数年ほど前から欧米や日本の企業の採用活動で導入が進んできているのが「AI面接」。文字通り、人間の面接官ではなくAIが面接を行い、受検者の資質を見極めるもので、採用する企業が増えているそうです。そこで、新卒採用や中途採用、アルバイト採用まで、企業の採用シーンでこれからますます増えていくかもしれないAI面接の最前線を取材。AI面接のサービスを提供する企業のトップに話を伺ったり、AI面接を実際に体験したりすることで、まだ謎だらけのAI面接について様々なことが分かりました。
AI面接とはどんなもの?
AI面接とは、AIが面接官となって行われる採用面接の手法のこと。タレントアンドアセスメントが開発し、2017年10月より展開しているAI面接サービスのSHaiNの場合、受検者は企業が送付するメールの手順に従い、スマートフォンに向かって回答します。面倒な手続きはなく、受検者は自分の都合にあわせて、好きな時間、好きな場所で面接を行うことができるわけです。これにより、遠方の企業への採用面接を自宅などで受けることができて、地方に暮らす応募者にとっても、優秀な人材を欲しいと思う企業側にとっても、双方にメリットが得られるのだそう。中途採用に応募する方なら、日中の仕事が終わった後の夜間や週末などでも面接を受けることができます。
また、大人数の書類選考を行う大企業の新卒採用選考では、AI面接の導入で選考期間を短縮して効率化することも可能。地方にある企業では、AI面接導入によって遠方まで面接を受けにいくハードルが下がったことから応募者数が増大し、応募者も採用人数も増やすことにつながったというケースもあるとSHaiNは言います。
AI面接で気になるのが、AIがどのように回答を評価するのかということ。SHaiNでは、(1)バイタリティ、(2)イニシアティブ、(3)対人影響力、(4)柔軟性、(5)感受性、(6)自主独立性、(7)計画力という7つの項目について質問が行われます。さらに受検者の回答した内容がすべて文字起こしされ、受検者が話した言葉がデータとして残されます。
興味深いのは、AI面接の後に企業に提出される評価レポートの作成は人間が行うということ。面接は候補者とAIの間で行われますが、SHaiNでは受検者の回答などをもとに、独自に開発したメソッドを用いて専門スタッフがその候補者の資質を評価レポートとしてまとめているのです。
この点についてタレントアンドアセスメントの山崎俊明代表は「AI面接は採用の合否を決めるものではなく、あくまでも受検者の資質を判断するものです。例えば『柔軟性や感受性が強いが、自主独立性が低いチームワーク型』と評価された人と、『柔軟性は低いが、イニシアティブが高い個性型』と評価された人がいる場合、どちらを良いと判断するかは企業によって異なります」と言います。
AI面接という言葉の印象から、「AIが採用の決定まで行うもの」と思われてしまうかもしれませんが、実際にはSHaiNは受検者の資質を評価するものなのだそう。AIが履歴書などの書類だけで合否を判断するわけでもありません。新卒採用の場合は、エントリーシートや筆記試験、一次面接といった選考過程の最初の段階でAI面接が導入され、2次面接や最終面接は従来と同じように人間が面接官となる面接を行うというのが基本となっているそうです。
AI面接を体験! 難しかった!!
筆者もAI面接「SHaiN」に挑戦してみました。アプリの指示に従って本人認証を行い、「面接開始」のボタンをクリックしてスタートです。
まずアプリが質問を読み上げ、スマホの画面にもその質問文が表示されます。候補者が回答する番になると、1分間の回答時間が画面に表示され、その間に答えなければいけません。回答中はスマホのカメラが起動して、答えている様子が動画で撮影されます。
実際に聞かれた質問は、「大学受験や試合、イベントなどで計画を立て、物事に取り組んだ経験はありますか?」など、面接でよく聞かれそうな内容。しかし答えが不十分とAIが判断すると、「もう少し詳しくお聞かせください」と何度も、深く詳しく繰り返し突っ込まれていくのです。
↑SHaiNの質問画面の一例
同じ質問に対して何度も追求されるのは、人間が相手の面接ではあまり考えられないシチュエーションですよね。面接官が人間なら相手の表情を見ながら、ときには助け船を出してもらえるかもしれません。でもAI面接ではそんな感情的なやり取りもなく、いかに簡潔に自分の考えをまとめて適切に述べることが大切かということを実感しました。
実際にAI面接を受けた方の感想は、同じように「難しい」という声が多いそうです。でも「人と話すのは緊張するけれど、AIの方が話しやすい」などとAIでの面接を好意的に受け取っている方も決して少なくないようです。
AI面接の所要時間は質問や回答次第で、40~60分程度から、人によって数時間にわたる場合もあります。
AI面接攻略のポイントは?
では、そんな難しいSHaiNのAI面接を攻略するためにはどんなことが大切なのでしょうか?
「SHaiN で聞くのは、これからできることややりたいことではなく、過去にどんな経験をしてきたかということです。どんな状況で、どんな課題があったか。そして、どんな行動を起こして、結果はどうなったかを答えることが求められます」(山崎代表)
筆者がAI面接官から繰り返し「詳しくお聞かせください」と追求されたのは、「~だと思います」や「~するつもりです」など、過去の経験ではないことを答えたのが原因なのだそう。
AI面接を攻略するためには「あらゆることに常に問題意識を持って取り組んでいくことが何よりも大切」と山崎代表。学生ならアルバイトや部活動、社会人ならプロジェクトなどで問題意識を持っていれば、AI面接官が追及してくる質問も、自然と答えられるようになるのだといいます。結論として、AI面接であろうと人間の面接であろうと、求められることは同じなのだと言えるのです。
従来の人間同士の面接では、面接官の反応や表情を見ながら会話することができて、ときにはごまかしたりすることも可能。でもAI面接はそれが通用しない分だけ厳しいと感じる方が多くなるのかもしれません。ただ、人間にはどうしても気分や好みで左右されてしまうこともありますが、AI面接なら過去にどのような経験を積んできたか、それをどのように乗り越えてきたかという経験について平等に評価されるという面もあります。
最後に、AI面接に望むにあたっての心構えについて一言。AIが相手だからといって、パジャマや裸で面接を受けたりするなんてことは、もってのほか。過去にはテレビを見ながら片手間に面接を受けていた人もいたそうですが、回答者の様子は動画や写真で記録され、企業にレポートされますのでご注意ください。
取材協力: タレントアンドアセスメント