ビジネス
2023/4/10 20:30

スケジュールは埋めずに空けるもの!『組織のネコという働き方』著者が提案する、意味あるヒマのつくり方

「組織のイヌ」であることに疲れた人、違和感がある人へ。「組織のネコ」という存在を知っていますか? これは令和時代のサラリーマンに贈る、もっと自分に忠実に、ゴキゲンに働くためのヒント集。楽天創業期からのメンバーにして、同社唯一の兼業自由・勤怠自由な正社員となった仲山進也氏に学ぶ「組織のネコ」トレーニング、略して「ネコトレ」!

 

ネコトレVol.08「ネコとスケジュール」

 

ヒマな後輩や“窓際族”が面白そうな仕事にありつけるなんて!

吾輩はイヌである。

 

名はポチ川アキ男、31歳。趣味は推し活。犬山電機10年目の中堅にして、未だ営業チームの副主任どまり。会社の指示には忠実に従っているので、もっと正当に評価されたいと思ってはいるものの、出世のレールは先輩社員の行列で大渋滞中……。

↑「我が輩はイヌである」(ポチ川アキ男)

 

犬山電機と新進気鋭のミャルミューダ電機がコラボしたキャンプ用品ブランドが、いよいよ始動するという。そのPRイベントの実施に際し、発起人である同期のタマ田から当日の運営スタッフの社内公募が告知されたのだ。

 

「インフルエンサーを集めてイベントだって? ただでさえ忙しいのに、そんなお遊びにつき合ってるヒマなんてないっつーの」

 

そうつぶやきながら名刺が足りないことに気づいたオレは、庶務課へ向かった。窓口では、吠崎係長がめんどくさそうに対応していた。いつもヒマそうにしている定年間近の窓際族だ。仕事が忙しいのも困りものだが、あんなふうにだけはなりたくない。そんなことを思いながら席に戻る途中、タマ田とすれ違った。

 

ポチ川「よう、タマ田。久しぶり」

タマ田「おお、ポチ川、どう最近?」

ポチ川「まあ、ぼちぼちかな。タマ田は例のコラボで忙しそうだな」

タマ田「リリースまでは大変だったけど、一山越えたから結構ヒマだよ。そうだ、ポチ川も社内公募エントリーしてよ。締め切り、今日までだから」

ポチ川「いやぁ、いろいろ忙しくってそんなヒマはないなぁ」

タマ田「そうなんだ。そういえば、ミケ野くんからはエントリーきてたよ」

ポチ川「えっ!? 聞いてないんだけど。ミケ野のヤツめ!」

 

席に戻ると、さっきまでいたはずのミケ野は外出で不在だった。その翌日、発表された社内公募メンバーのなかにミケ野と吠崎係長の名前があったのだが、もうそんなことはどうでもよくなるほど驚愕の出来事が起こった。

 

なんとイベントのゲスト一覧に、オレの推しの名前が書いてあったのだ……!

 

タマ田に「なんで教えてくれなかったのか!」と問い詰めたところ、「社内公募の案内に書いてあったんだけど」とさわやかな笑顔で言われる始末。興味なかったからちゃんと見ていなかった。なんという不覚……。

 

アタマが真っ白になったオレは、気づけばいつものニャンザップにたどり着いていた。

↑ポチ川は今日も、ニャンザップに駆け込んだ

 

いつだって「時間がない」のはなぜ?

ポチ川「……(顔面蒼白)」

 

ニャカ山トレーナー(以下、ニャカ山T)「おや、ポチ川さん。なんだか顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」

 

ポチ川「……いえ、もう無理かもしれません」

 

ニャカ山T「いったい何があったのですか?」

 

ポチ川「なぜ忙しく働いている自分が報われなくて、ヒマにしているヤツが報われるのか……」

 

ニャカ山T「と、いいますと?」

 

(推しに会えるチャンスを逃したコトの経緯を話したあと、オレは疑問をぶつけた。)

 

ポチ川「タマ田もミケ野も吠崎係長も、ヒマがあるからお遊びみたいなイベントに参加できるわけですよ。こちとら骨身を削るほど忙しいというのに……。組織人として、ヒマがあるなんて許されるべきではないと思うのですが!?」

