グルメ
カレー
2020/9/3 21:00

「日本式カレー」の歴史140年を、意外な蘊蓄とともに紹介

カレー粉とカレールウの違いとは?

ーー戦時中はカレーが食べられなくなっていたんでしょうか。

 

和田 カレーに限らず、輸入食材や原料は経済統制下に置かれましたから、一般には出回りづらくなっていました。太平洋戦争が激化する1944年(昭和19年)にはカレー粉も軍用に納めるものが主流になっていたそうです。やがて戦争が終わり、1948年(昭和23年)には一部の学校で給食にカレーが導入され始めるんですけど、この頃のスパイスの原料などもまだ割り当て制でした。

 

それが1950年(昭和25年)頃になると、インドからのスパイス輸入が再開されることになり、この頃から各社とも続々と固形ルウを販売し始めます。

↑現在まで日本の家庭の食卓で多く使われ続けている固形式のカレールウ(写真提供:全日本カレー工業協同組合)

 

ーーいわゆるカレー粉とは似て非なるものですよね。

 

和田 はい。カレー粉は、数十種類のスパイスを調合・製造したもの(ミックススパイス)で、これだけを溶かしてもいわゆるカレーにはならない。カレー粉はあくまでも調味料の一つで、料理人が独自にコクやうまみを加えて、初めてカレーになるというものです。一方、1950年(昭和25年)頃から各社ともに販売し始めた固形ルウは、カレースパイスだけでなくコクやうまみを加えたもので、煮込んだスープに溶かせば、すぐカレーになるというもの。現在まで日本の家庭で多く使われているものです。

 

堀井 戦争が終わってまだ5年しか経っていない時期に、こういった商品が出回ったということは、戦前から家庭向けのカレールウを製造する技術はすでにあった証拠ですよね。「より使いやすいカレーを」という理由で各社とも研究を重ねていたけど、戦時中は原料が手に入らなくなって、一時ストップ。戦後、ようやく世の中が安定した段階で各メーカーとも販売し始め、一般のお客さんが買うようになっていったのではないかと思います。

↑調味料としてのカレー粉と、すでに調味された固形ルウ。左:「赤缶カレー粉」(エスビー食品)。右:「バーモントカレー」(ハウス食品)

 

↑一般家庭では固形ルウのほうが使いやすいものの、現在も業務用として様々なメーカーがカレー粉、カレーフレークなどを販売し続けています。左:「軽便カレー粉」(杉本商店)、右:「タムラヤカレーフレーク」(タムラヤ)

 

カレーと放送局は、マーケティングの先駆け?

ーー固形ルウ登場から今年で70年になります。この固形ルウが、日本人のカレー食をさらに広めたと考えて良いでしょうか。

 

堀井 そうですね。基本的にはこの70年で、カレー市場が落ち込んだことはなく、むしろ市場が少しずつ広がっていった歴史でもありました。ところで、NHKや民放がテレビ放送をスタートしたのは1953年(昭和28年)ですけど、テレビ放送の歴史と、カレー食の歴史ってどこか似ているところがあると思うんです。

 

ーーどういうことでしょうか。

 

堀井 この時代までの日本では、「マーケティング」という概念は希薄でした。しかし、1933年(昭和8年)頃には、実演宣伝、販売などの活動をいち早く取り入れていきました。それが戦後の復興で再開し、固形ルウ、テレビの登場と相まって、さらには様々な宣伝を行なってきました。たとえばハウス食品では、ハウスカレーの歌やヒットソングを流しながら宣伝する車が、全国各地の小売店を訪問。製品を納品したり、店頭に集まった主婦や子どもたちに宣伝チラシや風船などを配り、喜ばれていたようです。

↑1950年代のカレー訴求キャンペーンの様子。このほか、各社とも宣伝カーや移動クッキングカーなどを用いて、熱心な宣伝を行なったのもカレーにまつわる商品の特徴だそうです(写真提供:ハウス食品グループ本社)

 

