スペイン・バルセロナで開催された世界最大級のIT・モバイルの展示会「MWC 2017」。世界各国のモバイルメーカーが出展し、スマートフォンや周辺機器を含め数多くの新製品が発表されました。今回は、そんな新製品の数々をオーディオ的視点でチェック。昨年発表されたiPhone 7の後を追うように、アナログのイヤホン端子を廃止したスマホや、それに対応するデジタル接続タイプのイヤホン、端子を必要としないワイヤレスオーディオが数多く見られました。
ソニー・LG・サムスン:話題の新製品を聴いてみた
MWCには毎年、ソニーやサムスン、LGといった代表的なスマホメーカーが出展して、その年に最も注目されるスマホ新商品を発表します。今年はソニーが“Xperia Xシリーズ”のトップモデル「Xperia XZ Premium」とその兄弟機「Xperia XZs」などを発表。LGは32bitクアッド DACを搭載した「LG G6」、サムスンはAKGがサウンドチューニングを行った9.7インチのタブレット「Galaxy Tab S3」をそれぞれお披露目しました。まずは各メーカーのフラグシップモデルを、持参したイヤホン「Michelle(ミシェル)」で聴いてみました。
ソニーのブースでは、残念ながら「Xperia XZ Premium」はショーケースの中に展示されており触ることはできなかったのですが、代わりに「Xperia XZs」を試聴できました。本機の進化のハイライトは、最新の「Motion Eyeカメラシステム」を積んだ動画・静止画撮影性能の向上なので、音については基本的に現行最上位機種の「Xperia XZ」とパワー・機能とも同水準となります。
本体はスリムながら、低音の押し出しがしっかりとしたサウンドが大きな特徴。中高域のクリアな解像感も魅力です。オーディオメーカーでもあるソニーグループのスマホだけあって、基本的な実力が高く、Michelleを気持ち良く鳴らしてくれました。
「LG G6」は、日本国内では「isai Beat」も採用しているディスクリートアンプとハイレゾ対応DACを積んだ「Quad-DAC」を継承しています。そのぶんドライブ力はやはりケタ違い。輪郭をクッキリと描く音像の立体感と濃厚な密度感が持ち味です。会場に展示されていた実機にプリインされていたハイレゾ音源は大人しめの音源が中心だったので、日本で発売された際にはぜひアグレッシブなロックやポップスの作品も試聴してみたいと思いました。
サムスンブースでは、ドイツのオーディオメーカーAKGと初めてコラボしたタブレット「Galaxy Tab S3」を試聴。Michelleとの組み合わせでは、清涼感あふれる中高域を上手に引き出ししたAKGらしいサウンドを楽しめました。AKGのサウンドエンジニアは、タブレットの内蔵スピーカーのサウンドもチューニングしているようですが、こちらは騒々しい展示会場では聴き比べることが難しかったので、日本発売を待つこととします。
このGalaxy Tab S3が日本市場でも発売されるのか、いまのところ何ともいえませんが、3月29日に発表されることになりそうな「Galaxy Sシリーズ」の新しいスマホにもAKGのロゴが付いていることを期待しましょう。
LightningやUSB Type-Cを利用したデジタル接続タイプに注目
先月、パイオニアブランドから発表されたLightning直結のイヤホン「RAYZ PLUS」が、MWCのプレイベント「ShowStoppers」の会場に展示されていました。低消費電力・省スペースを特徴とする新世代の「LAM2」チップを乗せて、音楽再生もアクティブ・ノイズキャンセリング機能が使える新世代のLightningイヤホンということで、バルセロナでも注目を集めていました。
スマホに直接デジタル接続ができるメリットは、やはり左右のチャンネルセパレーションの向上で最も強く表れます。そして、それ以上にiPhone 7シリーズのようにアナログのイヤホン端子がないスマホの場合、音楽を聴くためにはマストなアイテムのひとつといえます。スマホがアナログイヤホン端子を取り除いてしまう理由は色々ありますが、HTCの新製品「HTC Uシリーズ」もiPhone 7に続いて、アナログイヤホン端子に別れを告げて登場しました。
本機はUSB Type-C端子によるデジタル接続を音楽リスニングの手段に選択しました。パッケージには専用のデジタルイヤホンが付属してきます。パイオニアのRAYZシリーズと同様に、アクティブノイズキャンセリング機能が使えるほか、ユーザーの耳の形などに自動で最適化するオートキャリブレーション機能「HTC U Sonic」を搭載。専用イヤホンを装着時には192kHz/24bitのハイレゾ再生も楽しめます。
Xperiaの完全ワイヤレスイヤホンが登場!?
