ビジネス
2023/2/22 19:30

苦手の克服は組織人の義務?『組織のネコという働き方』著者が説く、苦手な仕事から解放される秘訣

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.07「ネコと苦手業務」

 

苦手だけど、仕事だからしょうがない……

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

なんと今月、業界の気鋭メーカー・ミャルミューダ電機と犬山電機のコラボ企画が発表された。しかも手掛けたのは、営業部から社長直轄の新プロジェクトに抜擢された、同期のタマ田だという。いまトレンドの「キャンプで使える家電」という話題性も手伝い、SNSの公式アカウントは開設から一晩で5万フォロワーを獲得。我が社にとって久々の明るいニュースは、朝礼で各部署へ共有された。その影響で……。

 

「というわけで、営業チームでも早急にSNSを始めよ! まずはフォロワー1万人を目指すべし!」

 

SNSのなんたるかも知らないであろうハチ村課長の大号令で、オレたちも犬山営業部公式アカウントを運営するハメに。そもそもオレたちのフォロワーって誰? 目的もはっきりしないのに、運用ルールだけは厳格だ。炎上することがあってはならないと、投稿のたびに部長と課長の承認を要するという。チームのメンバー全員が、1日交代制で回すことになったのだが……。

 

ポチ川「開設3週間でフォロワー25人……」

ミケ野「それ、ほぼ犬山営業部の人数じゃないスか(笑)」

ポチ川「そんなことよりミケ野、今週の更新サボったな?」

ミケ野「僕、不特定多数に向けたSNSってなんか苦手なんですよね。メンバーが限定されたグループとかだったらいいんですけど」

ポチ川「仕事に“苦手”も何も関係ないの。次はちゃんとやれよ!」

ミケ野「あ、スミマセン。次回もたしか出張の日とカブるんで、先輩、代わりにやっといてくれません?」

ポチ川「ハァッ!?」

 

いい加減な後輩・ミケ野が社内で話題になったのは、数日後のことだった。先月、彼が獲得した新規取引先の大手量販店「ニャンデンネン」の社長が、SNSで犬山営業部をほめちぎる投稿をしたという。なんでも、うちの営業マンが、いくつかの量販店の担当者をつなぐクローズドなオンラインコミュニティを作り、この試みが業界の経営者の間で話題になっているとか。その仕掛け人が、まさかのミケ野だというのだ。この間「メンバー限定のグループだったらいい」と言っていたのは、そのことだったのか!? いずれにしても、営業チームのSNSは苦手だからと放ったらかしておいて、裏でそんなものを作っていたとは、まったくいかがなものか。

 

SNSなんてオレだって苦手だけど、仕事だから頑張って回している。アイツはそこから逃げたんじゃなかったのか? ミケ野のやり方はさすがに納得がいかない。苦手を克服するのは組織人の義務であるはずだ。オレはその日の帰り道、迷わずいつものニャンザップを目指した。

↑ポチ川は今日も、ニャンザップに駆け込んだ

 

苦手は克服すべき組織人の義務なのか?

ポチ川「こんばんは、ニャカ山トレーナー!」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「こんばんは、ポチ川さん。今日は勢いがありますね」

 

ポチ川「最近の若者って、自分がやりたくないことや、苦手なことからはすぐに逃げようとしますよね!」

 

ニャカ山T「ずいぶんイラ立っているようですね」

 

ポチ川「だって、聞いてくださいよ。ちょっと前から、うちの部署でSNSの運用が始まったんです」

 

ニャカ山T「ほう」

 

ポチ川「課長が流行りに乗って何の考えもなく号令を出してしまったので、どう運用すべきかわからず困っているんです。投稿内容にいちいち部長と課長の承認もいるし、面倒くさいったらありゃしない。交代制で投稿することになっているのに、ミケ野は苦手だからと業務から逃げているんですよ!」

 

ニャカ山T「ああ、若者とは『組織のネコ』のミケ野さんのことだったんですね」

 

ポチ川「そうです。苦手なことを避けて、自分のやりたいことばかりやるのです。しかも、ニャンデンネンの社長からほめられるなんて!」

 

ニャカ山T「ほめられた?」

 

