適度に暗いバー店内で黙々とカクテルを作るバーテンダー。カウンターに注がれたのはいろとりどりのカクテル。そのカクテルグラスを揺らし物思いにふける男。仕事、金、生活、異性……様々な問題をこれからどう解決していくべきか。男はこのバーのカウンターで、一杯のカクテルを飲みながら考えているーー。
……が、しかし! このバーを引いて見ると、なんとトラックの荷台だったのでした。
今回は“移動型バー”として10月から営業をスタートし、メディアでも話題となったBAR TRUCK MEDIA TLUXの紹介です。「トラックの荷台部分に設置されたバー」というインパクトもさることながら、利用するにあたって重要なのはやはりバーとしての機能。営業形態やメニューなど、チェックしてみたいところがいくつかあります。というわけで、ここではBAR TRUCK MEDIA TLUXを運営するクリエイターボックス代表/プロデューサーの篠﨑友徳さんにアレコレ質問してみます。
5月開店のはずが、5月に閉店を決めた幻のバー
ーーそもそもなぜトラックをバーにしようと考えられたのですか?
篠﨑友徳さん(以下、篠﨑) もともとは渋谷の神泉にバーを出そうとしていて物件を借り、内装デザインもでき上がり、スタッフも雇っていました。そのバーは「秘密基地」のような雰囲気を売りにしていて、「いざ開店!」と計画していました。今年の5月開店の予定でしたが狭く、三密になってしまうような店で、新型コロナウイルス感染リスクを避けるため、その5月に閉店を決めました。赤字はすごく出てしまったんですけど、そこでヤメておかないともっと赤字が嵩みますから。しかし、これは本当に悔しかったですね。
その幻の店でバーテンダーとして起用したのが、今のBAR TRUCK MEDIA TLUXの店長兼バーテンダーの久保なのですが、彼と2人で「コロナ禍でも、営業できるような形態は何かないかな」と話をしていました。営業できる条件の第一は換気ですよね。「換気が良くて、皆が罪悪感なく飲める場所があると良いよね」という話をしていて、そこから「移動型の店舗が良いんじゃないか」という結論に至りました。トラックの荷台部分を横にすれば、ある程度の間口が取れますし運搬などで使われるトラックのような開閉の仕組みを応用すれば、すぐできるだろうと。それで、急ピッチでトラックを買って製作し、今年の10月より営業を始めたんです。
BAR TRUCK MEDIA TLUXの営業場所は?
ーー相当な費用がかかったのではないかと思います。
篠﨑 数百万円はかかりましたけど、前述の本来営業する予定だった固定店舗に用意していたランニング費がありましたので。その費用をそのままトラックにかけました。
ーートラックのバーを作っても、常に考えなければいけないのが営業場所ですね。現在は、渋谷のヨシモト∞ホールの敷地で営業されていますが。
篠﨑 借りられる場所はいくつかあります。わかりやすい例だと、キッチンカーが営業している場所。お酒を出しても良ければそういう場所でも良いです。例えば夜間、閑静な住宅街にポツンとトラックを置いて、仕事帰りで疲れたサラリーマンの方に一杯やっていただくのも良い。あるいは夕暮れ時に海岸沿いにトラックを置き、海で遊んでいた人にお酒を飲んでいただくのも良い。場所を借りるのは、個別に交渉しないといけませんが、このようにシチュエーションを変えて営業できるのがBAR TRUCK MEDIA TLUXの一番の利点です。
ーー電気や水道はどうされるのですか?
篠﨑 どちらもトラック車内に完備されていますが、現在営業している場所では、電気は施設からお借りすることができます。トイレだけがないので、そこは利用される方にご判断いただいた上で営業しています。前述のような「営業する場所」を考えた場合は、こういった点も考慮しなければいけないですが、それさえクリアすればどこへでも行くことができます。
また、「1日貸し切りプラン」「1か月貸し切りプラン」なども用意してまして、個人のパーティーからイベントなどにも使用できます。こういったことから、トラックを使った移動型バーではあるものの、例えば企業プロモーションの場、キャンペーンを行う場などでは「メディア」としても使用できると思っています。そういったことからBAR TRUCK MEDIA TLUXという名称にしました。
移動型バーでいただく本格的モクテル
ーーオープンから1か月以上が経ちましたが、利用された方の反響はいかがですか?
篠﨑 渋谷という立地もあり、若いお客さんはもちろん多いですが、ご年配の方もいらっしゃいます。幅広い年齢層の方にご利用いただいていますが、バーとしての機能はチャラチャラした感じにはしていません。例えばグラス一つにしても簡易的なものではなく、良質のものばかりを採用しています。
ーーまた、気になるのがメニュー構成です。価格を見ると、数百円からと安めですが、どんな飲み物を出されているのですか?
