デジタル
2019/5/1 10:00

【西田宗千佳連載】GoogleはSTADIAで「濃いゲーム市場」に再挑戦する

Vol.78-2

Googleは2019年中に、新ゲームプラットフォーム「STADIA」のビジネスをスタートさせる。

↑Google「STADIA」

 

なぜGoogleはSTADIAを計画しているのだろうか? ポイントは「STADIAはスマホゲームとは違う市場である」ということだ。

 

Googleは、Androidを擁するスマホのプラットフォーマーである。現在のゲーム市場において、スマートフォンは大きな存在感を持っている。ヒットすれば、毎月数十億円単位のお金が簡単に動くくらい、巨大なマーケットだ。

 

だが一方で、ゲームには別の市場もある。家庭用ゲーム機やゲーミングPCを中心に存在する「濃いゲーム」の市場だ。ゲームを趣味とする人々のための市場、といってもいい。

 

スマホ向けゲームは、裾野を広くして参加者を増やすため、基本プレイ無料&追加課金型の「フリー・トゥ・プレイ」が基本だ。だがそうすると、提供できるゲームの形態にはどうしても制約が生まれる。入り口をとにかく広くしないといけないので、「薄味だが入りやすく、最終的に濃い」形であることが望まれる。一方で、ゲームには「複雑で入り込みにくいが、最初から高い満足度を提供する」形のものもある。家庭用ゲーム機などで一般的な「売り切り型」のゲームは、どちらかといえば後者である。

 

過去には、「売り切りに近いゲームの市場はもはやスマホに太刀打ちできず、消えていく」という予測もあった。だが、それはゲームファンの存在をあまりに軽く見ていた。2013年に発売されたPlayStation 4がヒットしたのは濃いゲームファンに支持されたからだし、個人向けPC市場のなかで唯一、ゲーミングPCだけが伸びているのも、PCで快適に濃いゲームを楽しみたい、という人が多いからだ。

 

ここで話をGoogleのSTADIAに戻す。

 

Googleはスマホゲームの世界では大きな影響力を持つ。だが、「濃いゲーム」の世界では存在感がない。スマホの上でも次第に「濃いゲーム」の市場が広がっており、Googleとしても、有望な「ゲーマー向けの市場」にどう対応するか、が課題となっていたのだろう。

 

ゲーマー向けとはいえ、新しいゲーム機を作って勝負するのは難しい。

 

実は、2012年から2014年ごろ、「次の世代のゲーム機は、スマホの技術を軸にした低価格なものになっていく」という予測が語られたことがある。これは俗に「マイクロコンソール」と呼ばれたものだが、その考え方はシンプルだ。

 

大きな画面でコントローラを使いつつゲームを楽しみたい人向けに、スマホのアーキテクチャを転用した低価格なゲーム機を作ればいいのでは……という発想だ。そうすれば、ゲーム機としてのスマホの弱点である操作性を補うこともできる。そして実は、アップルのセットトップ・ボックスである「Apple TV」もこの発想に影響を受けた製品だ。

 

こうした考えが正しかったなら、高価なゲーム機は姿を消し、スマホゲームがポータブルからテレビへと広がっていくはずだった。だが、実際はそうならなかった。「濃いゲーム」に耐えられなかったからだ。

 

マイクロコンソール的な発想でなく、「濃いゲーム」の市場を手軽に幅広く提供するにはどうしたらいいか? これに対するアンサーとして「ハードウェアを提供しなくてもいい」と考えたのが、GoogleがSTADIAを手がけるきっかけになったと思われる。

 

では、STADIAは成功が約束されたものなのかというと、そうとも言いかねる部分がある。それがどこかは、次回Vol.78-3で解説しよう。

 

週刊GetNavi、バックナンバーはこちら