 

ニャカ山T「ポチ川さんには、時間が足りないというわけですね」

 

ポチ川「正直、毎日の仕事量が多すぎます。営業先へのフォローやトラブル対応、社内会議の資料づくりや諸々の社内調整、日々の業務報告のための活動記録と数値管理、それに加えて自由すぎる後輩の監督役。忙しすぎて、毎日ヘトヘトですよ。スケジュールがびっしり埋まっている上に、突発的なトラブル対応に追われるわけですから、社内公募なんて絶対に無理でしょう!?」

 

ニャカ山T「なるほど、それで推しに会えるチャンスを逃した、と。ちなみにポチ川さんはヒマになることはないのですか?」

 

ポチ川「いや、だから組織人としてヒマなんてあってはならないでしょう。そんなボーッとしていたら、評価が下がって窓際族にされてしまいますからね! 価値がある人は忙しくなるものですから」

 

ニャカ山T「なるほど。今日のポチ川さんも、だいぶ凝っているようですね。では、今回のテーマは『びっしり詰まったスケジュールを手放す』にしましょうか」

 

“ヒマ”と“退屈”の違いとは?

ポチ川「びっしり詰まったスケジュールを手放す? それは難しいでしょうね。1日36時間あれば別ですが」

 

ニャカ山T「本当に、少しのヒマもないほど忙しいのですか?」

 

ポチ川「毎日バタバタですよ。まあ、仕事ができる人に仕事が集まってきちゃうってことなんでしょうけどね(フッ)」

 

ニャカ山T「ポチ川さんにとって、“ヒマ”とはどういうことですか?」

 

ポチ川「ヒマ、ですか? やることがない、怠惰で生産性のない時間のことだと思いますが」

 

ニャカ山T「ならば、ヒマは悪いことですか?」

 

ポチ川「当然です。時間は有限なのですから、それを無駄に使ってはいけません!(ドヤ顔)」

 

ニャカ山T「ポチ川さんは、“ヒマ”の意味を辞書で調べたことはありますか?」

 

ポチ川「そんなの、調べるまでもないですよ。まあでもいいでしょう、スマホで検索してみましょうか。えーと、ヒマ……っと。出てきましたよ。……えっ?!」

 

ニャカ山T「なんと書いてありますか?」

 

ポチ川”ヒマ”とは自由に使える時間があること』って書いてあります……」

 

ニャカ山T「その定義だと、ネガティブな意味合いは入っていないですね」

 

ポチ川「うっ……。でもヒマにしていると、吠崎係長みたいに“窓際”に追いやられてしまうのが組織というものなんですよ!」

 

ニャカ山T「ホエザキ係長?」

 

ポチ川「会社の庶務課の万年係長ですよ。いつもヒマそうにしていて、窓口ではめんどくさそうに働いています。それなのに、社内公募に選ばれたなんて……う、うらやましい……」

 

ニャカ山T「ああ、もしかすると、その方はヒマ人から“自由人”に変わったのかもしれませんね」

 

ポチ川「どういうことでしょう?!」

 

ニャカ山T「では、ヒマと“退屈”の違いは、わかりますか?」

 

ポチ川「さっきヒマの意味を調べるまでは同じ意味だと思っていましたけど……。退屈を検索してみていいですか? えーと、出ました。『飽きていること。ヒマを持て余していること』。えええ、ヒマを持て余しているのが退屈なのか……」

 

ニャカ山T「そうです。自由に使える時間(ヒマ)を持て余しているのが退屈であって、『ヒマ=退屈』ではないのです。いわゆるヒマ人とは、正確に言うと『ヒマ持て余し人』のことになります」

 

ポチ川「ヒマと退屈が違うことはわかった気がするのですが、吠崎係長がヒマ人から自由人に変わったというのは?」

 

ニャカ山T大事なのは、ヒマな時間を退屈せず、夢中で過ごせるようになることです。そこで『ヒマ⇄忙しい』と『退屈⇄夢中』の2軸を組み合わせて、4象限で考えてみましょうか。