篠﨑 普通のお酒とカクテル、モクテル(ノンアルコールカクテル)などですね。1杯数百円から用意していますが、もちろんすごく高いメニューもあります。そこは利用される方のニーズに幅広くお答えしたいと思っています。前述の神泉に出すはずだったお店のコンセプトを引き継いでいるのですが、「安くても本格的な飲み物を出す」ということには、すごくこだわっています。
例えばジントニック。皆さんが普段飲まれるジントニックって、ジンにトニックウォーターを割ったものだと思いますが、うちのモクテルでは、ジンの原料となるジュニパーベリーという実や、カルダモンなど複数のスパイスを、お客さんの目の前で鉢ですり潰して入れています。目の前でジュニパーベリーの実がはじけた香りはかなりフレッシュです。アルコールは入っていないのに、ジントニックの味がするモクテルです。
ジントニック(モクテル)の制作行程をチェック!
ーーたしかに「ただ注いだ」というわけではなく結構な手間がかかっていますね。
篠﨑 ありがとうございます。この他にも本格バー同様のメニューを取り揃えています。
ーーそれではそのこだわりのカクテルを何杯か実際に飲ませていただきたいと思います。
篠﨑 ぜひお試しください。
というわけで、実際にBAR TRUCK MEDIA TLUXで飲んでみた!
【その1】ジントニック(モクテル)600円(税込)
まずは先ほど作っていただいたジントニックのモクテルをいただきます。篠﨑さんが言う通り、一口だけでジュニパーベリーの芳醇さがまず口の中に広がり、後から炭酸のシュワシュワがアタックしてくる感じ。初めて飲む味わいでした。
【その2】フルーツレモネード(モクテル)600円(税込)
レモンジュースとシュガーシロップに加え、木苺とブルーベリーとエルダーシロップという花のシロップを加えたもの。ベリーはその日の入荷によって変更されることもあるそうですが、甘さと酸味が複雑に絡み合うフレッシュな風合い。女性に喜ばれそうな一杯でした。
【その3】モヒート(モクテル)600円(税込)
ハーブを丁寧に洗い、軽く叩いて氷に風味を移した後、シロップを入れライムを絞り炭酸を注いだもの。ハーブの青臭さもなく、とにかくスッキリの味。夏場に飲むのはもちろん、ちょっとお酒を飲み過ぎたとき、リセットする一杯にも良さそうに思いました。
【その4】モスコミュール(モクテル)600円(税込)
モスコミュールは本来、銅製のマグカップでいただくもののようで、BAR TRUCK MEDIA TLUXでも同様のものを採用。ドライなジンジャーエールの刺激に加え、さらに細かくカットした生姜、ローズマリーを添えたもの。スパイシーで刺激的な一杯です。
【その5】ほうじ茶のカクテル(裏メニュー)800円(税込)
篠﨑さんの知人のお茶屋さんが作ったほうじ茶のシロップを採用したカクテル(裏メニュー)。ウォッカとイタリアのリキュール・ガリアーノをシェイクしたもので、口の中に広がる複雑な甘味により、つい何度も口をつけたくなる病みつき感がありました。
気になる冬場の営業は?
ーーモクテルを中心にいただきましたが、どれも本格的で手間がかかっているのに、たった600円〜(税込)。喫茶店でコーヒーを飲むよりも、こちらのほうが変わったメニューを楽しめて良いと思いました。
篠﨑 ありがとうございます。モクテルはもちろん、アルコールが入ったカクテルも全て本格的なものをご提供していますので、ぜひご利用いただきたいですね。
ーーただ、心配なのがこれからの時期「寒い」ということです。お客さんへの対策はありますか?
篠﨑 トラックの中にエアコンが備わっており、暖房はあります。また、ブランケットなども用意しています。ただオープンな環境ではありますので、お客様自身で防寒対策はきちんとしてご利用いただければと思っています。
ーー最後に、今後の展望をお聞かせください。
篠﨑 カウンターと客席が完備された移動型のバーとしては、私たちの試みが日本初です。一方で、各地ではキッチンカーが増えていますよね。そういったキッチンカーと我々のような移動型バーが連携して、いろいろな地域、スペースに「場」を作っていけたら面白いなと思っています。固定の店舗ですと、初期投資がかかる上、その場所の問題で店が流行らなければすぐに退去するというリスクがあります。
しかし、移動型バーやキッチンカーでしたら、最初にクルマを作らないといけないものの、固定の店舗よりは遥かにリスクが少ない。こういった移動型のお店が集まり、様々なところに「場」を作っていくことができれば、これまでとはまた違う街の構造ができていくようにも思っています。まだ未知数ではありますが、他の仲間とのコラボレーションにも挑戦していきたいと思っています。
BAR TRUCK MEDIA TLUXは、コロナ禍での苦境をきっかけに、斬新なアイディアへと転じ実現させた好例だと思いました。本格的なドリンクメニューも本当におすすめですので、渋谷界隈に行かれる方はぜひ利用してみてください!
<SHOP DATA>
BAR TRUCK MEDIA TLUX
現住所:東京都渋谷区宇田川町31-2 ヨシモト∞ホール前
営業時間:18:00~25:00(月曜定休)
■1日貸切プラン
車両レンタル費10時間まで+運転手/バーテンダー同行:10万円(税込)
※飲食費別途/東京都以外は運搬費別途
■1か月貸切プラン
メディア費1か月〜:180万円(税込)〜
撮影/黒飛光樹
【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】