ポチ川「ミケ野が、自分の担当している量販店の担当者同士をつなぐ、クローズドのオンラインコミュニティを作っていたんです。互いの売り場の作り方など、情報交換や学びの場として盛り上がっているようで、それが量販店の経営者の間でも話題になっているらしく……。だけど同じ営業チームのメンバーとしては、今回の彼の行動にはやっぱり納得がいきません」

 

ニャカ山T「といいますと?」

 

ポチ川「だって、僕らはみんなで苦手なSNSにも正面から向き合って取り組んでいるのに、ミケ野はそこから逃げていますから」

 

ニャカ山T「オンラインコミュニティを立ち上げているのですから、ミケ野さんはSNSを使いこなしていますよね?」

 

ポチ川「不特定多数に向けたSNSは苦手だと言っていました。メンバーが限定されているグループSNSだったらいいのですが、と」

 

ニャカ山T「なるほど、クローズドのSNSは得意ということなんですね」

 

ポチ川「そのあたり、僕にはよくわかりませんが、とにかく苦手を克服するのは組織人として必須です。やりたいことばかりやって苦手から逃げていると、いずれ成長できなくなりますから。ミケ野の言うことは甘えですよ!」

 

ニャカ山T「ふむ。今日もなかなか凝っているようですね。では、今回のネコトレのテーマは『苦手なことを手放す』にしましょうか」

 

働き方には「足し算ステージ」と「引き算ステージ」がある

ポチ川「苦手なことを手放す?! それはナシでしょう。今日ばかりは僕のほうが正しいと思いますが」

 

ニャカ山T「あ、そういえば話は変わりますけど、犬山さんとミャルミューダさんがコラボすることになったんですよね。ニュースで見ました」

 

ポチ川「ご存知でしたか。実はそのコラボプロジェクトの公式SNSが話題になったせいで、課長の号令で『営業部も公式SNSをやるぞ』となったんですよ。しかもそのプロジェクトの担当者が僕の同期なんです……」

 

ニャカ山T「そうでしたか。犬山さんの”中の人”と、ミャルミューダさんの”中の人”は、以前からSNSで仲良くやりとりしていましたもんね」

 

ポチ川「えっ、そうなんですか?!」

 

ニャカ山T「ご存知ありませんでしたか? SNS界隈では有名ですよ。そのやりとりの中で『コラボしましょう』と盛り上がったのがきっかけで実現したって。たしか犬山さんの”中の人”は……タマ田さんといったかな」

 

ポチ川「タマ田!! さっき話した同期です!」

 

ニャカ山T「そうでしたか。タマ田さんは実名だったんですね」

 

ポチ川「そんな軽いきっかけでコラボが実現したなんて……。仕事って、そんないい加減な感じでやってよいものなのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「あ、ちょうどいいキーワードが出ましたね。仕事には『加減』が大事なんですよ。加と減、すなわち、足し算と引き算です。働き方にはステージがあって、まず足し算。できることを増やしていくステージです。苦手なこともより好みせず、できるようになるまでやる」

 

ポチ川「ほら、やはり僕の考えが正しいということですよね!?」

 

ニャカ山T「第1ステージの考え方としてはそうですね。しかし、その先に第2ステージがあります。好みでない作業を減らし、強みに集中する引き算のステージです。このステージでは、苦手なことを克服し続けてはいけません」

 

ポチ川「なぜですか!?」

 

ニャカ山T「会社から苦手なことを指示され続けて、それを克服し続けるうちに定年を迎えたらどうなると思いますか?」

 

ポチ川「むむむ……。真面目ではあるけれど、たいした取り柄のない無職の人が生まれるでしょうね……。それはツラい……」

 

ニャカ山T「そうならないためには、しかるべきタイミングで引き算ステージに進むことが大事なのです」

 

ポチ川「ステージを上がるタイミングは、どうすればわかるのでしょうか?!」

 

ニャカ山T「足し算ステージでいろいろな仕事ができるようになると、だんだん頼まれる仕事が増えてきて、どこかでキャパシティオーバーになるタイミングがきませんか」

 

ポチ川「きますきます。僕なんて、もう何年もキャパオーバー状態が続いていますよ。それがステージを上がるタイミングということですか?」

 

