約50名分の飲食店の予約をしておきながら、何の連絡もせず、そのままブッチしたという某大学生のニュースが話題になったのが約2年前。以来、同様のケースは後を絶たず、今年3月には東京簡易裁判所で飲食店の予約をドタキャンした被告に損害賠償の判決が下ったことをご存知の方もいらっしゃるかもしれません。
このように、予約したのに来ない客のことをホテル業界では「No Show」と呼び、以前から対策が講じられてきていたようですが、今回はこの問題を法律の観点から考えてみたいと思います。飲食店側はNo Showの客に損害賠償請求ができるのか? 無断キャンセルした客は訴えを起こされた場合にどう対処すべきか? 双方の立場から法律的な意見を弁護士の安川愼二さんに伺いました。
No Showをしても裁判にはならない!?
――予約したのに来ないというNo Show。現状では増えているのでしょうか?
安川愼二さん(以下:安川):件数の把握が難しいため、正確な統計を出しようがないのが現状です。しかし、マスコミをはじめ、ネットユーザーの間で取りざたされるようになり、最近よく耳にすることは事実です。
もし、本当に増えているのだとすれば、恐らくWEBサイトでの予約の手間が楽になったことが理由として挙げられるかもしれません。人による窓口がないぶん、予約した際の責任を感じにくいというか、肌感覚として「こんなことをしたら相手が困るだろう」という実感が得にくくなりますから、こういう問題も同時に増えてしまうということはあり得るかもしれません。
――安川さんご自身は、こういった問題を扱うことはこれまでにありましたか?
安川:私個人の経験としてはないですし、恐らくほとんどの弁護士がないと思います。というのは、お店がNo Showに遭った場合、例えばそれが1人5000円の30名分の予約だったとします。そうなると15万円になるわけですが、この金額の請求のために裁判を起こすと、費用倒れに終わることがあるので、損害賠償請求は起こしにくいのです。
また、WEBサイトで予約されていた場合、お店側は予約した人の素性も知らず、場合によっては携帯電話の番号も本人でないこともあるので、個人の特定ができず、請求しようがないといったケースも多い。ですので、こういったNo Show問題を弁護士マターとして扱う機会はないのだと思います。
――どうしても「これは許せない!」「金額が大き過ぎる!」といった場合は裁判を起こすことも可能ですか?
安川:可能か不可能かで言えば可能です。ただし、本当にNo Showを損害として認めてもらうには、なかなか難しい面もあります。例えば、繰り返しになりますが、1人5000円の30名分の予約が無断キャンセルされて、15万円の損害が出たとします。でも、そのまま「15万円の損害だ」と主張しても、被告側に「でも、ほかのお客が来て、No Showのときに使わなかった食材を出しただろう」「空いた席で別の客を入れただろう」などと反論されることが考えられます。
このように、「お店側が本当に受けた損害額というものはどこまでなのか?」という問題は判断しにくいので、No Showが起きても、やはり弁護士を雇って何らかの法的手段に出るという選択肢は現実的でないわけです。