「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!
ネコトレVol.21「ネコと転職」
会社は僕の価値をわかっていない!?
吾輩はイヌである。
名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機11年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

「今日も平和だ、推しがカワイイ」と、昼休みに推しのSNSをチェックするポチ川。「前から出たかった番組に呼ばれました(ハート)」という投稿を見て頬を緩めていると、見覚えのある顔と目が合った。
ニャ沢「よう、ポチ川!」
ポチ川「えええ、ニャ沢!? おまえ、なんでここにいるんだよ?」
ニャ沢「さすが同期! 覚えていてくれてうれしいよ。実は今月から犬山電機に出戻りました!」
ポチ川「で、出戻り!? たしか数年前に外資系のパソコンメーカーに転職したんだったよね……」
ニャ沢「そうそう! でも3年前に買収されて、経営者が変わったら方針が『コストカット!』ばっかりでつまんなくなっちゃったから、退職してMFAを取ったんだ」
ポチ川「えむえふえー……なにそれ? MBAじゃなくて?」
ニャ沢「美術学修士(Master of Fine Arts)っていうやつ。そしたらその同窓会で犬山電機の人と出会ってさ。西部(さいべ)さんってわかる?」
ポチ川「(またサイベさん?)……名前は聞いたことあるけど」
ニャ沢「俺も出戻りなんて考えてなかったんだけど、西部さんの話を聞いてたら『今の犬山、面白そうだな〜』って思うようになってさ。あ、そろそろ行くわ」
ポチ川「え、所属はどこなの?」
ニャ沢「経営企画部」
ポチ川「役職はヒラ社員で?」
ニャ沢「いや、副部長だよ。じゃ、また!」
ポチ川「……えっ?!」
出戻りして副部長だって!? そもそも転職するなんて、会社への裏切り行為だろう。それなのに、ずっと会社に忠誠を尽くしてきたこの僕よりも、途中で放り出したヤツのほうが偉くなるなんて、どういうことだ?!?
冷静になりたくても、やりきれない思いでモヤモヤが募るポチ川。驚きと戸惑いはやがて怒りに変わり、ついには会社への不信感へとつながって……。
もしかして、僕の市場価値をわかっていないのは犬山電機なのでは?
そんな気持ちから大手転職サイト「レオリーチ」に登録してみることに。これまでの職務経歴やスキルを入力し、期待年収を現在の額よりも少しだけ上乗せして登録してみたのだが───。市場価値として提示された年収は、なんと現在より低かったのだった。
一体、この11年間、僕は何をやってきたというのだろうか? 会社に忠実に働いてきた結果がこれなのか?!
まさかの結果に愕然としたポチ川は、またもニャンザップに向かっていた。

転職は裏切りだ!
ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。足取りが荒々しいようですが」
ポチ川「信じられないことがあったんです!」
ニャカ山T「といいますと?」
ポチ川「僕の同期が、会社を裏切って転職したのに、出戻ってきたんです! しかも、エムなんとかっていう芸術的なMBAみたいなのを取っただかなんだか知らないですけど、経営企画部の副部長だっていうんですよ!」
ニャカ山T「ああ、MFAですね。けっこう前から ”新たなMBA” と言われていますよね」
ポチ川「MBAだかMFAだか知りませんが、会社が考えていることがまったくわかりませんよ! なぜあんな裏切り者が高待遇を受けられるんですか! きっと裏金を渡したに違いない!」
ニャカ山T「MFAホルダーを出戻り採用するなんて、犬山電機さんは進んでると思いますが」
ポチ川「進んでる?! そんなわけないですよ! 僕のようにずっと会社に貢献し続けている人間を差し置いて裏切り者を厚遇するなんて、組織の秩序が崩壊するでしょう! 進んでるどころか、前時代的な暴挙ですよ!」
ニャカ山T「ポチ川さんは、転職を“裏切り”だとお考えなのですね」
ポチ川「当然です! 会社に見切りをつけて出ていくなんて、責任感がないにもほどがありますよ!」
ニャカ山T「今日もだいぶ凝っていますね。今回のネコトレのテーマは『しがみつかず流れに身を任せる』にしましょうか」
なりゆきで転職するネコ
ニャカ山T「ポチ川さんと大学同期のネコ山さんが、どうして転職したか知っていますか?」
ポチ川「え、ネコ山ですか? 大手企業で3年ほど働いて、当時は名前も知られていないスタートアップ企業に転職したのは知ってますけど、謎だらけでしたよ。以前、お話ししたように風のウワサで聞いて『あいつも終わったな』と思っていたくらいです」
