるまで育てたこともありました。カブトムシを見つけても大して喜ばなかった私に、きっとカブトムシのプライドは傷ついたことでしょう(笑)。
カブトムシ研究者が明かすその生態
さて、今回紹介する新書は『カブトムシの謎をとく』(小島渉・著/ちくまプリマー新書)。著者の小島渉さんは山口大学理学部講師。専門は昆虫の進化生物学。特にカブトムシを研究し、著書に『わたしのカブトムシ研究』(さえら書房)、『不思議だらけカブトムシ図鑑』(彩図社)があります。
カブトムシの幼虫のすごい秘密
人気者のカブトムシ、さぞかし研究も進んでいるかと思いきや、「まえがき」によると意外にもカブトムシの研究者はほんのわずかしかいないのだとか。というのも、欧米ではカブトムシはほとんど生息しておらず、日本では害虫でも益虫でもないカブトムシは研究費があまりつかないそう……。
しかし、それだけに調べれば調べるほど新しいことが出てくる、と小島さん。図鑑の説明が間違っていることも珍しくないというから、数年後には世紀の発見もあるかもしれません。
第1章「カブトムシ研究者への道」では、小島さんがなぜカブトムシを研究対象にしようと思ったのかが語られます。冬の山で落ち葉の下にカブトムシの幼虫が大量に集まっているのを何度も目撃した小島さん。この疑問をきっかけにカブトムシに研究対象を絞り、幼虫とサナギたちが振動や化学物質で情報をやりとりしていることを発見しました。このエピソードは、不思議をそのままにしない研究者魂を感じさせます。
そして第2章以降では、カブトムシの素顔が次々と明かされていきます。カブトムシは意外と都会派、オスのツノと体が大きいのはケンカに勝つため、クヌギだけでなく庭木のシマトネリコにも集まる……など研究者目線で解説されるカブトムシの生態は新鮮でした。
ドラマチックなのは第5章「活動時間をめぐる謎」。埼玉県の小学生が「カブトムシは夜行性」というこれまでの常識を打ち破る大発見をし、アメリカの学術誌に論文が掲載されるまでを、サポートした小島さんが記しています。ページ数は短いながらドキュメンタリーとして引き込まれました。
単純にカブトムシの雑学を並べるのではなく、研究手法が明かされたり、実験の苦労話があったり、カブトムシバラバラ事件を解いてみたりと各章ごとに工夫されていて、カブトムシというワンテーマながら飽きさせない作り。
ちくまプリマー新書ということでわかりやすく噛み砕いて書かれているのはもちろん、研究とは何か、新しい知識を得るとはどういうことか、そうした学問の本質的な部分にも触れられています。小島さんの深い生き物愛にもあたたかさを感じました。
夏ももうすぐ終わり。大人の自由研究としてカブトムシについて学んでみてはいかがでしょうか。
【書籍紹介】
カブトムシの謎をとく
著:小島渉
発行:筑摩書房
ほんとに夜型? 天敵は何? 大きさはどうやって決まる? カブトムシの生態を解き明かし、仮説の立て方、調査方法なども解説。自然研究の魅力はここにある。
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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。