ヒマがあって退屈なのが『ヒマ人』
ヒマがあって夢中なのが『自由人』です。
忙しくて夢中なのが『モーレツ人』
忙しいけれど退屈なのを『歯車人』と呼びます。

もしそのホエザキ係長の趣味が推し活だとしたら、自由に使える時間で夢中になれる仕事に就いて『自由人』になったことになりますね」

 

ポチ川「吠崎係長の趣味が推し活?! そういえば、今回のイベントゲストの一人と”我が推し”が共演したイベント会場で、吠崎係長らしき人を見かけた記憶が……。いや、そんなことより『忙しいけれど退屈な歯車人』という状態が存在するなんて聞いたことなかったんですけど、どういうことなのでしょうか!?」

 

ニャカ山T歯車人は、いつも忙しくしていないと不安になります。なぜなら、スケジュールをいっぱいに埋めることで、自分は組織の役に立っている、必要とされているといった自己重要感を得ようとするからです。仕事には退屈しているから、仕事そのものからは自己重要感を得られない。だから歯車人にとって“ヒマ”は悪なのです

 

ポチ川「むぐぐ……。でも、スケジュールが詰まっていることの何が悪いというのですか!?」

 

ニャカ山T「『スケジュールが詰まっている=価値がある人』という思い込みがあると、そのうち”本当はヒマなのに余計な用事や仕事をつくって忙しいフリをし始めてしまう”ことがあります。しかも、そういう人に限って、『1日がもっと長ければいいのに』と言っていたはずなのに、いざヒマができると持て余しがちになるのです」

 

ポチ川「(み、見られてた?!)いや、僕はそんなことないですけど、そういう人もいるんでしょうねぇ」

 

ニャカ山T“ヒマ=自由に使える時間”をつくり出し、そこでやりたいことを夢中で楽しもうとするのが自由人です。それに対して、歯車人にとってスケジュールは“埋める”もの。忙しいことで自分に価値があると思い込もうとしているのです。というわけで、今日のネコトレをやってみましょう。今回のトレーニングは『1日に30分だけ、仕事中に自由な時間をつくる』です」

 

100%自分のために使う時間をつくる

ポチ川「30分だけでいいんですか? 何をしてもいいの?」

 

ニャカ山T「30分でよいです。ただし、その時間にはトラブルや上司からの指示といった、外側の何かに対応する行動を含めてはいけません。100%、自分のために使ってください

 

ポチ川「うーん。30分くらいなら、明日にでもできそうだな。その時間で、まずは吠崎係長に推し活が趣味なのかを問い詰めにいきますよね。あとはミケ野をつかまえて、”我が推し”の写真を撮ってくるように厳命せねばなりませんね! あぁ、忙しい!!」

 

ニャカ山T「はい、今日のトレーニングはここまでです。お気をつけてお帰りくださいね」

 

今日のネコトレ

Vol.08
【1日に30分間だけ自由な時間をつくる!】

・“ヒマ”とは、自由に使える時間があること
・時間を埋める歯車人と、時間をつくる自由人がいる
・忙しいなら、まずは踏ん張ってヒマをつくろう

Vol.00から読む
Vol.07「ネコと苦手業務」<< Vol.08 >> Vol.09「ネコと1 on 1」

 

仲山進也

仲山考材株式会社 代表取締役、楽天グループ株式会社 楽天大学学長。
北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。創業期の楽天に入社後、楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。人にフォーカスした本質的・普遍的な商売のフレームワークを伝えつつ、出店者コミュニティの醸成を手がける。「仕事を遊ぼう」がモットー。

 


『組織のネコという働き方
〜「組織のイヌ」に違和感がある人のための、成果を出し続けるヒント〜』

1760円(翔泳社)
仲山進也氏による、組織の中で自由に働くためのヒント。組織で働く人をイヌ、ネコ、トラ、ライオンの4種類の動物にたとえながら、ネコと、その進化形としてのトラとして、幸せに働きながら成果を上げる方法を説く。

 

取材・構成/小堀真子 イラスト/PAPAO