スーパーマーケットでの取り扱い率、80%以上という焼肉のたれ「ジャン」。日本の焼肉だれの代表のひとつであり、焼肉文化を日本に広めたヒット作でです。しかし、ここに至るまでの経緯には隠された逸話が数多くあるよう。製造・販売元のモランボンでは常にジャンを使ったレシピを研究し続けているとも。今回は、ジャンの知られざる逸話と、モランボン直伝の「絶対にやってはいけない焼肉ダレの漬け込み方」について、同社・橋本直己さんに聞きました。
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「つけダレで食べる焼肉」は、韓国にはあまりない食べ方だった!
――ジャンは、もともとモランボンが経営していた焼肉店が始まりだったんですよね?
橋本直己さん(以下:橋本) そうです。もともと弊社は1972年に会社を設立し、焼肉店と調理師の専門学校をメインにしていました。そんななか、「この店のタレ美味しいよね」という声を多くいただくようになり、それを商品化しようとしたのが始まりです。実際には商品化を始めてから発売まで7年の時間がかかりました。
――どうして7年もの時間がかかったのですか?
橋本 やはり「生」ですね。ジャンは「生ダレ」として、調合後に加熱をしないところにこだわりました。さきほど言った焼肉店で出していたタレと遜色ない状態で家庭にお届けしたいと考え、原料を加熱処理しないでブレンドし、冷蔵で精肉店、スーパーマーケットに運ぶにはどうしたら良いかと、苦戦したと聞いています。
当時は今のように多種の包材がある時代ではなく、缶詰の商品が主力であり、加熱処理をされたものが大半で、たれの風味にこだわっているものはありませんでした。今はよく使われるようになりましたが、当時は珍しかったアルミ箔の使い切りの包材を用いるなどして、やっと発売に至ったようです。やはり「生ダレ」であることで、焼肉の美味しさを日本に広められたと自負しています。
――確かにジャンが発売される1979年以前は、焼肉や韓国料理は外食に限られていたように思います。
橋本 そうですね。当時、弊社の創業者は韓国式の焼肉文化を日本の家庭に広めたいという思いがありました。もともと韓国の焼肉は、揉み込みダレが主流で、いまの日本のつけダレの慣習は一般的ではありませんでした。お肉に揉みダレをつけて、焼いたらそのまま食べるのが韓国の焼肉です。
しかし、日本人は慣れていませんから、そのまま食べると熱くて火傷してしまったりして。そこで、日本式焼肉として「つけダレ」というものが浸透していきました。弊社のジャンは、揉み込みをする韓国式の新しい食べ方の焼肉を提案し、発売に至りました。タレ自体の販売だけでなく、焼肉用の肉の切り方や、ノウハウも精肉店に提案したようです。
焼肉のたれ ジャンは東京スカイツリー630本万分を販売!
――一方、焼肉のたれ ジャンは「生ダレ」ですから、どうしても賞味期限が短いですね。
橋本 39年間で、時代ごとの原料素材の状況に合わせて、小さなマイナーチェンジをしてきましたが、それでも「生」にこだわり続けていますので、賞味期限が短いことは弊社としてももどかしいですが、どうしても避けて通れません。
しかし、この「賞味期限が短い」を逆手に「逃げ足が早い」と言い換えて、逃げ足くんというキャラクターを開発し、今もFacebookで弊社のプロモーションを行っております。
――しかし、その賞味期限の短さをもってしても、市販されている焼肉ダレのなかでは焼肉のたれ ジャンの支持率は圧倒的なものがあると思います。これまで、どれくらい販売されたのでしょうか?
橋本 これまで一般的な240グラムのタイプは、1億8千万本を販売しました。
――もう積み上げたら空を付け抜けて宇宙に行きますね(笑)。
橋本 はい。以前、個人的に調べたことがありますが、東京スカイツリーに換算すると、スカイツリー630万本くらいの量です(笑)。
社内ではジャンをアイスやデザートに転じる新レシピへの挑戦も!?
――公式サイトを見ると、メインの焼肉だけでなく、意外な料理にもジャンを使ったレシピが紹介されています。
橋本 結構万能なんです、ジャンは(笑)。唐揚げ、ハンバーグ、大学芋など。あと、個人的に好きなのが炊き込みご飯ですね。
――炊き込みご飯、ですか!?
橋本 鶏もも肉150グラム、しめじなどを加えた米2合に対してジャン大さじ4……。
――ジャン大さじ4って結構多そうな感じがしますけど。
橋本 いや、これがベストな配合ですね。濃過ぎず、薄過ぎず、甘みもあって品のある香りがたまらないです。ぜひお試しいただきたいですね。
――こういったレシピはモランボン社内で常に研究、試作されているのでしょうか?
橋本 はい。開発スタッフだけでなく、社員全員にジャンを使ったレシピを公募し、皆で提案し合うのですが、そのなかで美味しかったものを公開しています。
――失敗だったものもありますか?
橋本 パンケーキとかアイスとかデザートに挑戦している社員もいましたが……さすがに「ちょっとないかな」という意見が多く(笑)。これはお蔵入りになりました。
ジャンは、手のひら全体で肉にもみ込んではいけない!?
――これまでのジャンを変遷を見ると、ホルモン焼用、ラム・マトン焼用、鳥焼用など様々なフレーバーも販売されていたようですね。
橋本 はい。蓄種別ごとに出していたのは初期のころで、近年はみそジャンなども販売し、味のラインナップを拡大しています。ずっと使っていただいているお客さま、まだジャンを知らないお客さま双方に新しいご提案をしただく意味も含めて、常に新開発を行っています。失敗も確かに多いですが、その経験を次の開発に生かし、より美味しいジャンをお届けしたいと思っています。
また、今年は39年ですので、「サンキュー企画」と題して、サンプリング用として39グラムの新容量パッケージを作りました。よりジャンに親しんでいただく1年にしたいと考えています。ジャンが一家に1パック……醤油、塩、胡椒と同じようにジャンが浸透していくと良いなと思っています。
――焼肉を食べる際のジャンの理想的な使い方、やってはいけない使い方を教えてください。
橋本 これは弊社、モランボンのなかで代々教えられるものですが、お肉を焼く前にジャンを軽く揉み込む際、できるだけ手のひらの表面積が少ないところでジャンをお肉に対して20%くらいの量でもみこみます。つまり、指先で軽くもみこむのが基本です。なるべく、手のひら全体でもみ込んではいけません。
――なぜですか?
橋本 お肉に体温が伝わると、お肉の脂が溶けてしまうからですね。ですので、絶対に指先で軽くもみ込み、10~15分くらい漬けておきます。あまり長く漬け込むとお肉のたんぱく質、ジャンの味自体が喧嘩してしまい美味しさが逃げていきますので。
もみこみが済んだら、今度は強火でサッと焼く。何度もひっくり返さず、片面が焼き上がったら、もう片方を軽く焼いて食べる……。これがジャンを使ったベストな焼肉の食べ方です。ぜひお試しいただきたいですね。
橋本さんのお話を聞き、何度もヨダレが出る瞬間がありました。家庭でのジャンを使った焼肉、今晩あたり是非いかがでしょうか?