昨年秋に発売された「Xperia Ear」のコンセプトを変化させた、両耳完全ワイヤレスのBluetoothヘッドセット「Xperia Ear Open-style」も参考出展されていました。国内でも発売されている現行の「Xperia Ear」は、片耳タイプのBluetoothヘッドセットで、スマホのコンパニオンプロダクトとして、音声通話やメール・SNSアプリなどコミュニケーションをサポートする“スマートプロダクト”として誕生したもの。そのため「音楽を聴くこと」をメインの目的とはしていませんでした。しかし、昨年からトレンドとなっている完全ワイヤレスイヤホンの影響を受け、ソニーブランドの完全ワイヤレスイヤホンを求める声が多かったのでしょう。
今度のオープンイヤー型ヘッドセットは両耳に装着して使います。音道管を耳たぶの下にくぐらせた後で、リング状のフレームを耳穴の中に装着して固定。音道管を伝ってくるサウンドを耳穴の奥に送り届けるというシンプルな構造の製品です。ソニーが展開する「Future Lab Project」の種から生まれた技術を応用したものなのだとか。装着スタイルがユニークなうえ、質感もアクセサリーのように輝いているので、イヤホンを身につけている感じがしないのがポイントかもしれません。オーディオ信号の伝送方式や対応するワイヤレスオーディオのコーデック、本体が防水仕様なのかなど詳しいことは明らかにされていませんが、既存の完全ワイヤレスイヤホンとは一線を画したソニーらしさを感じる製品です。
MWCではXperiaのオーディオ製品がもう一つ発表されました。こちらもまだ参考展示のプロトタイプですが、「Xperia Bluetooth Headset with Speaker」と名付けられています。本体には3.5mmのイヤホンジャックが搭載されていて、接続した有線イヤホンを“ワイヤレス化”できるというもの。それだけでなく、マイク付スピーカーにもなるという変わり種です。こちらの製品もがっつりと音楽を聴くだけでなく、ハンズフリー通話などコミュニケーションをサポートするデバイスという特徴を兼ね備えています。発売時期等は未定ですが、ブースに展示された実機はかなり商品としての完成度が高かったので、近く国内でも発表されるのではないかと推測されます。
元祖・完全ワイヤレスイヤホンの「2号機」も展示
MWCは基本的にBtoBのトレードビジターやジャーナリストなどプロフェッショナル向けのイベントなので、コンシューマー向けの製品はあまり多く展示されていません。特に今年はウェアラブルデバイスの数も少なく、その傾向が強かったように感じました。しかし、やはりイベントを華やかに盛り上げてくれるのはコンシューマーデバイスであり、最大の主役が「スマホ」であることには変わりはありません。
オーディオ関連の製品としては、昨年から世界的にトレンドとなっている「完全ワイヤレスイヤホン」がいくつかのブースで出展されていました。完全ワイヤレスイヤホンは、スマホでのリスニングと相性がよく、見た目のインパクトもあるということで、プロが集まるMWCの会場でも一際注目を集めていました。
なかでも、元祖・完全ワイヤレスイヤホンのイメージが強い、スウェーデンのスタートアップ企業EARINが発表した第二世代モデル「EARIN M-2」のブースは、小規模ながら多くの来場者でごった返していました。
初代機の「M-1」から大きく変わったのは、本体にマイクを搭載してハンズフリーでの音声通話に対応したほか、通話音声をクリアに聞こえるようにするノイズ除去アルゴリズムを搭載したこと。また、タッチセンサー式のリモコンも本体に内蔵されました。これだけ重要な機能を追加しながら、本体の重さがM-1よりもわずか0.1gしか重くなっていないことも特筆すべき点です。
ブースのスタッフに「日本発売の予定は?」と訊ねたところ、「もうすぐ何らかの発表ができると思うので待っていて欲しい」との返答をもらうことができました。日本国内での発表を楽しみに待ちましょう。