ニャカ山T「いえ、まだです。そのキャパオーバーになった状態を、なんとか工夫することでキャパの範囲内に収めることができるようになったとします。それはなんらかの強みが発揮されたことによって生産性が高まったということなので、その時点で『仕事で通用するほんものの強みが浮かび上がった状態』になっているはずです。それが自覚できたときが、ステージを上がるタイミングです」

 

ポチ川「キャパオーバーなのは、上司のマネジメントがよくないからではないでしょうか!?」

 

ニャカ山T「その考え方だと、“取り柄のない無職”まっしぐらでしょうね」

 

ポチ川「……。ぼ、僕のことは置いといて、いま問題なのはミケ野ですよ。苦手から逃げているということは、足し算ステージをやっていないことになりませんか!?」

 

ニャカ山T「ミケ野さんが”営業スキル的にできないこと”は何がありますか?」

 

ポチ川「基本的なことは、ほぼすべてできるようになりましたよ。なんと言っても、この僕が指導役なのですから! ミケ野は最初、本当に何もできなかったから手を焼きましたよ!」

 

ニャカ山T「ということは、すでに足し算ステージをやり切って、引き算ステージに入っている可能性が高そうですね。SNSも十分に使えるスキルがある上で、自分の苦手業務を手放しているのではないでしょうか。では、今日のネコトレをやってみましょう。今回のトレーニングは『好みでない作業を洗い出す』です」

 

「好みでない作業」を洗い出す

ポチ川「好みでない作業? 得意なことについて考えるのではないのですか?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、自分の得意なことがまだわからないのでしょう?」

 

ポチ川「し、失礼な! まぁ、まだよくわからないですけど……」

 

ニャカ山T「『組織のイヌ』の働き方は、指示されたことは苦手であろうともやり遂げようとするので、足し算ステージっぽいところがあります。それに対して、『組織のネコ』の働き方は自分の価値基準を優先し、やりたいことや得意なことで価値を生み出そうとするので、引き算ステージっぽい。言い換えると、イヌは放っておくとずっと足し算をし続けようとする落とし穴にハマりやすいんですね。だから、イヌにはネコトレが大事なんです。ちなみに、ネコは放っておくと足し算をしないまま好き勝手やろうとする落とし穴にハマりやすいので、ネコには逆に“イヌトレ”が大事なのですが」

 

ポチ川「わかるようなわからないような……」

 

ニャカ山T「足し算ステージでは、いろいろな仕事を”できるようになるまでやる”ことが大事です。一人前にできるようになったあとで、それでも『この作業は好みじゃないな』と思うものを挙げてもらいたいのです」

 

ポチ川「作業ってどういう意味ですか?」

 

ニャカ山T「苦手な仕事をできるようになったけれど、やっぱりこの作業はテンション上がらないな、できればやりたくないな、と思う作業のことです。ミケ野さんの例で言えば、『不特定多数の人向けに発信する作業は好みでないけれど、特定メンバー向けに発信する作業は好み』と言えそうな気がします」

 

ポチ川「なるほど、『SNSを運用する仕事』みたいなくくりではなく、もっと作業レベルで好みか好みじゃないかを判断するということですか?」

 

ニャカ山T「そうですそうです。ポチ川さんは足し算をし続けてきているので、いろんな作業をやってきているはず。言い換えると、『仕事はできるようになったけど、この作業は好みじゃないな』という発見をたくさんしてきている可能性があるかなと」

 

ポチ川「フフフ。そんなことでよければ、いくらでも挙げられますよ。まあ、100個はくだらないでしょうね。いまここで言いましょうか? 理由も挙げれば、2時間くらいかかるでしょうね」

 

ニャカ山T「それは、ぜひ家でやってみてくださいね。今日はここまでにしましょう。またいつでもいらしてください」

 

今日のネコトレ

Vol.07
「好みでない作業」を洗い出す!】

・苦手なことでも、できるまでやることが大事な「足し算」の時期がある
・苦手な作業を手放すことが大事になる「引き算」の時期がある
イヌの働き方は足し算っぽく、ネコの働き方は引き算っぽい

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Vol.06「ネコと評価」<< Vol.07 >> Vol.08「ネコとスケジュール」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO