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2019/9/4 21:30

未来のアパレルはどう変わる? スマホを使った採寸テクノロジー「bodygram」の狙い

買いたい服が見つかったけれど、届いたときにサイズが合うかわからなくて不安――。アパレルのネット通販が普及した昨今、こうした悩みを感じたことがある人は少なくないだろう。多くの企業がテクノロジーによって身体サイズの採寸を効率化しようと試みているが、その中でもスマートフォンのカメラを活用した「bodygram(ボディグラム)」のアプローチは興味深い。本記事では、同サービスを展開するBodygram Inc.の創業者、兼CEOであるJin Koh氏に話を伺った。

 

↑「bodygram」を活用したサービスでの採寸イメージ

 

そもそもスマートフォン×アパレルは相性抜群

まず、日本国内の市場背景に触れておこう。経済産業省が公表した電子商取引に関する市場調査(平成30年度)によれば、日本における2018年のBtoC-EC市場規模は17兆9845億円(前年度8.96%増)、対象を物販に絞ると9兆2992億円だった。このうちスマートフォン経由で行われた取引は3兆6552億円であり、約4割がスマートフォンを通じて行われている。

 

電子商取引のうち「衣類・服装雑貨等」の市場規模は1兆7728億円であり、物販の中でもっとも大きいカテゴリーに相当する。同カテゴリの中では、スマートフォンを通じて行われる取引が5割を超えると推定されており、さらなる伸びしろも期待される。

 

こうしたアパレル通販におけるボトルネックは、やはり商品が手元に届くまで実物を確認できないことだ。質感や肌触りなどが確認できないことは仕方ないとしても、サイズのミスマッチを事前に防げれば、購入を促す上で大きな意味があると言える。さらに、ユーザーの身体サイズを正確に把握することは、5G時代を見据えた「マス・カスタマイゼーション」を実現する上でも重要だ。

 

すでに様々な企業がこの課題に取り組んでいる。例えば、「通販サイト内で、アカウントと紐づいたサイズ情報を登録しておき、適したサイズをレコメンドする」、「手持ちの衣服のサイズを計測し、販売中の衣服と比較する」といった仕組みなどが登場している。

 

SHOPLISTが、世界初「bodygram」を導入

こうした業界のトレンドを踏まえ、注目しておきたいサービスがある。BtoB向けの採寸テクノロジー「bodygram」だ。2019年7月には、CROOZ SHOPLISTが運営するファッション通販サイト「SHOPLIST.com by CROOZ(以下、SHOPLIST)」での導入がアナウンスされた。このbodygramの最大の特徴は、スマートフォンのカメラで人を撮影するだけで採寸が行えること。採寸用のスーツや、3Dボディスキャナー、メジャーなどは必要としない。

 

↑SHOPLISTのアプリが導入を告知している新機能について

 

SHOPLISTでは、実はすでに「VIRTUSIZE」という手持ちのアイテムとのサイズを比較するサービスと連携しているが、bodygramと連携することでサイズのマッチング機能はより充実したものになるだろう。まずiOSアプリにbodygramを活用した機能が導入される予定で、ユーザーは最適なサイズがレコメンドされる「おすすめサイズ」表示機能や、「バーチャル試着体験」を使えるようになるという。

 

「bodygram」とは、何者なのか

bodygramの開発は、もともと米国のサウスベイで生まれたメンズ向けオンラインカスタムシャツブランド「Original Stitch」を展開するOriginal Inc.のBtoB事業としてスタートした。しかし、2019年1月に関連事業部門をBodygram Inc.として独立させており、2019年5月には日本法人のBodygram Japan株式会社も設立している。

 

Bodygram Inc.のCEOであるJin Koh氏は、Original Stitchでの経験を通じ、ユーザー自身がメジャーを使った正確な採寸を行うのは難しいと実感したことが、こうした技術を開発するきっかけになった話す。

↑Bodygram Inc. 創業者 兼 CEOのJin Koh氏。Original Inc.のCEOも勤め、bodygramの開発を始めた人物でもある

 

Koh氏:「bodygramが生まれたきっかけは3年前——。当時、採寸のテクノロジーにおいて大規模な採寸技術も、データベースもないことを感じていました。重要なのはそのスケールです。トラディショナリーな仕立て屋で採寸するなら1日50人から60人が限界。3Dスキャナーを使っても1日100人がよいところでしょう。しかし、今後求められていくものは100万人規模で採寸できる仕組みだろうと考えていました。bodygramはソフトウェアのソリューションなので、グローバルで何十億台という規模があり、ほとんどの人が持っているスマートフォンを介して利用してもらえるのです」

 

bodygramの採寸技術にはどんな特徴がある?

