デジタル
2019/8/31 7:00

【西田宗千佳連載】同じヘッドホンでも「汎用のソニー、専用のアップル」

Vol.82-2

AirPodsをはじめとしたアップルのBluetooth関連機器は、接続や設定が簡単なことでよく知られている。AirPodsをiPhoneと接続する場合には、iPhoneの近くでAirPodsのケースを開き、iPhoneの画面に現れる指示に従って2,3度画面をタップするだけでいい。これがほかの一般的なスマホとBluetoothヘッドホンであれば、電源ボタンを長押しして設定モードに入り、OS内のBluetooth設定の箇所で何度かタップして……といった手順を踏む必要がある。

 

このように簡単であるのは、AirPodsが「一応アップル製品専用」の機器として売られているからだ。他メーカーのPCやスマホでももちろん使えるのだが、前提としているのはアップル製品同士での利用だ。実はiPhoneやiPad、Apple Watchなどは、Bluetoothを使い、断続的に通信を行って「周囲にあるアップル製品との接続を簡素化する」仕組みをもっている。電力消費は小さく、普段使っている時にはほとんど気にすることもない。だが、これがあることによって、機器同士の接続がとても簡単になる。iPadやMacでiPhoneのテザリング機能を利用する際、iPhone側の操作をせずに、それらの機器からWi-Fiに接続する仕組みがあるが、これもおなじBluetoothによる通信を生かした機能である。

 

 

↑ソニーWF-1000XM3

 

消費者には技術をあまり見せず、同社機器だけでシンプルに使える仕組みを用意する、というのは、とてもアップルらしいやり方だ。一方でソニーは、そうしたやり方を採用できない。なぜなら、ソニーのヘッドホンは「汎用品」であることを求められるからだ。アップルのように巨大なスマホ市場を持っているわけでもない。あらゆるメーカーのあらゆる機器につながるものでないと、ヘッドホンとしての商品価値が落ちてしまう。

 

そのためソニーは、これまで、Bluetoothの簡単接続を実現するため、「NFC」を使っていた。NFCが入っている機器にヘッドホンを接触させることで設定情報が切り替わり、接続設定が終わるようにしていたのだ。これはNFCの規格上にある機能で、ソニーに特化したものではない。だから、どこのスマホでも使えて汎用製が高かった。

 

だが、ソニーの目論見とは異なり、この機能は「スマホ以外」には広がらなかった。ソニーはBluetoothスピーカーやカメラにNFCを搭載し、「簡単接続」をアピールしてきたが、価格競争力の問題もあり、多くの企業はNFCをスマホ以外に搭載しなかった。

 

そこでソニーは一部機種より、Bluetooth接続の仕様を見直している。WF-100XM3も新仕様を採用した製品だ。新仕様とは、「すでにBluetooth接続が行われていても、新しく別の機器からの接続要求があったら、前の機器での接続をヘッドホン側が切り、新しい機器と接続し直す」というものだ。

 

多くのBluetoothヘッドホンは、同時に1つの機器しかつなぐことはできない。例えばスマホで使っていて、後にタブレットに切り換えて使いたい場合には、「スマホで操作して接続を切った」うえで、「タブレットで接続操作」する必要があった。だが、これだと両方の機器を操作しなければいけないので非常に面倒だ。

 

実はアップルは以前より、「すでにBluetooth接続が行われていても、新しく別の機器からの接続要求があったら、前の機器での接続をヘッドホン側が切り、新しい機器と接続し直す」という仕組みを採用していた。それにアップル機器同士での通信を組み合わせて、より便利に使えるようにしていたわけだ。

 

ソニーは「NFCがあるからそれでできる」と、これまでは判断していたのだが、NFCのない機器でのBluetooth利用が増えてきたため、「すでにBluetooth接続が行われていても、新しく別の機器からの接続要求があったら、前の機器での接続をヘッドホン側が切り、新しい機器と接続し直す」仕様へと舵を切ったことになる。

 

こうした「汎用機器ならではの、周辺環境に合わせた機能の改善」こそ、WF-1000XM3のヒットのひとつの要因である。

 

では、もうひとつのヒット要因であるノイズキャンセル機能はどう生まれたのか? その辺は次回のウェブ版で解説する。

 

 

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