デジタル
2019/12/31 7:00

【西田宗千佳連載】スタートから「低価格」重視。差別化が難しくなったAndroidタブレット市場

Vol.86-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは、「タブレット市場」。iPadのニューモデル投入で、その優勢は決定的に。今後、各陣営はどう動くのか?

 

タブレットといえば、多くの人はまず「コンテンツを見るもの」「ちょっとネットを使うもの」というイメージを持っているのではないだろうか。便利なものではあるが、スマートフォンほど生活に必須ではなく、PCほど仕事などに役立つものでもない。性能の大幅な進化もあまり見られず、高性能なものでなくても、低価格なものを買っておけば数年は十分……。

 

確かに、タブレットは上記のような使い方が主流だ。リビングでYouTubeを見たり、ウェブを見たりするのに使っている、という人が圧倒的に多く、そこまでのパフォーマンスは必要とされていないかもしれない。

 

事実、タブレット市場は、iPadを除くと、低価格なモデルが主軸となっている。こうした傾向は、タブレットが生まれてすぐの2012年ごろから見られていた。2012年にGoogleが発売したタブレット「Nexus 7」は、7インチで199ドルという圧倒的なコストパフォーマンスで市場を席巻した。この製品があまりに成功しすぎたゆえに、この後に出てくるAndroidタブレットは、なかなかハイエンドなものが売れなかったのだ。当時は本当に「コンテンツを見る」くらいしか用途がなかったので、低価格なもので十分だったということも言えるだろう。

 

Apple iPad
ディスプレイが10.2型に大型化し、Smart Keyboard にも新対応した第7世代。よりPC的な作業が可能に なったiPadOSを搭載しており、精密なペン入力が可 能なApple Pencilもサポート。ストレージ容量別に、 32GBモデルと128GBがラインナップされている。

 

だが、低価格なモデルが中心となると、結局差別化は難しくなる。結果として、調達力がある大手で、中国との関係が深い企業が有利になっていく。Googleは早々に退散した。あとに残ったのは、ファーウェイなどの中国企業と、ハードウエアからは直接的に利益を得ないことを公言しているアマゾン(Fireタブレットシリーズ)くらいである。

 

なお日本国内のタブレット市場では、NECパーソナルコンピュータ(NEC PC)や富士通クライアントコンピューティングなどのシェアもそれなりにある。これらの企業は国内中心にビジネスをやっていて、数量的には有利とは言い難い。だが、現在は両社ともレノボグループの傘下であり、調達ではレノボの力が使える。そのうえで、日本の量販店網や文教市場に強いことが、他社との差別化要因になっているというわけだ。特にNEC PCは、Androidタブレットに同社らしいサポートをセットにするなどして、「高齢の親や子どもにプレゼントしやすいタブレット」を実現している。決して大きなビジネスとはいえないが、「利幅は薄いものの、ライバルが少ない」国内量販店を軸にしたビジネスとして、手堅く展開している。

 

とはいえこれは、現状のAndroidタブレットの付加価値が性能で生まれたものではないということも示している。つまり同市場は、IT機器としては特異な「ハイエンドが存在しない」状態になってしまっているのだ。海外では、いくつかハイエンドAndroidタブレットも存在しているのだが、そうしたモデルのほとんどは日本市場には入ってきていない。

 

こうした環境は、「iPadというライバルが強すぎる」がゆえに生まれたともいえる。では、アップルのiPadはどうなっているのか? どのように自社の市場を構成していったのか? それは次回のウェブ版で解説していく。

 

 

 

 

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