個人が利用できる採寸用アプリとしては、2018年にイスラエルのスタートアップ企業Sizer Technologies LTD. が開発した「Sizer(サイザー)」などが日本市場でもリリースされている。しかし、こちらで採寸できるのは肩幅、胸囲、ウエスト、ヒップ、股下の5箇所のみだ。

 

一方、bodygramを活用するサービスは、身長、体重、性別、年齢を登録した上で、正面からと真横からの全身写真を1枚ずつ撮るだけで、全身16箇所を立体的に推定採寸可能。より高精度なデータが得られると期待される。AIを活用することである程度ゆったりした服を着たままでも体のサイズを採寸でき、汎用性も高い。

↑bodygramを活用した採寸画面のイメージ。正面からの全身写真を1枚撮り……

 

↑続いて、真横からの全身写真を1枚撮る

 

Koh氏:「bodygramの原理は、大きく2段階に分かれます。まず、ディープラー二ングを用いて、写真の中にある人の輪郭を取り出す。実生活において背景は白壁とは限らないので、いろんな背景を用いてトレーニングをしています。続いて、切り抜いた人の輪郭には服が含まれたままなので、そこから実際のボディラインを推定します」

 

また、同技術のアルゴリズムは頻繁に改善されており、2019年7月時点までの12か月間では13回の更新を行っている。

 

実際にbodygramが組み込まれたサービスを使ってみない限り、その利便性に関して正確な評価はできない。とはいえ、こうした数字を見る限り、少なくともカジュアルなファッションアイテムを中心に取り扱う通販サイトにおいては、頼れる存在になるのではないだろうかと感じる。

 

他社ECに展開することで、サブスクリプションなどスケールをさらに大きく

bodygramは独立したアプリではなく、ECサイトやそのアプリ内に組み込まれる仕様が想定される。Bodygram社としてはパートナー企業と一緒にUXまでレビューし、技術面をサポートすることもあるそうだ。専用のアプリを別途インストールする必要がないという意味で、ユーザー視点でも扱いやすいと言える。なお、ビジネスモデルはBtoBのサブスクリプションで、ユーザーは実装した機能を自由に何度でも使える。

 

Koh氏:「元々の『Original Stitch』は一つのブランドであって、ここだけで提供していたのではユーザーの数が限定されてしまいます。我々のミッションはこうした技術を全ての人に届けたいということ。BtoBtoCの形態で、多くのブランドや会社、その先の消費者の皆様に流通させるのが最適なのです」

 

↑Bodygram Japan セールス&カルチャーディレクターの加藤 忍 さん

 

Bodygram Japanの加藤さんによれば、インタビューを実施した8月上旬時点でbodygram導入を公表しているアパレル通販サイトはグローバルで「SHOPLIST」のみ。一方で、寝具メーカーのエアウィーヴも2018年8月からOriginal社と事業提携をしているという。エアウィーヴは採寸したサイズを元に、硬さを調整した寝具をアスリート向けに販売する狙いだ。2社とも日本企業である。

 

Koh氏:「現状のパートナーである2社については、どちらも共通の知人を経由して出会いました。日本のファッション業界におけるIT技術の導入状況は非常に進んでいると感じています。グローバルで見ても、動きの速い地域で、アーリーアダプターだと言える会社もある。私はいろんな会社と話す機会が多いですが、デジタルトランスフォーメーションという部署を持つ企業もあったりして、新しいテクノロジーを見つけてくるプロに対して投資する姿勢がうかがえる。法人向けのビジネスとしては、相性が良いと感じています」

 

確かに、紳士服のコナカは2018年11月から、東京大学発のベンチャー企業Arithmer株式会社(アリスマー)の技術協力により開発した採寸アプリ「DIFFERENCE」を提供している。また、ZOZOはご存知「ZOZOSUIT」に続き、2019年6月に「ZOZOMAT」を発表した。国内企業の「採寸」に対する熱量が高いことは間違いない。

 

しかし、bodygramのスタイルで何よりも注目したいのは、自社サービスの中で囲い込むのではなく、グローバルに向けてBtoBtoCの姿勢で歩き出している点だろう。真打は、bodygramによる採寸データを蓄積し様々な用途に活用するためのデータ・プラットフォーム「BodyBank」だ。

このBodyBankを使うことで、導入企業各社は蓄積した自社ユーザーのデータを活用し、サービス向上に役立てられる。Bodygram社は導入各社が自社のBodyBankを構築するサポートをする。

 

Koh氏:「採寸したデータの蓄積も、将来的な価値を生みます。体型のデータが集まることで、正しい生産管理や、在庫管理ができるようになるでしょう。昨今、ファストファッションにおける余剰在庫が問題として取り上げられることが増えていますが、データを知ることで、サステナブルで倫理ある生産ができるようになるはずです」

 

bodygramはユーザーフォーカスの観点で作っていて、顧客体験を重視している——、とKoh氏は強調する。ひょっとすると世界中のアパレル業界においてユーザー体験をガラッと変えるかもしれない存在として、今後も注目しておきたい。

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