堀井 これらを熱心に行ったことで、後にカレーは学校給食の定番メニューに採用され、今ではカレー食がさらに細かくジャンル化されるようになりました。キーマカレー、スープカレー、ご当地カレーなど。こういったカレーにまつわる新しい試みは常に行われ続けてきた歴史なんですよ。

 

細かいジャンルのカレーが爆発的なブームに至った例は、数少ないんですけど、ただ確実にカレー食の裾野を広げたところはあると思います。だから、これだけの長い歴史でも、マーケティング活動をいち早く行ない、国民に浸透させたということから、意外と「市場が落ち込んだ時期」というのはないんです。

 

風間 それこそ震災などの買い込み需要が一巡した後には、消費が落ち込むことはありましたけど、ただ、これは食全体がそういう傾向でしたからね。カレー食だけが著しく下火になったということはないんです。

 

ーー例えば、ハウス食品なら「バーモントカレー」「ジャワカレー」「印度カレー」といったロングセラーがあります。またエスビー食品なら「ゴールデンカレー」「ディナーカレー」などの定番商品があります。こういった商品は、時代ごとに調合を変えたり、進化させているところはあるのでしょうか。

 

堀井 ハウス食品で言うと、味そのものは、時代に合わせて若干は変化していますが、基本的には変えていません。それよりは、「より溶けやすくする」「固形ルウが入っているトレイを使いやすくする」という使いやすさの面でかなり進化しています。

 

風間 エスビー食品もリニューアルは定期的に行なっていますが、ブランド(味わい)のコンセプトの変更はありません。たとえば、「ゴールデンカレー」は“スパイスの香り”、「ディナーカレー」なら“フォン・ド・ボー”などです。そういった中で、そのときのトレンドに合わせたバリエーション商品(『プレミアム』『バリ辛』など)を発売したり、ニーズに合わせた新商品を発売したりして、市場の活性化に繋げることはあります。

↑各社ともロングセラー商品、定番商品は特に味のコンセプトを変えることはなく、時代ごとのトレンドなどに対応しつつ使いやすさを進化させているとのこと(写真提供:全日本カレー工業協同組合)

 

レトルトの登場も、カレー食を落ち込ませなかった要因の一つ

ーー後の1968年(昭和43年)には、初めてレトルトカレーが発売されます。

 

堀井 レトルトもカレーをさらに浸透させる大きなきっかけを作ったと思います。それまでは夕食のご馳走だったカレーが、レトルトの登場によって朝でも昼でも気軽に食べられるようになったわけですから。レトルトがあれば大量に作られなくても良いわけですし。

 

また、今日ではレトルトカレーはカレーの1ジャンルにまでなりました。スーパーでは、各専門店の味をそのまま使ったレトルトカレーが無数に売っていますけど、こういった取り組みも、カレー食を落ち込まさせなかった一因ではないかと思っています。

 

ーー長い歴史の中で「こういうカレーが流行った」「斬新だった」という例はありますか?

 

風間 1987年に激辛ブームというのがあって、辛いカレーが一時流行ったということはありましたね。グリコ社の「LEE」では10倍、20倍という辛みの強い商品が発売になりました。

 

堀井 あとは近年、JAXA監修の宇宙食として「スペースカレー」が登場しました。一方で、アレルギーを持つお子さん向けのアレルゲンに対応したカレーが登場したりなどですね。さらに今では非常食にも使えるような、温めなくても食べられるカレーも出ています。

 

レトルトもそうなのですが、カレーは常に時代のニーズを取り入れてきていて、裾野を広げ続けているのも特徴でしょうね。まぁ、それだけ日本人は「カレーが好き」ということでもありますけど(笑)。

↑時代ごとのニーズへの対応はもちろん、時代ごとの最新技術を反映させた商品化が多いのもカレーの特徴。左から、宇宙食にも採用された「スペースカレー」(ハウス食品)、非常食にも最適の温めなくても食べられる「常備用カレー職人」(江崎グリコ)、アレルギー特定原材料など27品目不使用の「カレーの王子さま」(エスビー食品)

 

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