ニャカ山T「ネコ山さんは、『こんな成長速度でいいのかな……』とモヤモヤしていたところに、友人だった今の会社の創業メンバーから『人が足りないから来てよ』と誘われ、『なんの会社かわからないけど、働き方の価値観が似ている友人が楽しそうにしているから』と、なりゆきで転職を決めたそうです。給料の額も聞かずに決めたんだとか」
ポチ川「なりゆきで転職!? 給料も聞かずに?! そんなの無謀すぎませんか?! キャリアの選択として間違ってますよ! なんでそんなリスクを取るのか、意味がわかりません」
ニャカ山T「ネコ山さんは、こう言っていました。『仕事の価値観が似ている友人から誘われた流れに乗るより、このままモヤモヤしながら長い時間を過ごすほうがよっぽどリスクだと思った』と」
ポチ川「……。モヤモヤしているのはリスクなんですか?! 会社が安定していれば、ノーリスクなのでは?!」
ニャカ山T「会社が変革期だったり、時代の変化が激しいときはどうお考えですか?」
ポチ川「……ううう。ちょっとわからないですけど……。えーと、うまく流れに乗るコツみたいなのって、あるんですかねぇ。えへへ」
ニャカ山T「では、今回のネコトレは『正しいほうより、ワクワクするほうを選ぶ』にしましょう」
自分の決断を“正解”にする
ポチ川「ワクワクするほうを選ぶ? そんな青臭いことで大丈夫なんですか!?」
ニャカ山T「キャリアの選択だけでなく、決断をするときに『正しいか間違っているか』で決めると、思っていたようにならなかったときに『間違いだった』と後悔することになりませんか」
ポチ川「それは、当然そうなりますよね」
ニャカ山T「出戻られた同期の方は、出戻りを決めた理由を何か話されていましたか?」
ポチ川「転職先が買収されて、経営方針が『コストカット!』ばっかりになってつまんなくなったとか言ってましたけど。それで辞めて、エムなんとかを取りに行ったとか……」
ニャカ山T「MFAですね。その方も『正しいほうより、ワクワクするほう』を選ばれているように聞こえますね。ワクワクするほうを選んだ人は、思っていたようにならなかったときにどう考えると思いますか?」
ポチ川「わかりません。教えてください」
ニャカ山T「自分が選んだ決断を、正解だったと思えるようになんとかするんです」
ポチ川「えっと、よく意味がわからないのですが」
ニャカ山T「では、もしポチ川さんの推しの方が、アイドルグループを卒業する決断をしたとして、ソロ活動が思ったようにいかなかったとしたら、どうすると思われますか?」
ポチ川「彼女はそんなことであきらめるような人ではありません! うまくいくまで粘り強くやり続けるはずです。そして、うまくいくまで僕が応援し続けます!」
ニャカ山T「もし推しの方が、思い立って大学院で学んだあとに、元のグループに戻ってきたとしたらどうですか?」
ポチ川「そんな自分を磨く努力をして新たな知見を得られたんですから、戻ったとしてもグループに新しい価値をもたらすことはまちがいないでしょうね! そんな活躍を見て、僕はさらに力を入れて応援するに違いありません! そうだなぁ、彼女が大学院で学ぶとしたら何がいいかなぁ……。これからのエンタメ業界は ”本物” が求められる時代ですから、芸大とか美大とかがいいかもしれませんね。いや、または意外なところでMBAを持っているアイドルなんていうのも面白いかも……?! ニャカ山さんは彼女が何を学んだらよいと思いますか?! 一緒に考えましょう!」
ニャカ山T「あいにく次の用事がありますので、今日はこのへんで。またお越しくださいね」
今日のネコトレ
Vol.21
【正しいほうより、ワクワクするほうを選ぶ】・退職者は「裏切り者」ではなく「社外の仲間」と考えよう
・「モヤモヤしながら長時間を過ごすことのリスク」を考えよう
・「ワクワクするほう」を選んで、それを自分にとっての正解にしていこうVol.00から読む
Vol.20「ネコと就職」<< Vol.21 >> Vol.22「ネコとイノベーション」
仲山進也
仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。
『組織のネコという働き方 〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』
1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。
取材・構成/つるたちかこ イラスト/PAPAO