3月24日、ソニーからデジタル一眼カメラα用(Eマウント)の交換レンズが3本発売される。そのなかでも、特に注目を集めているのが「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」だ。このレンズは、最先端の技術と妥協のない光学設計で作られる「G Master」シリーズに属する製品で、優れた解像性能が得られる中望遠単焦点レンズである。・・・と同時に、ほかの一般レンズとは一線を画する、非常に滑らかで美しいボケ描写が得られる「STFレンズ」でもある。その描写は“αレンズ史上最高のぼけ味”と謳われているほどだ。
そもそもSTFレンズとは?
製品名に含まれる「STF」は「Smooth Trans Focus」の略で、滑らかなボケ描写が得られるレンズのことを指す。アポダイゼーション(APD)光学エレメントという特殊フィルターが内蔵されており、ぼけた部分の輪郭がとろけるような、理想的な描写を得ることができるのだ。
アポダイゼーション光学エレメントとは、周辺部にいくほど透過光量が少なくなる特殊効果フィルターのこと。点像などの輪郭部を滑らかにするほか、目障りになる“二線ボケ”の発生などを抑制することも可能。そして、ピントを合わせた部分は非常にシャープなのである。ちなみに、従来からAマウント用には「135mm F2.8 [T4.5] STF」という望遠単焦点のSTFレンズが発売されている。
通常レンズと描写比較してみた
では、STFレンズのボケ描写は、一般レンズとどのくらい違うものなのか? それを見比べるため、同じEマウント用のなかから、焦点距離と開放F値が近い「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」を選んで撮り比べてみた。まあ、これも美しいボケ描写をウリにする製品ではあるのだが……。
作例を見る前に留意すべき点が1つ。「FE 100mm F2.8 STF GM OSS」の開放F値は、製品名にもある通りF2.8だが、先述のアポダイゼーション(APD)光学エレメントの内蔵によって、実際の透過光量は一般のレンズよりも少なくなる。そのため、絞りリングには、レンズ口径と焦点距離によって決まるF値ではなく「Tナンバー」が表記されているのだ。カメラ側に表示・記録されるF値もTナンバーの数値になる(開放時はF2.8ではなくF5.6になる)。ちなみに、アポダイゼーション効果が期待できるのは、5.6から8の間。
まずは背景ボケの比較を見てみよう。上から100mmSTFのF5.6、90mmマクロのF2.8、F5.6だ。
まず、100mmSTFと90mmマクロの開放時の描写を見比べてみよう。アポダイゼーション(APD)光学エレメントの減光効果はボケ量にも影響を与えるため、100mmSTFのボケ量は90mmマクロよりも小さいように見える。だが、そのボケた部分の輪郭部は、明らかに100mmSTFのほうが滑らかで美しい! そして、90mmマクロでは少し気になる葉や茎の“ざわつき感”も、100mmSTFのほうは感じられない。
そして、100mmSTF開放と90mmマクロF5.6(どちらもカメラ表示はF5.6)の描写を見比べると、今度は100mmSTFのほうがボケ量が大きいように見える。そして、90mmマクロの方は、開放から2段絞ったぶん背景がハッキリ見えるようになり、全体的にやや雑然とした印象を受ける。
続いて、点光源のボケを比較してみよう。
狙った被写体の前後を大きくぼかすため、絞りを開放に設定して撮影。これは大口径(開放F値が明るい)レンズや望遠系のレンズで多用される撮り方である。その際、大きくボケる部分に点光源や木漏れ日や反射光などがあると、幻想的な雰囲気を演出することができる。
しかし、この点光源が画面周辺部に位置していると、口径食の発生により円形になるべきボケがレモンのように歪んで写ってしまう。だが、FE 100mm F2.8 STF GM OSSは、この口径食の発生を抑える設計になっているとのこと。そのあたりの描写も「FE 90mm F2.8 Macro G OSS」と見比べてみよう。
先ほどと同じく、上から100mmSTFのF5.6、90mmマクロのF2.8、F5.6だ。写真左上の点光源のカタチに注目しながら見てもらいたい。
水面から伸びる白いスイレンを被写体に選び、その花の伸びる先の画面左上ぎりぎりに点光源(照明の水面反射)を入れて撮影。これはもう“口径食必至!!”なシチュエーションだが、100mmSTFでは絞り開放でも口径食の発生が見られない。これは見事な描写である。一方、90mmマクロの方は、点光源が派手に歪んでしまった。このレンズも2段絞ったF5.6なら点光源の歪みはかなり改善されるが、そうすると今度は全体のボケ効果が弱まってくる。
現状STF系レンズを謳う製品はいくつかある
現状、アポダイゼーション(APD)光学エレメントを内蔵する“STF系レンズ”は今回ソニーから発売される本製品以外にも何本か存在している。
まず、同じくソニーからは、前出のAマウント用「135mm F2.8 [T4.5] STF」。これはミノルタ時代(※1985年にミノルタが開発。以後、コニカミノルタ時代を経て、2006年からソニーで展開)のα用から受け継がれてきた製品で、その滑らかで美しいボケ描写に傾倒するユーザーは少なくない。ただし、ピント合わせはMFのみ。
また、富士フイルムからは、APDフィルター搭載レンズで世界で初めて(※2014年の発売時)AF撮影を可能にした「フジノン XF56mmF1.2 R APD」が発売されている。そして、中国のブランドであるLAOWA(ラオア)からは「105mm F2 ‘The Bokeh Dreamer‘」が発売されている。
次回のレポートでは、このレンズの独特の描写をどう生かすか? また、ボケ以外の描写性能はどうか? といった、詳細な実写レポートをお伝えしたい。
【SPEC】
●型名 SEL100F28GM ●レンズマウント ソニー Eマウント ●対応撮像画面サイズ 35mmフルサイズ ●焦点距離 100mm ●レンズ構成 10群13枚 *APDエレメント含まず ●絞り羽根 11枚 ●円形絞り ○ ●最短撮影距離 0.85m(マクロ切り換えリング「0.85m-∞」時)
0.57m(マクロ切り換えリング「0.57m-1.0m」時) ●最大撮影倍率 0.14倍(マクロ切り換えリング「0.85m-∞」時) 0.25倍(マクロ切り換えリング「0.57m-1.0m」時) ●フィルター径 72mm ●フードタイプ 丸形バヨネット式 ●外形寸法 最大径x長さ 85.2 x 118.1mm ●質量 約700g